「うわァーーッ!!ファイノンがまともな服来てるゥーーッ!!」
「第一声がそれかい、相棒?」
ハロウィン当日。
いつものように姫子宅組とカフカ宅組で歩いている中、偶然通学路で遭遇した神父姿のファイノンに金色のゴミ箱の仮装をした星は叫び声を上げる。
「今回ばかりは星が正しいよね……」
「あ、ファッション絶滅大君の……?」
「私服フレア男だ……」
言葉の端々に漏れる、他クラスにも広まっているほどの散々な評判。
基本的に蛍光色×蛍光色、上下柄物もお手の物といったファイノンのファッションはあのアグライアをして「昭和の時代でなかったことに感謝してください」と握り拳を作りながら口にするレベル。
ダサすぎて黄金A組や野球部が遊びに行く時などは待ち合わせ場所にファイノンが指定されていることもざらであり、そのクソダサエピソードは枚挙に暇がない。
「でも相棒、おかげでアグライアがたくさんお菓子をくれたんだ。これでモーディスに対してアドバンテージが出来たよ!」
「日頃からこんなファッションモンスターを相手にしてるなんてモーディスかわいそう……」
「もうファッションの自由は諦めたほうが良いんじゃないかな♭」
天使と悪魔の双子ファッションに身を包んだなのかと長夜月*1が辛辣なコメントを飛ばすが、生粋の陽キャ、具体的に言うと明日に昇る烈日系陽キャのファイノンには言葉の刃など耐えられるものでしかなく、「そんなに駄目なファッションセンスかな……」なんて呟きながら彼は一足先に学校へと向かっていく。
ゴミ箱の星、天使と悪魔の長なの、水が出るという理由だけでカイオーガにされかけたポケモントレーナー丹恒、ロビン本人に押し負けた結果ロビンのコスプレをすることになったサンデー、よく考えたら垢バレは絶対に避けなければいけないということでライダースーツはお蔵入りになり漢字の方の蛍の衣装を慌てて用意したホタル、兎か狼かどっちかにしろでおなじみハッカーバニー銀狼、某円環系魔法少女のコスプレに身を包んだインシァン……。
「あれ、インシァンって闇堕ち魔法少女の予定じゃなかった?」
「それが、星ちゃんに猛反対されまして」
「闇堕ち魔法少女……ルパート3世……うっ、頭が……」
「なので最強の魔法少女になりました」
「うう……インシァン、魔法少女っぽいこと言って……」
「魔法少女はさ、夢と希望を叶えるんだから」
「神にでもなるつもり?」
インシァンは木の枝のような弓矢片手に「これで今年もメインスポンサーから大収穫です」なんて笑う。
ここで言うメインスポンサーとは皆さんご存知マダム・ヘルタとルアン・メェイ。
ルアンに関しては言うに及ばず、見た目の割に実年齢は結構いってるヘルタにとってもインシァンは可愛い姪っ子のようなもの。
結構金持ってるタイプの大人2人からの貢がれが確定しているハロウィンの彼女はいわば太客抱えたキャバ嬢なのである。
しかし娘への愛情が行き過ぎるあまり娘の友人も甘やかすルアン、生徒を手伝いに駆り出してはなんやかんやでちゃんとお礼をするヘルタとその恩恵は彼女1人に留まらず、その他教師陣もシンプル良い人かつこれまたブルジョワなスクリューガム、イベント大好きなトリスビアスとその教え子アグライア、アナクサゴラスとさえ呼べばお菓子をくれるアナイクスと皆揃って結構ノリが良い。
私学だからこそな感じのアレだ。
「ところで星ちゃん、1つ良いですか?」
「何?インシァン」
「後3分ですよ。ホームルームまで」
「……え?」
「嘘!?なんで教えてくれなかったの長夜月!?」
「だって……なのかが可愛かったから♭」
「いくら美少女だからってそれで遅刻してたら意味ないじゃん!」
時計を見ると時刻は8時12分。
とてもハロウィンでキャッキャウフフしていられるような針の形ではなく、辺りを見回すとなんと丹恒とサンデーの姿が消えている。
そして真っ先に「あ、マズい」と呟いた銀狼からまるで隊列でも作るかのように彼女達は星穹高校へ向けて走り出した。
◇◇◇
「照合:8時15分。予鈴は鳴り終えていませんが、6人とももう少し早く登校することを推奨します」
流石のインシァン、ホタルも汗を掻くレベルで全力疾走し、どうにか教室に滑り込んだ彼女達。
しかし彼は冷静なアドバイスとともに彼女達を席に座らせて話を続けた。
「皆さん御存知の通り、本日はハロウィンです。星穹高校では今日に限り仮装して授業を受けることを許可されていますが、皆さん気を緩めることなく勉学に励んでください。補足:私からのお菓子は3限後、帰りのホームルームにて配布します」
「えー!せんせー何くれるのー!」
「結論:地元の銘菓を取り寄せました。白餡の優しい甘みが評判の大福です」
「ハロウィンに向いてなさすぎる……」
「以上でホームルームを終わります。アスターさん、挨拶を」
「起立、気を付け、礼」
「「「ありがとうございました!!!!」」」
ゾンビナースアスターの号令とともにいつもの5割増のテンションでホームルームを終えた2年B組。
同様の挨拶がA組からも聞こえてきたから、おそらくどのクラスもこんな感じなのだろう。
そしてスクリューガムが教室を出たその瞬間、生徒達はありったけのお菓子を掻き集めに四方八方へ飛び出した。
「ねえ丹恒!どうしてウチらのこと置いていったのさ!?」
