星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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黎明:「永遠の聖都」オクヘイマ

「アーロディッタ様?もちろん知ってるさ。今や彼女を知らない市民なんてオクヘイマのどこにもいない、アグライア様以来の誰もが認めるファッションリーダーだよ」

 

「あら、あなた達もアーロディッタ様の服が欲しいの?聖都のどの店にも彼女がデザインした服は置いてあるけど……もしオーダーメイドがお望みだっていうなら、出来るだけ早い方が良いわよ。今じゃ数年待ってるなんて人も少なくないんだから」

 

「アーロディッタかい?彼女がオクヘイマに来たのは……250年くらい前だったかな。僕も詳しいことは知らないんだけど、その後すぐに忙しいアグライアに代わって店先に立っていたはずだよ。ほら、この上着も何度か彼女に直してもらったんだ」

 

◇◇◇

 

「丹恒、これって……」

「ああ、間違いない。彼女は俺達がオンパロスに来る遥かに前からここで活動していたようだ」

 

 情報収集を終え、活気溢れる雲石市場からプライベートルトロに戻った星と丹恒。

 彼女達が持ち帰った情報は、紛れもなく1つの真実を示していた。

 「彼女は「彼女」ではない」、と。

 

「……言いたいことは分かる。お前と同じように、俺も彼女は紛れもなく■■■■■だと直感した。だが、彼女が数百年も前からこの星で活動するというのは不可能と言っていいだろう。この宇宙には同じ顔の人間が5人いると言う。アーロディッタもその一人だったというだけだ」

「そう、だよね……」

「どうかしたか?」

 

 少し安堵したような様子で相槌を打つ星に丹恒が尋ねると、彼女は静かに答えた。

 

「ううん、■■■■■が私のこと忘れてなくて良かったな、って。誰にだって、忘れられるのは嫌だから」

「……ああ、そうだな」

 

 気がつけばオンパロス到着から丸一日経過しようとしている。

 テーブルの上にはアーロディッタが持ってきてくれた、籠に盛られた新鮮な果実と良く冷えた地下水。

 星は葡萄を一粒摘んだ後、ベッドに横になった。

 

「おやすみ、丹恒」

「ああ、よく休め。今回の「開拓」はかつてない程の長い旅になるだろうからな」

 

◇◇◇

 

 オンパロス、雲石の天宮、生命の花園。

 2人きりになったアグライアとトリビーは、オクヘイマの街を眺めながら言葉を交わしていた。

 

「ライアちゃん……とうとう始めるつもりなのね?「紛争」のタイタン(ニカドリー)討伐を……」

「ええ。今回のオクヘイマ侵攻のおかげで神の居場所を炙り出すことが出来ました。私達の方から攻勢を仕掛けられる絶好の機会がようやく訪れたのです」

「そう、なんだよね……でも無理だけはちちゃ駄目よ?最近のライアちゃん、自分を犠牲にちてばっかりだから……」

「その意味を一番理解しているのは師匠ではありませんか。この火を追う旅の終幕、それは私もあなたもステージを降りた後のこと。ならば、大団円の供物として朽ちつつある我が身を焚べることに何の躊躇いがあるというのでしょう。私達はただ、彼らに託す備えをすれば良いのです」

 

 淡々と言葉を綴る彼女に、トリビーは少し不安そうにしながら口を開く。

 

「……やっぱり気付いてないんだね、ライアちゃん。人間の「無私」を信じてないって言ってるライアちゃん自身が、それを証明しようとちてるんだよ」

「師匠の目には私がそう映っているのですね。ですが、私はまだその領域に足を踏み入れるつもりはありません。師匠が私にそうしてくれたように、「半神」ではない私、「アグライア」という人間の持てる全てをあの子に託すつもりですから、そのためにはまだまだ「無私」になんてなれません。ですから、これはあの子達のためになるべく多くのものを遺したいという私のささやかな願いでもあるのです」

「それをちゃんと言えるなら、ライアちゃんはきっと大丈夫。そのお顔だと、まだまだ話ちたいこといっぱいあるんでちょう?お風呂でも入りながら、あたちたちに聞かせてちょうだい!」

「ええ、喜んで」

 

◇◇◇

 

「……ミュン?」

「んん……何の、音……?」

 

 頭の中に響いた謎の声と共に、星は重たいまぶたを開ける。

 犬のような、猫のような、うさぎのような影が彼女の顔を覗き込んでいた。

 

「……おと?だれ?あれ?どれ?」

「……私に、話しかけてるの……?」

「……れいせい。れいせい。こんかい。じかい?」

「ごめん、まだ寝かせてほしいや……」

「……ねる?いい?わるい?あなた……あたし……あたしはだれ?」

「あんたが、誰……?」

「……こなごなになっちゃった。まよってる。かんぜんに……なりたい」

「完、全……」

「……ねて。ねていいよ。じゃま……よくない」

 

◇◇◇

 

「……何だったんだろ、あの夢……」

 

 星は眠たげに目を擦りながらベッドを降りる。

 頭の中に響いていた声は結局止むことなく、星の睡眠を遮ったままだった。

 彼女が辺りを見回すと、ベランダから外を眺める丹恒の姿が目に入る。

 「丹恒なら何か知ってるかも」と彼女は声を掛けた。

 

「ようやく起きたか、星。ずいぶん長く眠っていたが、よほど疲れがあったか?」

「そうかも。丹恒こそいつ起きたの?」

「俺は数システム時間ほど前だ。その顔を見ると……手放しに「よく眠れた」というわけではなさそうだな」

 

 星から言わずとも表情から一瞬で察してしまう丹恒。

 彼女は「ずっと夢で声がして……」と打ち明けた。

 

「声……以前お前は「星核の声がした」と言っていたが……」

「ううん、それとは違うかな。動物っぽかったし、なんか可愛かったし」

「まあ、用心するに越したことはないが……お前に何事もなくてよかった。夢については……思い出せる限りの内容を記録しておくのがいいかもしれない。もしかしたら、その奇妙な夢はこの世界にお前が影響された影響かもしれないからな」

「了解。それで丹恒、今回の「開拓」はどんな感じで行く?」

「ああ、それについては俺もお前が寝ている間に考えていた。現状で一番厄介なのはやはり「天外」に対するオンパロスの人々の考え方だろう。しばらくの間、列車と連絡を取るのは困難になるかもしれない」

「じゃあ、オンパロスから出ようとしたら本当に天罰が下される、みたいなことも……?」

「可能性としては否定できないな。最悪の場合、オンパロスという世界が一方通行だということさえ考えられる」

 

 そんな少し暗い話に星のテンションが少し下がり気味になる中、スマートフォンの着信音が響いた。

 

「……あ、ファイノンからだ」

 

『2人とも、昨晩はよく眠れたかい?』

『実はトリアン先生が二カドリーの根城……クレムノスの場所を見つけてくれたんだ』

『ニカドリー討伐の準備をするためにも、2人とも急いで雲石の天宮の上層ピュエロス、黄金裔のバルネアまで来てくれ!』

『……あ、いや、まだ疲れが抜けきってないならもう少し休んでても大丈夫。急かすつもりはないんだ、本当に』

 

 慌てて補足するファイノンに星は「大丈夫、準備万端」とすぐさま返信し、2人はそのまま黄金裔のバルネアの方へと向かった。

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