星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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インシァンの里帰り(その4)

 ルアン宅の風呂場は、まるで銭湯などの大浴場のような作りだった。洗い場はいくつもあるし、風呂場そのものが半屋外の露天風呂のようになっている。あとサウナもある。

 彼女達にとってはピノコニーの少し前、任務先でカフカに連れて行ってもらった以来の、久々の温泉だった。

 

「あれ、ホタルちゃん、少し太りましたか?」

「えっ、うそっ!?」

 

 背中を流しながらインシァンが尋ねると、急いで鏡に目をやり、お腹の皮をぎゅっとつまむホタル。それを見たインシァンは、クスッと笑った。

 

「ふふっ、ごめんなさい、ホタルちゃん。冗談です」

「なんだ、びっくりしたよ……」

「ま、実際インシァンはちょっと太ったみたいだけど」

「え」

 

 解いた髪にトリートメントを付けていた銀狼からの突然の剛速球にインシァンはかなり驚いたらしく、普段は見せないくらいの勢いでその目を見開く。「あ、ほんとだ」とホタルは鏡越しにインシァンの身体に目をやり、その身体を軽くつつく。

 

「お腹周りっていうよりはおしりとかおっぱいとか……」

「ごめんなさいホタルちゃん、さっきのはちゃんと謝るので触るのはあんまり……」

「ふふっ、楽しそうな話をしていますね」

 

 ルアンが風呂場に姿を現したのはそのタイミング。彼女は何かが入った木桶を棚に置くと、彼女達の隣で身体を流し始めた。

 

「あ、お母様、えっと、これは……」

「大丈夫ですよ、インシァン。あなたは十分痩せていますから、もう少しくらい肉が付いている方が魅力的です」

「お母様ぁ……」

「マザコン……」

 

 そして彼女達は身体を流し終えると、月の浮かぶ湯船に浸かる。ルアンは静かに湯船に木桶を浮かべた。

 

「そういえばルアンさん、その桶って何が入ってるの?」

「ほら、今日は月が綺麗でしょう?こういう日は、お風呂に入りながら梅酒を飲んだりするんです。今日はノンアルの梅シロップですけれど、良かったらホタルちゃん達も、と」

 

 「もちろん、お供もありますよ」と月餅と一緒にグラスを差し出すルアン。三人もそれを受け取り、「かんぱーい」とグラスを打ち合わせた。

 

「あっ、だいぶさっぱりしてるね。甘みがすごいすっきりしてる」

「隠し味、塩とレモン、ですよね。スポーツドリンクみたいです」

「もしかしてサウナ用じゃない?塩入ってるならそういうことでしょ」

「正解です、銀狼ちゃん」

 

 そう微笑んで、ルアンは話を続ける。なんでもヘルタに勧められてサウナデビューしたところ割と実感できるくらい研究効率が上がったらしく、それからというもの色々調べてサウナー生活を満喫しているらしい。「お母様が楽しそうで何よりです」なんて言わんばかりにインシァンはその話を聞いていた。

 

「そういえば、あたしサウナって入ったこと無いかも」

「おや、そうなんですか?おすすめですよ。頭がすっきりするというか、身体の中の澱んだものが抜けていくような感じがするんです」

「だったら入ってみようかな……」

「分かりました。でしたら、ストーブに火を入れておきますね」

 

 ルアンは一旦湯船から上がると、サウナの壁の端末を操作して内部の温度を上げる。彼女達はその間も梅シロップを啜りながら月餅を頬張っていた。

 

「やっぱり月餅は胡麻が一番です……」

「インシァンのは胡麻餡なんだ。あたしは黒糖だよ」

「私さつまいも〜。一口いる?交換だけど」

「良いですよ、お願いします」

「あっ、あたしもあたしも!」

 

 そして彼女達が食べ終わるのを待ってから、ルアンは「準備が出来ましたよ」と声を掛けた。

 

◇◇◇

 

 熱されたストーブの上、サウナストーンにハーブエキスをふんだんに含んだ水滴が滴り、心地よい香りとともに部屋の温度が上がっていく。四人はその中で静かに汗を流していた。

 

「あっつぅ……」

「……ふぅ」

「るあんさん……いまなんふん……?」

「今は……6分手前ですね。三人とも、無理だと思ったらすぐに出るように。せっかくのサウナで身体を壊してはいけませんから」

 

 ルアンがそう伝えてからおよそ40秒後、銀狼もインシァンもホタルもほぼほぼ同時にギブアップ。少しおぼつかない足取りの彼女達の手を取り、ルアンは「もう少しでご褒美の時間ですよ」と水風呂までエスコートする。そして彼女は三人の身体を流してから、自分の身体も流した。

 

「ねえ銀狼、思い出したんだけど、物って急に温めた後に急に冷やすと壊れるんじゃなかったっけ」

「……まあやってからのお楽しみってことで〜」

「騙されたと思って、ホタルちゃん」

「もちろん、無理にとは言いませんが……」

 

 左右から銀狼とインシァンに囁かれ、水風呂へと誘導されていくホタル。そして水面に足先が触れた瞬間、ホタルは「ひゃっ!?」とひどく驚いたような声を漏らした。

 

「こ、これ……想像以上に冷たいんだけど……」

「ヘルタ垂涎の12度ジャストです」

「ハードだねルアン・メェイ」

「肩まで浸かるんですよ、ホタルちゃん」

「え……」

 

 絶句するホタルの隣でさもそれが当然であるかのように肩まで浸かるルアン、わずかに震えながらも同じようにするインシァン、「っ……」と声をこらえながらも身体を沈める銀狼……ホタルは覚悟を決めて水風呂の中へと入った。

 

「────っっっっ!!??」

 

 声にならない声がホタルの口から飛び出した。「30秒だけ我慢してくださいね」というルアンの言葉も届かないくらいに必死な彼女。30秒後、そこそこなダメージを負ったインシァンと銀狼は自力で、ほぼ瀕死のホタルは余裕綽々のルアンによって引き上げられ、風呂場の片隅に設けられた、畳敷きの外気浴スペースに運ばれた。

 

「……あたし、サウナはもう良いかな……」

「結論なら、もう5分だけ待ってみるのをおすすめしますよ」

「5分待ったって──」

 

 そう言いかけた瞬間、ホタルの身体を何とも言えない幸福感が包む。景色も相まって桃源郷と錯覚するかのような今この瞬間。

 

「ふふっ、ととのえたみたいですね」

 

 ルアンは笑った。

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