「すまない、流石にお前達のせいでサンデーを遅刻させるわけにはいかないと思ってな」
「……もしかして私達が下半身透明仕様のカイオーガの着ぐるみ用意してたのまだ怒ってる?」
「いや、過ぎたことだ。俺が出来ることなんて雨下スカーフしおふき程度のことだからな」
「根に持つタイプなんだ……♭」
「ホタルちゃん、銀狼ちゃん、お母様からめっちゃもらいました」
「わ、サンタクロースみたいな袋に入ってる」
「はい。奇跡も魔法もあるんですね」
「それ闇堕ち魔法少女フラグだよインシァン」
◇◇◇
一限、ヘルタの数学ⅠAⅡBC。
「あなた達、そんなに私のお菓子が欲しいの?」
「欲しいです!!」
「ください!!」
「ミスヘルタは天下無双!!」
「ミスヘルタは永久不滅!!」
「ふふっ、そこまで言うならこの私の手作りクッキー、あげるね〜」
「やったー!!」
「ミスヘルタカワイイヤッター!!」
「銀狼ちゃん銀狼ちゃん、あれtake二桁らしいですよ」
「へぇ、案外かわいいとこもあるじゃん」
「あ、そこの小娘は無しね」
◇◇◇
2限、アナイクスの現代文。
「ハロウィンですか。ご安心を。こちらも準備にぬかりはありません。私自ら手作りしたこの大地獣チョコレート、大地獣の良いところを言えた生徒から1つずつ差し上げます」
「気合入りすぎだろ……」
「化石とか掘り出すタイプのチョコ自作してる……」
「これ工業化が達成されてないか?」
「大きい!!」
「良いでしょう、まずアベンチュリンに1つ」
「それで良いんだ……♭」
「角がかっこいい!!」
「目が綺麗!!」
「ちゃんと爬虫類!!」
「ホタル、銀狼、インシァン、1つずつ差し上げましょう」
「普段の授業に比べて緩すぎない……?」
◇◇◇
3限、Dr.レイシオの地理。
「認めよう、勉学と同様にこのような季節行事も人生を充実させる上では重要なスパイスだ。故に僕もこのような物を用意させてもらった」
「和菓子……ですか?」
「ああ。博識学会どら焼きだ。1人につき1つは行き渡る程度の量はある。希望者は先週の白地図の課題と引き換えに持っていくように」
「大企業の忘年会とかで置いてあるやつだ……」
「ハロウィン向きじゃない……」
「センス凡人院かよ……」
「さすがレイシオって感じだね」
「嘘でしょ、パパが大学の同窓会でもらってきたやつにそっくりなんだけど……」
「やっぱりあんこはつぶあんに限りますね」
「インシァン食べるの早すぎだって」
◇◇◇
「皆さん、無事にお菓子は集まったようですね」
スクリューガムは「楽しめているようで何よりです」と銘菓ねじ巻き大福を配りながらにこやかに言う。
「結構好きな味かもしれない」とは青い感じの某新世紀なパイロットスーツに身を包んだアベンチュリンの言葉。
こうしてみると想像の5倍くらい細くてびっくりする。
サンデーやアナイクスと並んでちゃんとご飯を食べろ系男子なのだ。
「ずるいぞモーディス!お菓子交換で稼ぐは卑怯じゃないか!」
「ふん、卑怯も何もお前の言った条件は全て満たしている。交換したお菓子も既製品ではなく俺自らの手作りだ。第一、お前にも分けてやっただろう」
「確かに美味しかったけど……くそ、今回は僕の負けだ……!」
相変わらず騒がしい黄金A組の声が聞こえてくる中、B組のホームルームは淡々と進む。
大なり小なり、生徒達はそれぞれの交友関係の下でお菓子の山を築き上げている。
丹恒のようになんやかんや配る側に回り星達にも分け与えた結果レジ袋程度で済むのもいれば、インシァンのようにコネクションをフル活用してサンタクロースと化す生徒もいる、それが星穹高校のハロウィンである。
「起立、気を付け、礼」
「「「ありがとうございました!!!!」」」
そしてアスターの号令で解散した生徒達は、部活動や委員会活動の流れでさらなるお菓子の山を築くべく、第2ラウンドへと突入した。
◇◇◇
「そんな感じで、僕達も結構楽しんでるよ。お菓子もたくさんもらえたしね」
「仮装というリスクを犯してお菓子というリターンを得る!これも立派な投資だね」
放課後、戦略投資部部室。
実装済みの部員の関係上今はジェイドと某スーツ着用のアベンチュリン、同様のトパーズしかこの部屋にいないが、本来は10人以上での利用を想定されていることもあってやたらと広い。
「坊や達が楽しそうで何よりだわ」とジェイドは微笑んだ。
「ところでジェイド、どうして僕らはこんな少し恥ずかしい感じの仮装を着せられたのかな?」
「強いて言えば……私がそれを着せそうな声だからかしら」
「あー……」
「OK、話はここまでにしよう」
「そう?じゃあ、私は少し席を外すわね。大事な仕事があるから」
そう言ってジェイドは台本のようなものを片手に部室を一次離脱した。
ヌースの演算に痕跡を残しながらも突如として行方不明になったインシァン。
それと同時に「開拓」未踏の領域、オンパロスへと突入した星穹列車は現地にて彼女と同じ顔をした少女、アーロディッタと合流する。
しかし抱いた疑念を払拭する間もなく彼らは共に「火を追う旅」に臨み、「再創世」を果たすことに。
「知恵」と「記憶」が交差し、無数の運命が交わるこの地で世界を懸けた冒険が始まる──
次章『「■■」の地、オンパロス』
この次もサービスサービスぅ!(CV.三石琴乃)(BGM.次回予告)