星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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聖都に迫る火の中で

「「紛争」の軍勢だ!!狂王ニカドリーがオクヘイマに戻ってきた!!」

 

 

 光歴4931年、第1の月・門関の月。

 最後の都市国家、聖都オクヘイマには人々の悲鳴が響いていた。

 

「皆さん、雲石の天宮から出来る限り離れてください!!トリアン様が避難経路を確保してくれるはずですから!!」

 

 黄金裔、設計者(スケディアスティス)、「糸紡」のアーロディッタ。

 時が流れ、腕利きのラプティスとして成長した彼女はナイフ片手に「紛争」の尖兵達を退けながら、黄金裔の責務を果たさんとオクヘイマの市民達を守り、少しでも安全な場所へと逃がしていく。

 確かにそれはオクヘイマにもたらされた「神託」通りではあったが、いざ現実となると瞬く間に市中は混乱へと陥った

 

「ああもうニカドリー……!!分身とはいえどうしてファイノンくんもトリビー様も出てる時に来るんですかね……!!」

 

 彼女が腕を振り抜く度、その指先と糸で繋がれた3本のナイフは風を裂いて、天罰の人形を穿ち抜く。

 そして彼女は市民の悲鳴が聞こえる方、アグライアの気配がする方へと雲石の天宮を逆走していった。

 

◇◇◇

 

「……いた!!先生、オクヘイマの状況は……!?」

 

 雲石の天宮、上層。

 黄金裔にのみ立ち入ることを許されるその空間で、アグライアは静かに金糸を伝い、聖都の混乱を見守っていた。

 

「慌てずとも大丈夫です、アーロディッタ。ここまで、「神託」の告げた通りに運んでいますから」

「それは、分かってるんですけど……でもみんな、「恐慄」「焦燥」「悲哀」……そんな感情ばかりで……」

「あなたの目にそう映るのは仕方ありません。そうなると分かっていても、人は自分が思っているほど心構えが出来るものではないのです」

 

 彼女達黄金裔には身体を流れる黄金の血によって常人とは異なった才が目覚める場合がある。

 そしてアーロディッタにも、血の元であるアグライアと同じように常人とは異なる「感覚」が宿っていた。

 盲目の師とは対称的に、彼女の目は見えざるものを映す。

 「歓喜」「憤怒」「悲哀」「安楽」……そのような見えざる感情を、アーロディッタの黄金の瞳は自在に捉えることが出来た。

 

「アーロディッタ、間もなくモーディスとキャスがこちらに到着します。防衛は彼らに任せ、あなたは市民をお願いします」

「了解です、先生」

 

 そしてアーロディッタはアグライアに別れを告げ、雲石の天宮を後にした。

 

◇◇◇

 

 軍勢を率いていたニカドリーの分身が討伐されたという知らせが入ったのは、それから少し経ってからのことだった。

 その知らせを受けたアーロディッタは雲石市場を防衛していたキャストリスと合流し、一旦の落着を確かめ合う。

 

「アーロディッタ様、今回も市民の皆様を導いてくださってありがとうございました」

「別に、お礼を言われるようなことはしてません。私もキャストリスちゃんも、自分の役目を果たしただけじゃないですか」

「……ふふっ、相変わらずですね、アーロディッタ様は」

 

 そしてキャストリスは「まだオクヘイマに残らないといけないので」とアーロディッタに1つの頼み事をした。

 

「私に代わって樹庭に向かい、アナイクス先生にオクヘイマの状況を伝えてもらえませんか?おそらく樹庭にも今回のオクヘイマの件を心配している方がたくさんいるはずですから」

「お使いってことですか?良いですよ。こんな状況じゃ、どうせ注文のドレスも上手く作れませんから」

「ありがとうございます。アグライア様には私から伝えておきますので」

「了解です。そっちはよろしくお願いしますね」

 

 こうして脚を休める暇もなく、アーロディッタは「神悟の樹庭」へと出発することになった。

 

◇◇◇

 

「笑わせないでください。あなた達が無駄な議論をしている間にも──ほら、オクヘイマからの無事の知らせです」

「まだ何も言ってないんですけど?」

 

 数時間の旅路を経て、樹庭に到着したアーロディッタ。

 オクヘイマ襲撃の報にどよめいていた樹庭の学者達は「金織」最優の弟子として名の知れた彼女の到着に、オクヘイマに残した家族や友人の無事を悟って歓声を上げた。

 そしてその中心で相変わらずの仏頂面を決め込んでいるアナイクスは間髪空けずに講義を再開する。

 アーロディッタはため息を吐いた。

 

