「つまり、停雲さんは絶滅大君の災いに巻き込まれたものの「天才」の手によって命を救われ、アナタ達はその天才に頼まれて彼女を故郷まで送り届けることになった……そういうことなのですね」
「ああ。そういうことだ」
サンデーの言葉を肯定して頷くヴェルトの隣では、彼に代わって停雲の「調律」を行ったワーヴィックが痛む頭を押さえる。
「くっそ……こんなことになるんだったら君に任せておくべきだったな……」
「おや、アナタがそのような弱音を吐くとは中々珍しいですね」
「仕方ないだろ……後少しで死んでたんだぞ……」
そしてワーヴィックは、自分にしか聞こえないような声で、一言付け足した。
「……僕の方がな」と。
「大丈夫ですか?私のせいでご迷惑をお掛けしてしまっているのでは……?」
「……いや、君は悪くない。純然たる被害者に謝らせるほど僕も悪趣味じゃないからな」
「でもワーヴィックさん、だいぶ顔色悪くない……?」
「ヨウおじちゃん、もしアレだったら引き続き私となので停雲のこと案内する?少なくとも無敵の銀河打者がいる限り安全は完璧に確保されてるよ」
なのかと星からの提案に、ヴェルトも「それが良いかもしれないな」と同意する。
そして彼がサンデーとワーヴィックにも確認すると、二人もその首を縦に振り、彼らはまた二手に別れることになった。
「サンデーさん、ワーヴィックさん、この度はお世話になりました。またお会いできることを願っております!」
別れの言葉を告げる停雲。
この道もまた、そう遠くない未来で再び交わるのだろうか。
そんなことを考えながら、サンデーは「ええ、楽しみにしています」と声を返した。
◇◇◇
別れとは、最も普遍的な、新たな旅立ちというものの副作用である。
それは誰もにとって平等に訪れ、かつて「神」の座に最も近づいた彼にとっても、決して例外ではない。
彼は最も重い荷物を下ろすために、そこへ足を踏み入れた。
「ドリームボーダー……ここにも、「秩序」が残っているのか?」
ヴェルトが尋ねると、サンデーは首を横に振った。
「いえ、正直に言ってしまうと、ワタシもここへ来るのは最後まで迷っていました。けれど、この道には数多くの不確定要素があり、ならば、もう1つくらいそのようなものを増やしてもいいと思ったのです。……これが、最後になるかもしれませんから」
そう言って視線を向けた先。
そこには、ドリームボーダーの仮設足場から夜空を見上げる歌姫の姿があった。
「……そうか。だが、なぜ彼女がここにいると分かったんだ?」
「いえ、分かってなどいませんよ。彼女のお気に入りの場所にはいくつか心当たりがありましたが……今回は、ただ幸運だっただけです」
「運任せとは……君ももう、俺達が戦った君ではないんだな」
「ええ、そう言っていただければ幸いです」
そして「俺も邪魔をするつもりはない。思う存分話してくると良い」と彼を送り出すヴェルト。
サンデーは少し意外そうな顔をして、彼に尋ねた。
「……アナタは、ワタシが逃げるとは思わないのですか?」
「確かに、君には緻密な計画性も、切れる頭も、旺盛な意欲もある。……だが、あの時でさえ君は「秩序の司祭」である以上に「ロビンの兄」であるように見えた。君が逃げる理由にロビンさんを使うことはないと、俺は信じている」
「……アナタの言葉に、心からの感謝を」
「ああ。……それで、ワーヴィックさんは……」
ヴェルトが尋ねると、ワーヴィックは「僕も行く」と即答する。
サンデーはそれに重ねて「彼は邪魔にはなりませんので、ご心配なく」と言葉を続けた。
「むしろワーヴィックさんには、ワタシの方から同行をお願いするつもりでした。……彼女を、逃亡犯と接触させるわけにはいきませんから」
「……まさか、彼女にも明かさないつもりなのか?」
「はい。彼女がそのリスクを負う必要はありません。この別れは、ワタシだけのもので良いのです」
「……分かった。君がそこまで決めているのなら、俺には止める理由はない」
「じゃあ、行くか?」
ワーヴィックの問いかけに、サンデーは少し躊躇う。
そしてその躊躇いに気がついたサンデーは、自らに言い聞かせるように、「この一歩こそが、真の旅立ちなのです」と呟いて歩き出した。