星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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人と天才と神の玉座(その1)

「なんか面白いことやってるって聞いたんだけど」

 

 そんな言葉と共に、星は宇宙ステーション「ヘルタ」に姿を現す。ヘルタから『すごいのが見れるよ』というメッセージが送られてきて、それを見て飛んできた形だった。主制御部分で準備をしていたアスターとヘルタは彼女を出迎えた。

 

「あ、星!聞いたよ、仙舟でも大活躍だったんだってね!」

「ま、この銀河打者にかかればそんなもんだよ。それでヘルタ、面白いことって何?」

「はあ、メッセージに送ったでしょ?今、宇宙ステーションにルアン・メェイが来てるの」

「るあん……めい……?」

「天才クラブ#81、ルアン・メェイ。生命科学の専門家で、模擬宇宙にも協力してくれてるの。今回はその模擬宇宙に関する大事な話し合いがあって呼んだんだよ。だからスクリューガムも来てる」

「なるほど。それで第4の天才である私も呼ばれたって訳だね」

「もうツッコまないよ。でも、当たらずとも遠からずかな。あなたも立派な模擬宇宙の協力者だから、彼女に紹介しておこうと思って」

「なるほど」

 

 そう相槌を打つと、星は目を瞑って思考する。そして少しの間沈黙が流れると、彼女は口を開いた。

 

「で、ルアン・メェイってすごいの?」

「もうボケが始まったの?」

「ミス・ルアン・メェイは正真正銘の学者なの。聞いた話なんだけど、旅の途中で寄った荒廃した砂漠の星を彼女は自分の研究成果で見事に生命溢れる楽園に変えてみせたらしいわ」

「多分、開発したばっかの「生命螺旋システム」を試したかっただけだと思うよ。ルアン・メェイは確かに才能溢れる研究者だけど、残念ながら表に出てくることは滅多にないし、隠居じみた生活をしてるって聞いてる……って、こんなに長ったらしい説明をする必要もないか。要は、ルアン・メェイはこのヘルタの学術パートナーに相応しい人物だってこと」

「へー。ってことは私ぐらいすごいんだね。会ってみたいなぁ」

「じゃあ探してみれば?まあ、私はどこにいるか知らないけど。アスターは分かる?」

「私も聞いてないよ。さっきまでは休憩スペースでお茶してたみたいだけど、今はまたどこかへ行ってるわ。彼女はあんまり日常茶飯というものに興味がないみたいだから、普段は主制御部分とかホームにいるみたいなの。良かったら、そっちの方を探してみて」

「分かった!じゃあ行ってくる!」

 

 星は二人に別れを告げると、タタタタッと軽い足取りで駆け出した。

 

「……あっ、そういえばミス・インシァンのこと言い忘れちゃったわ」

「いいんじゃない?どうせルアン・メェイが話すでしょ。彼女、あの子のこと大好きだし」

 

◇◇◇

 

 そして短絡的な星は「ま、取り敢えず列車の方行けばなんかいい感じになるでしょ」と主人公にしか許されないタイプのメンタルでホームの方へ向かう。しかしそういうところで大体上手くいく感じの星の下に生まれたのが星である。彼女はホームの片隅で菓子を口に運びながら、宇宙ステーションの下の惑星ブルーを眺めている一人の女性を発見した。それは、少し記憶が曖昧になりながらも、どこかで見覚えがあるようだった。

 

「あのー!もしかしてあな」

 

 星が話しかけようとした瞬間、彼女は星の首に指を添えた。そして彼女は左首に沿わせるように指を動かすとどこか満足したように指を離した。その口元には、お菓子のカスがついていた。

 

「こんにちは。驚かせてしまったのなら、ごめんなさい。仕事柄の癖なんです。触れることで対象を知り、測ることで対象を学ぶ、そうすることで、あなたがどのような生物か、よく分かるんです」

「……?」

「いえ、そう緊張する必要はありません。あなたは、至って健康的ですから。私としても、とても好ましい、模範的な実験サンプルです」

「取り敢えず褒めてくれてありがとう。それと、口にお菓子のカスついたまんまだよ」

「えっ、本当ですか?」

 

