星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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「紛争」の果てに

「……来たか。開拓者」

 

 

 オクヘイマの片隅、クレムノス居住区。

 

 その中庭には彼を慕うクレムノスの臣民らが集っていた。

 

 

「アーロディッタに呼ばれて来たけど……あんた、何するつもりなの?」

 

「為すべきことを為すだけだ。奴が救世主だというのなら俺は火を追う旅に加わった黄金裔として奴に希望を繋ぐ義務があり、そしてクレムノス王朝最後の王子として──民を導く責任がある」

 

 

 そう言ってモーディスはバルコニーから彼らを見下ろす。

 

 クレムノスの民は固唾を呑み、彼の言葉を待っている。

 

 

「奴らはまだ道標を探している途中だ。既に終わった征途、失われたはずの戦争を追い求め、それに縋っている。故に過去の栄光ではなく……明日の光を示さなければいけないんだ。そのためにお前の力を貸してくれ、開拓者」

 

「私の……「歳月」の力ってこと?」

 

「ああ。実際に戻る必要はない。……お前達が戻った在りし日のクレムノス、その景色をここに映し出してほしい」

 

 

◇◇◇

 

 

 「クレムノス人は栄光の凱旋よりも戦場で死することを選ぶ」

 

 馬鹿げた話だ。

 

 それが何を残し、何を生むというのだ。

 

 誰よりも戦場で死を迎えた彼は、そう呪った。

 

 父、クレムノス王オーリパンの手によって死の河(ステュクス)を彷徨った後、9年の漂流、10年の転戦を経てクレムノスへ凱旋した彼はその手で腐敗した父を討ち、「クレムノスの王は血を浴びて戴冠する」という伝統通りの道筋を辿った。

 

 だが、彼はその先を良しとしなかった。

 

 戦によって戦を生むクレムノスの伝統、生を疎み死を尊ぶ教育、戦場で迎える惨たらしい死に憧れる幼い子供達……彼は疑念を抱き、継承に恐怖した。

 

 それから間もなくオクヘイマに黄金裔が招集され、火を追う旅の再開が宣言された。

 

 無意味な死による断絶か、明日を求める旅路か。

 

 暗黒の潮がクレムノスに迫る中、彼は死を望まぬ民を連れ、オクヘイマへと逃げた。

 

 だが、クレムノスの民はオクヘイマに融和することを拒み、オクヘイマの民もそれに応えた。

 

 「野蛮人」「腑抜け」と罵り合い、互いを拒み合い、伝統を軽んじ合う。

 

 いつからか、クレムノスの民はいつの日か「紛争」の神権を取り戻した彼を王とし、クレムノスへ帰還することを心の支えにするようになった。

 

 だが、とある黄金裔の少女達が、それを許しはしなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「きおく、さいげん、できる──!!」

 

 

 ミュリオンが力を解き放つと、居住区は瞬く間にクレムノスの王城へと姿を変えていく。

 

 兵の出陣を告げるラッパは絶え間なく鳴り響き、老若男女を問うことなく、誰もが武器を持ち、青空の下を闊歩する。

 

 子供達は目を輝かせ、老人は歓喜に咽び泣く。

 

 在りし日の、夢に描いた戦の絶世、紛争の戦端、光の差すクレムノス。

 

 

「……メデイモス王万歳!!」

 

「メデイモス王万歳!!「紛争」万歳!!」

 

「メデイモス様こそ我らの王だ!!」

 

 

 民は沸き、王城のバルコニーから彼らを見下ろすモーディスへのありったけの賛美の言葉と、大歓声が響き渡る。

 

 

「黙れ!!」

 

 

 だが、モーディスはそれを一蹴した。

 

 

「お前達が郷愁に浸るクレムノスは何を生み出した?お前達が子に言い聞かせたクレムノスは何を創り上げた?……違う。全ては神の尖兵として奪っただけのものだ……クレムノスは、何も生み出してなどいない!!」

 

