星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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永夜:「紛争の爪痕」クレムノス

「逸れるなよ、救世主、異邦人。クレムノスの城は広い、迷っていたらきりがないぞ」

 

 2人を先導しつつ、かつての故郷を躊躇うことなく進むモーディス。

 立ちはだかる「紛争」の雑兵も難なく蹴散らしていく彼等だったが、在りし日の面影を残しつつも荒れ果てた城塞は容赦なくその歩みを阻む。

 朽ちた門、錆びた鍵……軍事国家であったクレムノスの城はただでさえ敵の侵入を拒むために複雑に作られていることもあって、道は迷路のように続いていく。

 

「君が故郷を離れてから長い時間が経っているとはいえ、もうどこもかしこもボロボロだ。流石のクレムノスの職人達でも時間には勝てなかったようだね」

「いや、この外城は罪人や捕虜に作らせたものだ。クレムノスの名工を舐めてもらっては困る」

「なるほど、そういうことなら仕方ないか」

 

 そして進んでいく彼等を次に阻んだのは、崩れ落ちた架け橋だった。

 繋がっていたはずのそれは経年劣化によってぱっくりと真っ二つになり、深い堀へと垂れ下がっている。

 ファイノンは「トリビー先生がいたら良かったんだけどな……」とため息を吐いた。

 

「トリビーが?なんで?」

「ほら、君もヤヌサポリスで見ただろう?トリビー先生の使う「オロニクスの祈言」があれば「神跡」を召喚して橋をかつての姿に戻せるからね」

「なんだ、そういうことなら先に言ってよ。ファイノン、あんたの目の前にいるのはオロニクスの祈言界の超新星なんだから」

「その言い方……もしかして、相棒も祈言が使えるのかい?すごいな、あれは天賦の才としか言い様がないからね。「歳月」の司祭くらいしかまともに扱える人はいないのに……」

「まあ見てなって。……「オロニクスよ──過去のさざ波を呼び起こせ!」」

 

 まるで超電磁砲でも放つかのようなポーズで声高らかに詠唱する星。

 するとそれに応えたのか、目の前の崩れた橋だけが時を巻き戻したかのように修復され、目の前に新たな道が拓けた。

 

「すごいよ相棒!本職の司祭顔負けだね!」

「ふん、中々のものだな」

「別に大したことじゃないよ。私にかかれば、ね」

 

 そう言ってドヤ顔する星の顔にはまるで「もっと褒めてください」とでも書かれてるかのよう。

 だがそれに気付かず、あるいは気付いた上で2人は先を急ごうと奥へ進んでいく。

 

「え、もっと褒めるパートじゃないのここ!?ねえ作者!もっと私チヤホヤされたいんだけど!」

 

 そして星は変なことを言いながら2人の後を追いかけた。

 

◇◇◇

 

「これは……まさしく「壮観」だな……」

「うわ、すっご……」

 

 城塞の中央、内城を見上げてファイノンと星は思わず呟いた。

 クレムノス中から名工を集めて作られたそこは多少蔓が這いながらも王宮に相応しい荘厳さを放っている。

 

「ふん、これを見てその感想が出てくるというのなら、クレムノスの最盛期を目にした暁には腰を抜かすだろうな。溢れんばかりの勇士達と、威光を放つ戦神がそこにはあった」

 

 そう言ってモーディスは王宮の頂点に輝く、巨山すら断ち切れそうなほどの大剣に目をやった。

 それは「天空」の楽園を始めとする多くの都市を滅ぼしたニカドリーの武器であり、クレムノスという都市国家の信仰そのもの。

 クレムノスの民は戦死こそが何よりの名誉と捉え、戦場で命を落とした魂はその刃の糧となり、ニカドリーの力の一部となるのだと信じられていた。

 

「故に「紛争」は向かうところ敵なし……タイタンの糧となった魂も永遠の戦場、永遠の栄光を手に出来る」

「それは流石に言いすぎじゃないか?僕の記憶が間違ってなければ、クレムノスは黄金戦争の間だけでも3回は負けてたはずだ」

「ふん、陰謀や毒は戦場にあるものじゃない。そのようなものに頼らねば戦場のクレムノスを抑えることも出来なかったというだけだ」

「相変わらずだな。ザグレウスに目をつけられるのも仕方ないか」

 

 少しからかうように言ってから、ファイノンは丁度分かれ道の前で止まり、「これが本題だ」なんて言わんばかりにモーディスへと1つの提案をした。

 

「遠征とはいえ、せっかくそんな戦士達の聖地に足を踏み入れたことだ。モーディス、僕と一試合してみないかい?」

「試合だと?」

「ああ。当時の「クレムノス祭典」では戦士達が様々な分野で技量を競い、お互いを高め合ったと聞く。それにあやかって、というわけさ。種目は……あの狂気に堕ちた眷属をどれだけ倒せたか、なんてどうだい?」

「お前はその勝負に何を賭ける?」

「ニカドリーに引導を渡す権利」

「ふっ、面白い。乗ってやる、救世主」

「あ、じゃあ私レフェリーやりまーす」

 

 星がそう手を挙げると、ファイノンは「君は僕の方についてきてくれるかい?」と彼女に声を掛けた。

 

「あ、了解」

「ふん、一人増えようが結果は変わらんがな」

「そういう小さな差が、案外命取りになるものだよ、モーディス」

「まあいい。何も知らないお前達にはそれくらい必要だろう。……そうだな。加えて10歩譲ってやる。これでお前の言う「小さい差」程度にはなったか?」

「ああ、感謝するよ、モーディス。後悔しないようにね」

 

 そう言ってファイノンと星は分かれ道の片方へと走り出したが、彼は少し立ち止まり、「おっと、忘れるところだった」とわざとらしくモーディスの方へ振り返った。

 

「先に1歩返しておくよ。10歩ももらっちゃうのは流石に申し訳ないからね」

 

◇◇◇

 

「で、実際「紛争」って強敵なんでしょ?兵力分けるのって危なくない?ほら、第二次上田合戦みたいに」

 

 天罰の雑兵達を退けながら進んでいた2人だったが、その途中で星はふと尋ねる。

 だがファイノンは「大丈夫さ、僕もモーディスも強いからね」と微笑んだ。

 

「それに……今の彼には独りの時間が必要なんだよ。モーディスは一族と栄光を重んじる、ああは言っても故郷愛の強い男なんだ。……その気持ちは、僕にも理解できる」

「ファイノン……あんた意外とそういうの考えてあげる感じなんだね」

「そういうわけじゃないさ。ただ、僕とモーディスはずっとこんな感じでね。お互いに越えるべき敵であり、肩を並べる友でもある。……うん、僕にとって「好敵手(ライバル)」っていうのは彼のことを指す言葉かもしれないな」

 

 2人がそんな話をしていると、タイミングよく遠く離れたモーディスが2人の方へと声を掛けた。

 

「良いのか救世主!!もう白旗だというのなら大人しくそこで休んでいると良い!!」

「いいや、君を心配していただけさ!!どうやったらいい勝負になりそうかってね!!」

 

 ファイノンは高らかに言い返すと、「それじゃ、先へ進もうか、相棒」と星に言う。

 彼女もそれに頷き、2人はクレムノスの王宮を進み続けた。

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