 そう言って彼女は娘から贈られた懐中時計、その蓋の裏側に取り付けられた鏡で自らの顔を見る。そして口元についた食べカスに気がつくと、親指で軽く拭き取った。

 

「……すいません。少し、夢中になりすぎてしまったみたいです。お菓子にも、景色にも。私はあまりこの宇宙ステーションを訪れることもなくて、この場所もさっき始めて訪れたんです。見晴らしが良くて、花の香り、餡の甘み、もち米の食感もこの景色にはぴったりで、とても心が安らぎます」

「確かに私もブルーは綺麗だと思うよ。私と同じくらい綺麗」

「ふふっ、面白い方ですね。このデザートはブルーの伝統菓子なんだそうです。とても美味しいですよ。良かったら、半分いかがですか?」

「やった。私甘いもの大好き」

 

 そして彼女は星にケーキの乗った皿を渡すと、彼女がそれを食べるのを見ながら話し続ける。

 

「甘いスイーツというのは、花が咲く姿に似てるんです。一口、また一口と口に運ぶ度に、まるで蕾が開くかのように、ふんわりと口の中に香りが広がるんです。どうやら、あなたも気に入ってくれたみたいですね」

 

 星はその甘いお菓子を頬張りながらブンブンと首を縦に振る。彼女はその様子を見て、満足げに微笑んだ。

 

「でしたら、次は私が作ったものも持ってきますね。また、梅がよく漬かったんです。お菓子作りは得意なんですよ。スティーブン・ロイドを尋ねる時などは、苺のお菓子を持っていかないと顔も見せてくれませんから」

「私も苺好きだよ」

「そうなんですね。でしたら、次にお会いする時はぜひ。お菓子作りや料理は、宇宙を作るのによく似ているんです。材料を吟味し、加える熱に注意し、そして何が起きても決して慌てない……それ以外にも、お菓子作りには多くの要素が複雑に絡みます。例えば……」

 

 そう言って彼女は辺りを見回す。周囲には、彼女達の存在に気が付かない、忙しい職員達の往来がある。そして彼女は、少しため息を吐いた。

 

「宇宙ステーションの喧騒は、お菓子に合うものではない、など。……ところで、少し話題は変わるのですが、あなたは私の「研究」について覚えていますか?」

「え?トイレとかゴミ箱とかそっち系だよね?」

 

 そう口にして、星は自分で驚いた。「ぶっちゃけ全然覚えてない。それよりお菓子のお代わりが欲しい」と言おうとしたはずが、全く違う言葉が口から勝手に飛び出してくる。彼女はその様子を見て、静かに微笑んだ。

 

「ふふっ、やはりあなたは面白い方です。ただ、このような状況になったら、あまり表情に出さない方が良いかもしれません。さもなければ……全身が、隙だらけになってしまいますから」

「……?」

「……では、もう一度やってみましょうか。まだ、私に聞きたいことはありますか?」

「ねえ、さっきのお菓子のお代わりってあったりしない?」

 

 「あ、やっと言えた」と一瞬思った後、星はその首を横に振った。これはさっき言いたかったことで、今言いたいことじゃない。今の彼女は確かに「どういう薬?」と質問しようとしたのだ。そんな星に、彼女は「では、あとでヘルタに聞いてみましょうか」と答えた。

 

「そうですね、せっかくですし、一緒に散歩でもどうですか?美味しいお菓子を食べた後は、散歩が最適ですから」

 

 そんな彼女の提案に、星は学習しているのかいないのか、ただ黙ってその首を縦に振った。

 

◇◇◇

 

「だから、このバイオームには収斂進化のアプローチが……」

 

 そんな風に楽しそうに話していた彼女だったが、はてなマークを浮かべた隣の星の顔を見て話を止めた。

 

「ああ、申し訳ありません。普段の話し相手が娘くらいしかいないので、どのような話題を話せばいいか分からず……」

 

