星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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記憶よ、争いの詩を響かせよ(その2)

「──、──、──。──♪」

 

「ええっと……?何か、伝えようと……?」

 

 

 文字には起こし難いような音を奏でながらアーロディッタの周りをふわふわと漂う水色のクラゲ。

 

 触手の先にかけてピンク色にグラデーションしたそれは彼女に何かを伝えたがっているようだったが、いまいちその意図は上手く伝わらない。

 

 しかし、その次の瞬間だった。

 

 

「──!」

 

「あっ、返してくださいそれ!!持ってかないで!!」

 

 

 クラゲが星から預けられたカメラを奪って逃げ出したのだ。

 

 流石にそれはダメだとアーロディッタは大慌てでそれを追いかけるが、まるでワープしているかのようなクラゲの逃げ足には追いつけず、見逃さないだけで精一杯。

 

 そしてクラゲはカメラを触手に絡めたまま、凍りついた池へと飛び込んでしまった。

 

 

「嘘!?何してくれちゃったんですかあのクラゲ……!?」

 

 

 アーロディッタは漠然と周囲を見回すが、目の錯覚などではなく間違いなくクラゲが逃げ込んだ先は季節外れに凍てついた小池。

 

 彼女は意を決して鏡のような水面へと飛び込んだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「……あれ、ここは……?」

 

 

 アーロディッタが次に瞼を開くと、その目に映ったのは仄暗い廃墟だった。

 

 視界は薄い霧に包まれていて、実体は何一つ感じない。

 

 曖昧な感覚の中で、黄金の瞳が捉えたのはそこに積み重ねられた無数の、それこそ星の数ほどの記憶。

 

 

「これは……お墓?」

 

 

 彼女の口をついて出てくるのはそんな言葉。

 

 悼まれるべき何かがあった場所。

 

 アーロディッタが不可解な空間を進もうとすると、ふとその手を何者かが掴んだ。

 

 

「ね■、あ■■だ■ね?■チのカ■■持■て■■■って!手■って■■い■と■あ■■だけど■■■■?あの子■が■■ラ■託■■ってこ■■■あん■■信■でき■■■!」

 

「っ──!?」

 

 

 酷く冷たい手の感触。

 

 反射的に振り返るが、あまりに濃い霧にそれが人型であることしか分からない。

 

 けれどもその瞳に映る感情は「不安」「恐怖」「親切」「友愛」「勇気」「正義」……様々な色が混ざり合い、けれどそこに他者を害する感情はない。

 

 アーロディッタは静かに考え、口を開いた。

 

 

「私はアーロディッタ。オクヘイマにおける現役最高の「仕立て屋」(ラプティス)で、アグライア先生の一番弟子で、オンパロス黄金裔の末席です。今はニカドリー討伐に向かったファイノンくん、モーディスくん、丹恒くん、ニカドリーの不死を暴くべく過去のクレムノスに向かったキャストリスちゃん、星ちゃんと別れ、聖都防衛のためにオクヘイマへと戻ってきました。カメラは別れ際に星ちゃんから預かったもので、オクヘイマの美しい景色を残しておいてほしいと頼まれています」

 

「何■■■■■■はよ■わか■■い■ど……う■、■■もあ■■を信■■る■!って■■■も■■は今■■■でき■■か■、■■■に■■た■■ま■■ど……■もで■、■■オンパロスの■■んな■■を「記憶」■■のが大■■と■■ん■!■■の直■だ■■!」

 

 

 何を言ってるのかは分からない。

 

 けれど、それが悪意と呼ばれる感情でないことだけは理解できる。

 

 

「なら行きましょう。一緒に」

 

 

 アーロディッタは落ちていたカメラを拾い上げ、そのシャッターを霧の向こうへ向けて切った。

 

 

◇◇◇

 

 

「ニカドリーに何が起きたか?その答えは簡単だ。それは凡王オーリパンの蛮行──タイタンの魂の剥奪、そしてその永久の保管だ」

 

 

 過去のクレムノスに突入し、ニカドリーに何が起きたのかを探る星達。

 

 その協力者となったのは謎多き豪傑、ゴーナウスだった。

 

 そしてクレムノスの最奥、ニカドリーの魂が閉じ込められた大広間へと足を踏み入れた今、彼はクレムノスに隠された、ニカドリーの真実を語り始めた。

 

 

「……そうだ。俺はお前達の求めている答えを持って、ここまでやってきた」

 

 

 勇気。

 

 

「『我等は神王の「勇気」を剣の器に封じ込めた』」

 

「『神王は戦場でただの一度として後退を選ぶことはなかった──ここにその証を遺す』」

 

「『それは深い闇の彼方、終末の訪れでさえも例外ではなかった』」

 

 

 栄誉。

 

 

「『我等は神王の「栄誉」を剣の器に封じ込めた』」

 

「『神王は戦場でただの一度として敵の背に大いなる矛を突き立てることはなかった──ここにその証を遺す』」

 

「『それは内憂外患の危機、致命の危機でさえも例外ではなかった』」

 

 

 忍耐。

 

 

「『我等は神王の「忍耐」を剣の器に封じ込めた』」

 

「『神王は戦場でただの一度として意志を屈することはなかった──ここにその証を遺す』」

 

「『それは強大な敵、神々の意志を呑む潮の脅威さえも例外ではなかった』」

 

 

 犠牲。

 

 

「『我等は神王の「犠牲」を剣の器に封じ込めた』」

 

「『神王は戦場でただの一度として自らの身を案じることはなかった──ここにその証を遺す』」

 

「『それは終末期、黄金の終焉でさえも例外ではなかった』」

 

 

 そして理性。

 

 二カドリーの持つ五つの神性の内、四つは鋳魂の剣に封印されていたが、理性だけはそこにはない。

 

 だが、最も失われるべきではなかった、二カドリーが何より遺すべきだと悟ったそれこそが「理性」。

 

 暗黒の潮に堕ちる寸前、二カドリーは誇りある勝利のため、自身の「理性」を剥ぎ取り、生き延びさせた。

 

 信じたのだ。

 

 いつかの未来、「理性」が暗黒の潮に堕ちた自らを解き放つ日を。

 

 そして、ゴーナウスは明かした。

 

 

「私こそが──二カドリーの「理性」だ」

 

 

 そして、彼は言う。

 

 

「二カドリーの魂は堕落しきっている。もはや道は1つしかない。その道では──お前達は、二カドリーの全霊にまみえることになるだろう」

 

「……それは、まさか──」

 

「ああ。この身を焚べ、完全なるタイタンを取り戻す。狂気から解き放たれた「天罰の矛」を」

 

 

 過去のクレムノスに訪れて、今までのほんの僅かな時間。

 

 されど、彼は多くの戦士の哲学を2人に語った。

 

 そして、彼は最後に伝える。

 

 「征途が偉大であるのも、叙事詩が雄大であるのも、この世の全てのものに終わりがあるからだ」と。

 

 キャストリスに自らの「死」を呪うことのないように諭し、旅を続ける星を祝福する。

 

 そして、「紛争」は人を育てるための、駆逐されるべき困難なのだと言い残し、過去と未来が重なったその瞬間、彼は自らの身体を、二カドリーの矛に投げた。

 

 

「征け、戦士達よ!私を倒し、闇に抗い──」

 

 

 与えし者。

 

 千軍の首。

 

 天罰の矛。

 

 

「明日へと、向かうのだ──!!」

 

 

 二カドリー、ここに回帰せり。

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