人と天才と神の玉座(プロローグ)
某日。ピノコニーまで空いた脚本の空白期間。銀狼のゲームアカウントを取り戻し、仙舟「羅浮」からカフカと刃を回収したインシァンが少しずつ進んできた研究をまとめていると、送られてきた一通のメッセージがスマートフォンを鳴らした。
「……あ、お母様だ……!」
そう言って彼女はスマホのロックを開く。ルアンからのメッセージだった。
『インシァンへ』
『近々、天才クラブの用事で宇宙ステーション「ヘルタ」を訪れることになりました』
『良かったら、インシァンも来ませんか?』
『あなたと会えるのを楽しみにしています』
『母より』
送られてきたメッセージに目を通すと、インシァンは『喜んで!』と返信する。そして彼女はカフカにそれを伝えると、意気揚々と隠れ家を出発した。
◇◇◇
「お久しぶりです、お母様!」
「……インシァン?ああ、来てくれたのですね」
宇宙ステーションの主制御部分、その一角の休憩スペース。ルアンを見つけるなり嬉しそうに駆け寄ってきたインシァンを彼女は優しく抱き締め、そしてその頭を撫でた。
「最近はどうですか?インシァン。研究は順調ですか?何か困ったことがあったら、いつでも言ってくださいね。母があなたの力になりますから」
「ありがとうございます、お母様。最近は、凄く順調なんです。サンプルも良いのが手に入って……そうだ、今度ピノコニーへ行くんです。お母様にも、お土産を買ってきますね」
ルアン・メェイをもてなすために「ヘルタ」のスタッフが用意し、カフェのメニューに加えられた、惑星ブルーの伝統菓子を口に運びながら談笑する2人。天才クラブ#81であるルアンはともかく、インシァンもその道ではかなり名の知れた研究者であるのだが、厭世的なルアンとその活動の都合上あまり身を晒すのを良しとしないインシァンの人となりを知る人間は極めて少なく、少なくとも今お茶をしている彼女達がそうであると気付く者はいない。
「インシァン、この前はカンパニーに行ったんですよね。ピアポイントは、どうでしたか?」
「なんというか、壮観でした。見渡しても、見渡してもビルが並んでて……ああ、そうでした」
「こんなものも貰ったんです」とインシァンはコートのポケットから1枚のチップを取り出し、ルアンに見せる。彼女は「それは良かったですね」と優しく微笑んだ。
そして、彼女達は他愛も無い会話を続ける。最近美味しかったお菓子に、お気に入りの曲に、思ったよりも面白かった演劇に、最近友達に勧められたスマホゲーム。同じような菓子を食べながら同じように笑う彼女達の姿はまるで年の近い姉妹か、あるいは双子のようだった。
「そういえば、今日は何のために「ヘルタ」まで?天才クラブの用事、とは聞きましたけど……」
「私もヘルタに呼ばれただけで、まだ何も。ですが、スクリューガムも呼ばれているそうですから、おそらく模擬宇宙についてなのでしょう。インシァンも来ますか?」
「いえ、今回は少し宇宙ステーションを見て回ろうかと。お母様の研究も見てみたいので。もし何かあったら、私の意見はお母様と同じ、ということにしておいてください」
「分かりました。ヘルタにもそう伝えておきます」
ルアンより一足先に食べ終えたインシァンは「ごちそうさまでした」と手を合わせると、カフェのキッチンの方にお皿を下げる。そして彼女は「では、また後で。お母様」とルアンに一旦の別れを告げると、宇宙ステーションの人の群れの中に消えていった。ルアンは菓子のお代わりを口に運びながら、彼女の成長を喜んでいた。
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