星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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旅は道連れ、世は情け

 次の目的地、オーディ・ショッピングセンターへと向かおうとしていたサンデーとワーヴィック。

 交差点で止まっていた彼らの背に、一人の男が声を掛けた。

 

「突然声を掛けてすまないんだが、そこには行かない方が良い」

 

 何処かで聞いたような声に、サンデーは振り返らない。

 代わりにワーヴィックが振り向き、「何かあったのか?」と尋ねる。

 彼は首を縦に振った。

 

「近くで何か問題が起きたらしく、ファミリーが調査中なんだ。……君、大丈夫か?」

 

 振り返らないサンデー、いや、実際には「調律」によってそうは見えていないのだが、彼を不自然に思ったのか、男は彼へと声を掛ける。

 サンデーはようやくそこで振り向き、「ええ、ご心配なく」と答えた。

 

「しかし、「星核」の騒動もありましたし、少し心配になりますね。もしかしたら、まだ何かを企んでいる人がいるのかもしれません。その言葉通り、別の道を探すことにしましょう。……アナタのご忠告に感謝します」

「ああ、そうしてくれ」

 

 そう言って去ろうとしたサンデー。

 ワーヴィックも彼とともに歩き出す。

 その背中を、男は「少し待ってくれ」と呼び止めた。

 

「はい、なんでしょうか?」

「……車には気をつけるようにな。美しい夢とはいえ、事故に遭わないに越したことはない」

「……どうも」

 

◇◇◇

 

 オーディ・ショッピングセンターへの迂回ルート、先程の交差点とはだいぶ離れた街角。

 そこでようやく、サンデーは足を止めた。

 

「あの男……明らかに只者じゃないぞ。君もよく誤魔化せたな」

「ええ、幸運でした。……しかし、星穹列車はもうピノコニーを旅立ったと聞いていたのですが……何故……?」

 

 少し考えた後、サンデーは「予定を変えるほどではないですが、少し用心しましょう」とワーヴィックに言う。

 彼の頭にあったのは、自分がいない間にピノコニーに何かが起こっていないか、という一つの心配事。

 しかし、もう少し考えた後、彼は「いえ、それほど甘くはありませんか」とため息を吐いた。

 その背を男の杖が、その重力が捉えていた。

 

「今度は何も企んでいないことをお約束します。ですので、少し、釈明の機会をいただいてもよろしいですか?……星穹列車のヴェルトさん」

 

 その言葉に男──ヴェルト・ヨウは「いいだろう」と静かに頷く。

 

「だが、その前に俺の質問に答えてもらおう。短く、簡潔に。両手は後ろで組んでくれ」

「……ご安心ください。今のワタシにはアナタ方への敵意も、ピノコニーへの悪意も、「秩序」への願望もありません。当然、抵抗の意思も」

「だが君は先程「調律」を行っていた。その言葉をハナから否定するつもりもないが、安易に受け入れるつもりもない。……何故、君がここにいる?」

 

 ヴェルトが尋ねると、サンデーはしばし沈黙の後、口を開いた。

 

「……どうやら、アナタの信頼を得るにはこれしかないようです。……ワーヴィックさん、もう黙らずとも良いですよ。彼はワタシ達の敵ではありません」

「やっとか……心臓が押し潰されるかと思ったな……」

 

 そして彼らは、これまでサンデーの身の上に起こった全てのことを包み隠さずヴェルトに明かした。

 カンパニーの十の石心、ジェイドに助けられたことから、今に至るまでの全てを。

 

「……つまり、君はピノコニーを離れるつもりで、そのためにここに戻ってきたんだな」

「ええ。故郷に別れを告げること、それ以上の目的は今のワタシにはありません。……お願いします、ワタシがこの先の旅路で悔いを残さぬよう、一度きり、目を瞑ってはいただけないでしょうか」

 

 サンデーがそう頭を下げると、今度はヴェルトが沈黙する。

 そして数秒の間が開き、彼は「分かった」とその首を縦に振った。

 

「だが、ピノコニーにいる間は俺も同行させてもらう。それが1つ目の条件だ」

「ええ。……ありがとうございます、ヴェルトさん」

「良いんだ、俺も故郷を離れる時は色々あったからな……君のその気持ちを蔑ろにはしたくない。だが、もう1つだけ条件がある」

「……聞かせてください」

「あくまで、これは俺個人の意見だ。この件については仲間にも知らせる必要がある」

「皆さんも、ピノコニーにいるのですか?」

「ああ。二人共、一緒についてきてもらう。それが2つ目だ」

 

 ヴェルトが口にした条件に、サンデーは「それで構いません」と静かに頷く。

 そして二人の視線が向けられたワーヴィックは「わかってる、僕からも異論はないさ」と答え、三人は出発した。

 

◇◇◇

 

「着いたぞ、この辺りにいるはずだ」

 

 そう言って足を止めたヴェルトに倣い、サンデーもそこで立ち止まる。

 そして彼は「一つ疑問があるのですが」とヴェルトに声を掛けた。

 

「「秩序」の目論見は、アナタ達の手によって確かに打ち砕かれました。ですから、既に星穹列車は新たなる「開拓」へと旅立ったと思っていたのですが……どうして、まだこの夢に留まっているのですか?」

「……」

「……」

 

 ヴェルトも、ワーヴィックも俄に沈黙する。

 ほんの少しの間の静寂の中で、サンデーは口を開いた。

 

「……まさか、再び何らかの問題が発生したのでしょうか?」

「そうだ、と言ったら、君はどうするつもりだ?」

 

 その疑問に、ヴェルトは同じく疑問符を添えて返す。

 サンデーは少し考えた後、どこか自嘲気味に「その役割は、ナナシビトの皆さんの方が相応しいでしょう」と答えた。

 

「すまない、少し意地悪な言い方をした。ピノコニーに危険があるというわけじゃないんだ。星穹列車には今、特別な乗客が乗っていて、俺達は彼女を故郷へと送り届けるという依頼を受けていてな。その過程でここを再び訪れたというだけだ」

「なるほど。ところで、その乗客というのは……どちらのことでしょうか?」

 

 サンデーがそう問いかけるなり、「ば、バカな……」と目を見張るヴェルト。

 そこでは特別な乗客──仙舟の停雲が、気の遠くなるような人数に分裂していた。

 

◇◇◇

 

「……あ!さっきのお姉さん!」

「はい、ご無沙汰しています。どうでしたか?「多重人格キャンディー」は」

「最高だよ!どいつもこいつも引っかかってくれるんだ!あの天環族の旅人も、狐族の商人も、舐めたらすぐにバラバラになったんだよ!」

「ふふっ、そうですか。楽しんでいただけたなら何よりです」

「本当にすごかったよ!お姉さん、天才クラブに入れるんじゃない?」

「……ええ、そうですね。もしかしたら、いつかは」

「うん、応援してる!」

「……ありがとうございます。それではまた。……あなたに「運命」の祝福がありますように」

 

 桜の匂いをまとわせた彼女は、軽やかな足取りで去った。

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