星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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研究:八日目の祝福
一人の旅人


 アスデナ星系、ピノコニー、「黄金の刻」。

 「調和セレモニー」を舞台に「秩序」の残党が企てたとある星神の再臨、そして一人の司祭が夢見た永遠の楽園、「美しい夢」は「開拓」(ナナシビト)とその仲間達の奮闘によって打ち破られた。

 そして再び喧騒の戻った夢の地を、一人の旅人と、その友人が歩いていた。

 

「全く、あんな騒ぎがあったのにあっという間に元通りとは、ファミリーの団結には恐れ入ったもんだな!」

「ええ。何が起きようと、結局「夢の地」という在り方は変わりませんから」

 

 道行く彼らの頭上には無数のネオン看板、広告が輝き、大きなスクリーンでは不調を脱した歌姫、ロビンの新曲が大々的に喧伝されていた。

 ゆったりとした、穏やかな、あるいは酷く疲れ切ったようなその歩調に、友人は少し意地悪く言う。

 

「良かったら僕に聞かせてくれよ。身を粉にして働いてきた自分がいなくなっても見事に回ってる街を見る気分ってやつをさ」

「何も言うことはありません。ワタシがいなくても回っているということは、ワタシのやってきたことは間違っていなかったということなのですから」

「ふん、あんなに強くお灸を据えられたってのに、君も懲りない奴だな。サンデー」

 

 ピピシ人のような見た目をした友人、ワーヴィックが「ピノコニーで一番のお尋ね者の君と一緒とか、こんなスリリングはどんな憶泡でも味わえないね」と皮肉めいたことを言って笑うと、旅人……サンデーは「奇遇ですね、ワタシもです」と笑い返した。

 

「しかし、今のワタシが頼れる相手はもうアナタしかいないのです。……そう、アナタしか」

 

 ロビンの看板を見上げながら呟く彼に、ワーヴィックは「本当に素直じゃないな」とため息を吐く。

 

「まだ彼女はピノコニーにいるんだぞ?挨拶くらいしたらどうなんだ?」

「ワタシのことを一番よく知っているアナタなら、そんなことは分かっているでしょう。……「逃亡犯」という身の上で会いに行けるほど、ワタシには勇気がないことを」

 

◇◇◇

 

 しばらく歩いていた彼らは、「黄金の刻」の中の公園、エディオンパークに辿り着いた。

 ハウンド家が何か重要そうな捜査を行っているのを確認したワーヴィックは「君は面倒事ばっかり持ってくるな……」と頭を掻く。

 

「それとも、これも君のお得意の計算ずくってやつなのか?そこまでして僕を困らせたいんだな」

「さあ、どうでしょうか。しかし、元々ワタシとアナタは相反する存在だというのに、ワタシはアナタに二度目の生を差し上げたのです。多少働く程度であればバチは当たらないのではないですか?」

「ギブ・アンド・テイクってやつか、君らしくない。レディ・ヒスイにでも吹き込まれたか?」

「いえ、どちらかといえば……ワタシ個人の道徳の話です」

「はいはい、わかったわかった。……しっかし、ほんと君って変なやつだよな。逃亡犯ってご身分になってまで脱獄して何をするかと思えば、「最後にピノコニーを見て回りたい」なんて。ついこの前まであんなに我が物顔でピノコニーを動かしてたばっかりじゃないか」

「だからこそ、ですよ。これがきっと……永遠の別れとなりますから。ワタシの故郷……ワタシの過去との」

 

 そして彼は言う。

 ネクタイは真っ直ぐに、シャツはベストから出ないように、スラックスのラインは直線になるように保ち、常に靴の先に合わせる……彼が守ってきた規律は、当然最後の別れを告げる瞬間もそうあるべきだ、と。

 

◇◇◇

 

 エディオンパークは奇妙なルールによって縛られていたが、それは彼が幼少の頃に定めたものだった。

 初めての失敗、初めての成功、初めての好奇心、初めての学び……一歩踏む度に記憶の片隅に転がったかつての日々を思い出しながら、彼は「結局、あの頃からワタシは何一つ変わっていなかったようです」と自嘲気味に笑った。

 

「もう良いのか?」

「ええ。思い出とは確かに代えがたいものですが……それでも、それに別れを告げなければ踏み出せない一歩はあるのです」

 

 サンデーがそう答えると、ワーヴィックは「はっ、君も随分と言うようになったじゃないか」と短い腕を組みながら言う。

 彼らは次の目的地へと進んだ。




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