「……ニカドリー、沈黙……。……終わったん、ですね……」
聖都オクヘイマ、雲石の天宮、生命の花園。
空を見上げたアーロディッタは静かに目を瞑り、そっと手を合わせた。
「悼んでいるのですか、アーロディッタ」
「……ああ、先生。本当に、お疲れ様でした」
「いえ、まだ始まったばかりです。私達の目的は再創世であり、神殺しなどその手段に過ぎないのですから」
「……そう、ですよね。……ごめんなさい、頭、クラクラして……」
「大丈夫です。落ち着いて、深呼吸してください。それはあなたの大切な力であり、私が与えてしまった呪いでもあります。あなたの瞳は、否応なしに世界の真実を暴いてしまう。「嘘」を許さない人生がどれだけ苦痛なものか……無理解でいるつもりはありません」
頭を撫で、ゆっくりと背を擦り、アーロディッタのことを落ち着かせるアグライア。
荒くなっていた呼吸は次第に落ち着き、アーロディッタは彼女の手を取って立ち上がる。
「さあ、行きましょう、アーロディッタ。神を討った英雄達を出迎えなければ」
「はい、先生」
◇◇◇
「聞いたか!?あの話!!」
「ああ!モーディス様達がついにやったらしいな!!」
永遠の聖都、オクヘイマ。
水面下で黄金裔と元老院の対立が一層の苛烈さを増す中、市民達は齎された特報に沸きに沸いていた。
黄金裔によるニカドリー討伐の達成。
それは市民達に「火を追う旅」の価値を再認識させるには充分なものだった。
数千の市民が見守る中、待ち望んだその瞬間はついに訪れる。
「……!トリビー様の百界門だ……!!」
オクヘイマ正門に開かれる神々しい正三角形。
ファイノン、モーディス、トリビー、キャストリス、丹恒、そして星……姿を現した、ニカドリー討伐を成し遂げた勇者達は割れんばかりの拍手とともに迎えられる。
そして一歩前へ出たファイノンはオクヘイマの市民達へ高らかに告げる。
「みんな!僕達は異邦の旅人と共にニカドリーを打ち倒し、紛争の火種を持ち帰ってきた!火を追う旅を支持してくれた全ての人に、この結果を以て初めて応えられたと思う!でもこれはまだ旅の始まりに過ぎない……僕達はようやく再創世への一歩を踏み出せたんだ!!力を合わせて、僕達の手に明日を取り戻そう!!」
ファイノンの言葉に大歓声を上げる市民達。
トリビーも「これはファイちゃんの才能ね」とうんうん頷きながらそれを見守っている。
そして万雷の拍手の中、彼らはピュエロスで待つアグライア達の下へと帰還した。
◇◇◇
「よく無事で戻ってきましたね、ファイノン。それに客人も」
「余裕!オンパロスでも銀河打者は最強!」
「あまり調子に乗るな、星。それでこの後は……渦心で火種を返還すればいいんだな?」
「ああ。儀式は明日の予定だ。火種はモーディスが持ってる……って、あいつ、どこ行ったんだ?」
「モーディス様でしたら、今はクレムノスの方々を回っているそうです。「どうしても果たさなければならない仕事がある」と……」
黄金裔のピュエロスで待っていたアグライアにあれやこれやを報告するファイノン達。
そんな中、彼らはモーディスが姿を消していることに気がつく。
ちょうどそのことを口にした時、アーロディッタはゆったりとした足取りで姿を現した。
「……先生、モーディスくんの準備が整いました」
「そうですか。……ありがとうございます、アーロディッタ」
「待ってくれ、モーディスの準備って……一体どういうことだ?」
「……頼まれたんです。戻ってきたモーディスくんから。「俺は「紛争」となり、クレムノスの歴史の幕を下ろす。そのために力を貸してくれ」と」
「まさか、モーディスは……」
「はい。とっくのとうに、彼は理解してたんです。自分こそが「紛争」の器であること。そして……ファイノンくん、あなたこそが最後に残る一人であることを」
「……」
「だからモーディスくんは、ファイノンくんをそう呼んでいたんです。……「救世主」と」