「これが……「紛争」のタイタンの力……!!」
「不死身とは……数奇なものだな」
例え一度膝を突かせようと、戦場に揺蕩う「
遺憾無く発揮される戦神の力を前に星達3人は終わりの見えない戦いを続けていたが、その時突如として鋳魂区に地鳴りが響き、天井に大穴が開いた。
「2人とも、あれって……!?」
「巨剣が……いや、「天罰の矛」が抜かれた……!?」
「不味い、ニカドリーの力、戦士達の魂が流れ込んでいる……!!」
朽ちてなお圧倒的な力を誇る「紛争」のタイタンは、彼らの様子など構うことなくその手に握った大槍を不敵に鳴らす。
その目的はファイノン達黄金裔の迎撃などではなく、戦闘を通じて自らの死、戦士達の魂をクレムノスにそびえる巨剣、「天罰の矛」へと注ぎ込み、オクヘイマを守護する
「我等の神は、ここまで堕ちたというのか……!!」
その拳を握り締め、モーディスが静かに目の前の神を見据えたと同時に、1つの幼い声が響く。
「大丈夫か!?モスちゃん、ファイちゃん、星ちゃん!!」
「っ、トリアン先生!?」
それは「百界門」と呼ばれるワープゲートを使って彼らをクレムノスへと送り届けたトリアンのものだった。
「嘘!?入口で隠れててって言ったのに……!?」
「それどころじゃないんだ!!ディタちゃんが、ディタちゃんの「瞳」がニカドリーを見て、一刻も早くニカドリーから離れろってボクたちに……!!」
「……いいだろう。お前に1つ、皆を救うチャンスをやる」
トリアンの言葉を聞き、モーディスは静かに告げた。
「「天罰の矛」を振るえぬよう、俺が奴を食い止める。その間に聖都へと戻り、アグライア達に出来る限りの情報を渡せ」
「まさか、1人で「紛争」とやり合うつもりか!?僕も残る。相棒、アグライアには君が──」
「失せろと言っている!!これは俺の、我が一族のための戦いだ。そこにお前達の入る余地はない。この身の不死の呪いに懸けて、俺は俺の信じた神と決着を付けねばならん」
「……」
「行け。この戦場はお前に相応しくない、「救世主」」
「……死ぬなよ、「メデイモス」」
そしてファイノンと星は後を任せ、全身で居場所を主張するトリアンの方へと走り出す。
2人の背中が見えなくなった後、モーディスは再び、目の前に君臨する「紛争」へと向かい合った。
「幸運にも、お互い死の河を渡りえぬ身だ。これ以上公平な相手は世にいない。……行くぞ、ニカドリー!!」
「────────!!!」
「王足り得ぬ王と神足り得ぬ神──全てが終わるまで殺し合うとしよう!!!」
◇◇◇
「……!!星ちゃん、ファイノンくん、トリアン様!!無事だったんですね……!!」
オクヘイマに戻った3人を真っ先に出迎えたアーロディッタ。
行きと帰り、二度の百界門で力を振り絞ったトリアンが「ボクたちは少し休むぜ……」と離れる中、アーロディッタは2人をアグライアの下へと案内した。
「モーディスくんのことは……分かってます。彼なら1人でニカドリーを止めるって言うでしょうし、実際にそれが出来ちゃいますから」
「ああ。彼はオクヘイマでも最も強い戦士の1人だからね。きっと僕達が戻るまで食い止めてくれる」
「……そういえば、「不死身」ってどういうこと?死なないの?」
「モーディスが生まれ持った力であり、「黄金裔」としての祝福だよ。その心臓は止まることなく、その身体は朽ちることもない、アグライアの「金糸」やキャストリスの「死」、アーロディッタの「瞳」のようなものさ」
「良いか悪いかはさておき、ですけど」
そしてアーロディッタが彼らを英雄のピュエロスまで連れていくと、そこには丹恒、キャストリス、アグライアが話し合っているところだった。
「丹恒!」