「……メデイモス様……?」

 

「お前達はこれ以上子に「戦場で死ね」「親が戦場で死ねば喜べ」と教えるつもりか!親に「戦場で死ね」と願うつもりなのか!何を守るためでもなく、何を得るためでもなく、戦うために戦うことの、死ぬために死ぬことに何の意味があると言うつもりだ!!」

 

「……ですが、それがクレムノスの伝統ではありませんか……!」

 

「ああ、そうだ。だが受け継いだ血は己の生き方を定めるものじゃない。俺はこの身体に流れる黄金の血、王の血筋を以て宣言しよう。惨めで、荒唐無稽で、人が神の手駒として良いように使われた歴史など唾棄されるべきものに過ぎないと!!」

 

 

 いつになく激しい感情を顕にし、民へ言い放つモーディス。

 

 憧れ、崇拝し、心の支えとしてきた王による否定に、民には隠しきれない動揺、どよめきが広がっていく。

 

 そんな中、モーディスの師匠でもあり、今のクレムノスの民をモーディスに代わってまとめ上げていた老人、ケラウトルスは彼に尋ねる。

 

 

「メデイモス様……あなたはクレムノスの民から全てを、千年築き上げてきた全てを奪おうとしているのです。……なら、あなたはそれと引き換えに、何を与えられるというのですか……!?」

 

「全てだ。クレムノス最後の王として、俺はお前達に、お前達の戦いに全てを与える。……聞け!!クレムノスの同胞よ!!今ここに、最後の機会がある!!「紛争」の戦跡、クレムノスの歴史に意味を持たせる最後の機会だ!!」

 

「クレムノスの……」

 

「歴史……?」

 

「……クレムノスは多くの都市国家を滅ぼし、多くの人間を屠ってきた。そして今、オンパロスに生きる全ての人間、光の差すオクヘイマで生きる全ての人間が滅亡の渦中にある。……これが王の最後の命令だ」

 

 

 モーディスは僅かに目を瞑り、そして民達の目を見据えて言った。

 

 

「同胞よ!!血に塗れたクレムノスの伝統を受け継ぐというのなら、クレムノスが奪った以上の全てを守り、クレムノスが屠った以上の命を救え!!敵を滅ぼすことを望むならオクヘイマの矛となれ!!戦場で死ぬことを望むのならオクヘイマの盾となれ!!ニカドリーがそうしたように──全てを賭して滅亡に立ち向かえ!!それを、お前達の……俺の……クレムノスの戦う理由としろ!!」

 

 

 憎み、蔑んでいたはずのオクヘイマ、その民のために戦え。

 

 王による最後の命令に、戸惑う臣民。

 

 そんな中で、一人の少女が口を開いた。

 

 

「……わたし、仕立て屋のお姉ちゃんにぬいぐるみを直してもらったの……わたし、あのお姉ちゃんを助けたい!!」

 

「ワシも黄金裔のお嬢ちゃんに折れた腕を直してもらった!!「痛いのはみんなおんなじですから」って……!!」

 

「俺も八百屋のおばちゃんに料理を教えてもらった!!あれがなかったら今頃飢え死にだ!!」

 

「私も──!」

 

「俺も──!」

 

「俺だって──!!」

 

 

 ヒアンシー、キャストリス、アーロディッタ。

 

 クレムノスとオクヘイマとの間の軋轢を許さなかった彼女達と、それに応えたオクヘイマ市民達。

 

 その心を受け取ったクレムノスの民の声は次第にそれはクレムノスの全盛期にも劣らない鬨となり、空高く響き渡る。

 

 

「クレムノス最後の王にしてゴルゴーの子、オンパロス黄金裔が一角……このメデイモスが宣言しよう!光歴2506年より時を刻んだクレムノス王朝は、光歴4931年を以て幕引きとする!!」

 

 

 かくして、モーディスは「人」としての、最後の役目を果たし、いつの間にか魔法の解けた居住区を静かに去った。

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