 彼女の言葉に、星は「別に大丈夫」と言いたそうに首を横に振る。

 

「緊張は、しないでくださいね。私にあなたへの敵意はありませんし、言語中枢に手を加えるなんて礼を欠いた行為にも及んではいません。少しだけ、取り返しのつくような薬を加えただけですから」

「……」

 

 「流石にそれが礼に欠いた行為だというのは銀河打者でも知ってるよ」という抗議の視線を向ける星だったが、彼女は気にせずに話を続ける。

 

「数日前、私はヘルタにあなたへの興味を匂わせました。模擬宇宙での何度かの、僅かな接触によって私はあなたの研究価値に気がついたんです。あなたなら、私の「助手」に相応しい。でも、この世界に漏れない秘密などどこにも存在していない、だから、私は私以外の人間を上手く信用することが出来ないんです。細緻で綿密な研究に、誤ったデータなど混入してしまってはいけませんから。私は、コントロール出来ないものは嫌いなんです」

「……」

「ですから、私はあなたの口にしたお菓子に「反自白剤」を加えました。害や副作用はありませんから、安心して下さい。ただ、あなたが私の研究について口にしようとすると、思ったことが口に出せなくなるだけです。私の研究を守りつつ、あなた自身の身を守るための保護処置だと思っていただければ。「助手」の仕事が終わったら、解毒剤、それと、ちゃんとした「報酬」もお渡ししますので」

「……」

「言われずとも、私もそうしたいと思っています。ですが、あなたの思う通りに私達が腹を割って話せるようになるには、まだまだ時間が必要です」

 

 少し残念そうに言うと、彼女は話題を切り替えた。

 

「……私は、宇宙ステーションに到着した時、ヘルタから#29、セセルカルの作った「位相霊火」という奇物を借りたんです。少し、ヒントをもらおうと思いまして。幸いにも、実際にアイディアは浮かびましたから、ここで培養も試みました。天才のエッセンスを加えられたそれらの生命体は、生まれながらの「天才」になると期待していたのですが……どこかで間違えてしまったのか、それらは自我を持つに留まり、望んだ知能を獲得することはありませんでした。それどころか、私の放任主義も悪影響だったのか、新しく培養した幾つかの「小生命体」が脱走してしまい、今も宇宙ステーション内を逃げ回っています。ヘルタやアスターの介入は望ましくありませんし、あの子にはあの子の研究があります。ですから、あなたに彼らの回収をお願いしたいんです」

「……」

 

 彼女は安請け合いにしか見えない反応速度で、その首を縦に振る。彼女は「信じていますよ」と答えた。

 

「彼らは、スタッフ達には訪問客と思われているはずです。あまり多くの人を巻き込みたくはありませんから。……それと、この程度の会話であれば「反自白剤」は効きませんから、発声していただいて構いません」

「あ、そうなの?」

 

 「私のおしゃべり因子が死に絶えるところだった……」と星は一息つく。そして「あ」と何かを思い出したように呟き、そして彼女に問いかけた。

 

「そういえば、あなたが「ルアン・メェイ」なんだよね?」

「……ああ、そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。改めて、ルアン・メェイと言います。名前を呼ぶ時は、間で一呼吸置いて下さい」

「良かった、それだけ気になってたんだ」

 

 そして星がスッキリとした顔で彼女からの依頼に向かおうとしたところ、ルアンは彼女を呼び止めた。

 

「もし、娘を見かけたら、「ヘルタのオフィスに来るように」と伝えておいて下さい。私に似て好奇心旺盛な娘ですから、きっと宇宙ステーションを夢中で見て回ってるんでしょう。あまり私から水を差したくないんです」

「良いよ。ちなみにその子の名前は?」

「「インシァン・ルアン・メェイ」、「インシァン」と呼べば気がつくと思います。きっと、会えばすぐに分かりますよ」

「オッケー。じゃあ行ってくるね、ルアン」

 

 そう言って、ルアンと別れ、星は出発した。




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