「……!どうやら無事に戻ったようだな、星。アーロディッタから知らせを受けたが……より詳しいことを聞かせてくれ」
「待った、トリビー先生はどこだい?」
「師匠でしたら、既にアーロディッタの報告によって準備を進めています。あなた達の情報次第ですぐに動けますよ。それに、まだ市民達も気付いていません。今ならまだ、彼らに危機が及ぶ前にそれを排除できる」
「……分かった。けど一刻を争う事態なのも間違いない。「天罰の矛」は既にケファレの心臓に狙いを定めてる、このままじゃ聖都の全てがまとめて消し去られる可能性すらある状況なんだ」
「でも、肝心のニカドリーが不死身になっちゃってて……モーディスが時間を稼いでる今のうちにどうにかしないと……」
ファイノンと星が状況を簡潔に伝えると、アグライアは「そういうことだったのですね」と静かに答えた。
「クレムノスが長い間霧に覆われていたために、その「不死」を探るのは極めて困難な状況です。おそらく、モーディスが稼いだ時間があっても到底間に合わないでしょう。……ただ一柱のタイタンを除いて」
「先生、それって……」
「ええ。「永夜の帳」、「歳月」のタイタン、オロニクス。時を遡る権能を以てすれば、その絡繰を解き明かせるかもしれません」
アグライアがそう言うと、星は「じゃあそいつ探しに行こう!」と即答する。
それに頷き、キャストリスも口を開いた。
「ファイノン様、星様、オロニクスへの謁見は私も同行させてください。かつて、「紛争」と「死」は切っても切り離せぬほどの繋がりを持っていました。栄光に満ちたかつてのニカドリーは決して交わした誓いを破らなかったと語られています。「歳月」の見せる過去の景色に……今の彼が「死」を拒絶した理由が映し出されているかもしれません」
「先生、私も行かせてください。私の「瞳」なら、何か見えるかもですから……!!」
「俺も出よう、アグライア。一刻を争う今、人手は少しでも多い方がいいはずだ」
「分かりました。……それとファイノン、「暗黒の潮」のことなら心配は不要です。アーロディッタ、キャストリスが出ようと聖都は2人の半神が全力を尽くして守護しますので」
「分かった。感謝するよ、アグライア」
そして再びの出陣の準備が整い、アグライアは5人に告げる。
「トリビーはあなた達をオロニクスの下……ヤヌサポリスへと案内するため、聖都の外で待っています。私もあなた達のため、ケファレへと祈りを捧げましょう。……オロニクスに出会い、いかなる手段を駆使してでも、かの狂王の不死を暴くのです」
かくしてアグライアに送り出され、彼らはトリビーの下へと急いだ。
◇◇◇
「トリビー先生、僕達はいつでも出発できるよ!」
「うん、あたちたちも状況は理解してるつもり。トリアンは疲れてるみたいだから、今回はあたちたちがみんなを深淵へ連れてくよ」
たどたどしい口調ながら力強く言うトリビー。
そんな彼女に、キャストリスは静かに問いかける。
「トリビー様……どうすればオロニクスは私達の呼びかけに応じてくれるのでしょうか……?」
「ごめんね、キャスちゃん……オロニクスはあまり人間が好きじゃないから、あたちたちもあんまり役には立てないんだ。それこそ、キャスちゃんが聞いたり、ディタちゃんが見たりしたほうが分かるんじゃないかな」
「……頑張るしかないみたいです、キャストリスちゃん」
「しょうがない。なるようにしかならないみたいだね」
「……あ、でも安心して。別にイジワルなタイタンってわけじゃないから、力を貸してもらえる可能性も決して低くはないと思う。……取り敢えず、今は急ぎまちょう!!」
そしてトリビーが開いた百界門に彼らは飛び込んだ。
ちなみに「ディタ」は歯が唇を優しく噛む「ディ」に、舌が優しく歯に当たる「タ」ではないし関係ないので安心してください