「樹庭にはおもてなしの心とかないんですか?私、せっかくこんな朗報を持ってきてあげたんですけど?」

「おや、口の効き方も「金織」仕込みとは流石ですね」

「残念、あなたの可愛い生徒のキャストリスちゃんの頼みです。先生思いの生徒に感謝するんですね」

「……良いでしょう。調理室の方に余り物の茶葉があります。飲みたければそれを使ってもらって構いません」

「え、私が淹れるんですか?」

「当然でしょう。私は授業中ですので」

「やっぱり知種学派の辞書に「おもてなし」って言葉はないんですね」

 

 そんな悪態を吐きながら、彼女は調理室の方へと向かった。

 

「「安堵」……根は良い人なんですけどね」

 

◇◇◇

 

 なんやかんやでオクヘイマ宛の書簡なんかも託された、樹庭からの帰り道。

 大地獣の背に揺れる彼女の瞳に遠くのオクヘイマが見えた頃、ディアディクティオにアグライアからの連絡が届いた。

 

『アーロディッタ』

『天外からの来訪者が黄金裔の仲間に加わり、ニカドリー討伐に力を貸してくれることになりました』

『彼らにプライベートルトロを手配しましたので、その世話をお願いしたいのですが』

 

「天外から……?そんなこと、あるんですか……?」

 

 彼女は信じられないといったような顔をしつつも、アグライアからの頼みなら間違いないだろうと『分かりました』と伝言の石板のキーボードを叩く。

 

『ありがとうございます。あなたが到着する頃には部屋の準備が出来ていると思いますから、そのまま向かってください』

 

「……天外からの来訪者……どんな人達でしょうか」

 

 少し思いを馳せながら、彼女は大地獣に揺られその目を閉じた。

 

◇◇◇

 

 ブラックスワン、サンデーという乗客も加わり、新たな「開拓」を求めて次なる目標を「永遠」の地、オンパロスへと定めた星穹列車。

 「開拓」の星神、アキヴィリでさえも未踏の地であるオンパロスに向けて「記憶」の陣営であるガーデン・オブ・リコレクション、「知恵」の陣営である天才クラブの協力も得た私達だったが、突如としてなのかが倒れてしまい、先発隊として私と丹恒が突入することになる。

 そして紆余曲折ありながらもオンパロスにおける人類最後の領域、オクヘイマに辿り着いた私達は「黄金裔」と呼ばれる英雄達と共に「神殺し」、そして「再創世」に挑むことになったのだった……。

 

「……どう?丹恒。上手く書けてるかな」

「ああ。これなら後でアーカイブに入れても見直せるだろう」

 

 2人がニカドリーの攻撃を受け、オンパロスに不時着してからはや20システム時間。

 それにも関わらず、「世を背負う」タイタン、ケファレの掲げる「黎明のミハニ」によってオクヘイマには終わることのない昼間が続いていて、星は少し奇妙な感覚を覚えていた。

 

「ねえ、丹恒。私お腹空いたかも」

「ああ、そうだな。ファイノンの話によるとそろそろ案内役が来るとのことだったが……」

 

 その時だった。

 コンコン、と扉が叩かれ、人の気配がそこに現れる。

 そして星が扉を開けようとベッドを立った瞬間。

 

「失礼します」

 

 僅かに、星の動きが止まった。

 彼女だけじゃない。

 丹恒も脳裏に一瞬、どこかでの覚えがよぎる。

 だが、その反応を待つことなく、彼女はマスターキーでプライベートルトロの扉を開いた。

 

「先生……あ、アグライア様に呼ばれて来ました。黄金裔のアーロディッタと申しま……す……?」

 

 そして、彼女の黄金の瞳が溢れるような感情を捉えた。

 様々な感情の色が混ざって、真っ白になった視界が一瞬彼女の思考を押し潰す。

 

「……え、何で……?」

「……何故、ここにいる……?」

 

 黄金の瞳、同じく金色のメッシュが入ったウルフカットの黒髪、白いパーカー、仕草、口調……彼女達の知る「彼女」と事細かな差異はあれど、その何もかもが直感に働きかけ、目の前の少女が「彼女」なのだとサイレンを鳴らす。

 そして、星は尋ねた。

 

「あんた……■■■■■だよね?」

 

 その言葉は、まるで世界に検閲されたかのようだった。




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