「これは意外な出会いね。まさか、ピノコニーでスクリューガムさんと出会うなんて。天才クラブはセレモニーには興味がないと思ってたわ」
「それは正しい推論です。確かに私達の下に招待状は届けられましたが、「調和」の式典には食指が動かなかったもので」
暉長石号改め、ウルトラスーパーダストボックスオブキングエックス号、略してUSDX号(星命名)のラウンジで、姫子とスクリューガムは話していた。
「それに、ピノコニーにはミス・インシァンがいましたから、「知恵」が求められる場面があろうとも問題ないと考えていました。しかし、そのために皆さんの夢のような冒険と活躍を見逃してしまうとは。結論:過度な合理性は、時に予想外の損害を生み出し得ます」
「ふふ、天才達があの舞台にいたのならば、一層盛り上がる物語になったでしょうね」
「それはどうでしょうか。自説:天才も万能とは限りません」
そしてスクリューガムはピノコニーでの星穹列車の活躍に労いの言葉を述べると、「ところで」と話題を切り替える。
「星穹列車の次の目的地が決まったそうですね。なんでも、ガーデン・オブ・リコレクションとの協力体制を築いたとか」
「あら、ヘルタから聞いたのかしら?今はまだ、ガーデンからそのような提案があったというだけの段階よ。オンパロスはまだ列車のアーカイブにも情報がない、「開拓」にとって未踏の領域。だから少しでも多くの情報を得るために「知恵」の力を借りようと思ったの」
「おや、それだけが理由ではないように思えますが」
彼が姫子の言葉にそう反応すると、彼女は「流石。その目は誤魔化せないわね、スクリューガムさん」と頷いた。
「ブラックスワンによると、オンパロスは3つの運命が交わった世界だそうよ。そして、その一つが「知恵」」
「論理:一般的な行人の軌跡がガーデンの鏡に残ることはありません」
「ええ。だからオンパロスにはおそらく使令が、もしかしたら星神も関わってくるかもしれない。そうなると、天才達が何かを知ってる可能性も辿るべきだと考えたの」
姫子の言葉に、スクリューガムはわずかに窓の外の景色へと視線を動かす。
その動きを以て、期待には応えられないと示すかのようだった。
「今の天才クラブにおいて、「模擬宇宙」を除くメンバー間の交流はほとんど途絶えおり、加えて、大部分のメンバーは「
「そう……ヘルタからの返事もそんな感じだったわ。でも興味はあるのか、少し調べるって言ってたわ。まあ、彼女は「記憶」に強い興味を持っているし、ガーデンの名前が出たからかもしれないけれど。……そうそう、その時に彼女からルアン・メェイを紹介してもらったの。それで彼女に頼まれて、「ギンヌンガガプ深域」にある古獣の亡骸を引き上げて、持ち帰ったのだけれど……まさか、「死んだはずの友人」に出会えるなんてね」
「ミス・停雲……あの狐族の少女ですね。これもまた、ある種の有機生命体が持つ「縁」というものなのかもしれません」
「ええ、そうね。きっとこれは「奇縁」なんて呼ばれるものなんじゃないかしら」
「であれば、星穹列車はその奇縁に報いるために彼女を故郷へと送り返すことを決めたのでしょうか?」
スクリューガムが尋ねると、姫子は「半分そうで、半分違うわ」と柔らかな微笑みとともに答えた。
「私達ナナシビトに、仕事とお節介の仕切りなんてないの。誰かが何かをが望んでいて、私達にそれに応える力があるというなら、私達は喜んでそれに応じるわ」
「なるほど。ところで、肝心の彼女はどちらへ?」
「ふふっ、ピノコニーの楽しみ方も、「停雲」のことだって、あの子達が一番よく知ってるわ。今頃は……そうね、「黄金の刻」を盛大に楽しんでるはずよ」
「そうでしたら何よりです。……それと、ミス・ヘルタとの会話ログを遡った結果、一つ、興味深いことを彼女は言っていました」
「興味深いこと?」と姫子が聞き返すと、スクリューガムは首を縦に振る。
「もしかしたら、彼女がオンパロスにも関係してくるかもしれません」
「彼女?」
「……「次の冒険には、どうしてもあの子が必要になる」、と。おそらく、あなた達にはもう一方の名の方が馴染み深いでしょう」
そしてタイを締め直してから、スクリューガムは言った。
「インシァン・ルアン・メェイ。先程上がったミス・ルアン・メェイの一人娘にして、星核ハンター「桜花」その人です」
◇◇◇
「……分かった。つまり、君達がピピシ人のキャンディーを使ったいたずらに引っかかった結果、停雲さんが分裂してしまった、そうだな?」
「そういうこと。流石ヨウおじちゃん、話が分かるね」
「そうそう……って、一括りにしないで!星が「絶対に食べる!」って聞かなかったせいなんだから!」
「その割にはなのかも乗り気だったじゃん。大爆笑なのか爆誕だったね。爆だけに」
「こらこら、二人共少し落ち着け」
そう言って星となのかをなだめたヴェルト。
彼はもう一度溢れかえった停雲の群れに目をやると、「心当たりはあるか?」とオムニックの女性に偽装したサンデーに声を掛けた。
「夢境は文字通りの夢……現実に比べると、憶質の性質上とても不安定な世界です。イタズラによる外部からの刺激が身体を構成する憶質に影響を与え、まるで身体を飛び出したかのように実体化したのでしょう。少し珍しいことではありますが、荒唐無稽なものではありません」
「……ええっと、ヨウおじちゃん、この人は……?」
なのかが尋ねると、ヴェルトも「もう変装の必要はないんじゃないか?」と彼に声を掛けた。
サンデーもそれに納得し、自らに掛けていた「調律」をワーヴィックに解かせる。
そして一目見るなり、なのかも星も、その目を大きく見開いた。
「ど、どど、どどどどどういうこと!!?」
「まさかヨウおじちゃんも「秩序」陣営に……」
「分かった、まずはもう一度落ち着いてくれ」
もう一度二人をなだめたヴェルトは、経緯について一から話していく。
そして彼が「今の彼が背負うリスクに対して俺達を欺く意味はあまりにも少ないだろう」と説得すると、彼女達も「なら良いか」という感じに受け入れた。
「それと、こちらがサンデーさんの古い友人のワーヴィックさんだ」
「どうも、綺麗なお嬢さん。それと……おっと、例のピノコニーの有名人じゃないか。聞いたよ、こいつを特大の交通事故に合わせてやったんだろ?」
「そりゃもう列車でGOって感じだよ。「秩序」さえも私を止めるには至らなかったみたいだね」
「もう、この子ったらすぐ調子乗っちゃって……って、そんなことより停雲だよ!サンデー、あんたの力だったら停雲を元にもどせたりしない?」
「そうですね……分かりました、ワタシでよければ皆さんを手伝わせてください」
サンデーが頷くと、星となのかは「こっちこっち!」とオーディ・ショッピングセンターの奥へと駆けていった。