星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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人と天才と神の玉座(その4)

 戸惑い、僅かに怯えながらも少しずつ進んでいた星。少しの間を挟んで、ようやく封鎖部分には灯りが灯った。常夜灯程度のものではあるが、それでも真っ暗だった先程までと比べれば、少し心の余裕が出来るような光だった。灯りが点いて、彼女は、改めて周りを見渡した。宇宙ステーションの主制御部分によく似た構造と、外に見える惑星ブルーがそこがちゃんと宇宙ステーション「ヘルタ」の一部であることを教えてくれている。そして、彼女は少しだけ先程の暴走がフラッシュバックしながらも、情報収集の為に道の傍らで待機している小型ロボットに話しかけた。

 

「ジー、ジー、ようこそ、お客様。ジー、ジー、ここは高危険度警戒エリア。ジー、ジー、安全の保証はされません」

「なら、なんであんたはここにいるの?」

「ジー、ジー、封鎖部分の稼働を維持。無機生命体の役目です」

 

 やはり主制御部分のものとはどこか違うのか、音声に度々ノイズが混じる小型ロボット。それでも先程のように暴走はしないだろうと判断した星は、「ジー、ジー、訪問者様、何をお調べいたしますか?」と待機している小型ロボットに「マップを教えて」と声を掛けた。

 

「ジー、ジー、地下一階、中継中枢。ジー、ジー、地下二階、シャトルバス、シャーレ、危険物収容室。ジー、ジー、廊下、危険。ジー、ジー、地下三階、権限無し」

「権限無し?」

「ジー、ジー、訪問者様、何をお調べいたしますか?」

「……あ、訪問者のログって分かる?」

「ジー、ジー、ルアン・メェイ氏、、インシァン・ルアン・メェイ氏、ベリタス・レイシオ氏」

 

 その回答に星は「インシァンもここに……?」と小さく呟く。そして彼女は小型ロボットに別れを告げると、封鎖部分の奥まで進んでいった。

 

◇◇◇

 

「記録映像……?」

 

 灯る仄かな灯りの下、彼女は実験設備が並ぶエリアに足を踏み入れた。そして小さく呟き、星はふと端末に手を触れた。真っ暗な画面にルアンの姿が映った。

 

「「位相霊火」の種火は、とても面白いですね。残念ながら、研究が終わる前に消滅してしまいましたが。ですから、私はそれから着想を得た新たな実験を試みました。今回の、2つのサンプルは、とても順調に成長していますから、「概念」に私個人の好み、趣向を加えてみることにしました。この結果がどうなるのかは、私にも分かりません。もし、彼らがより高い次元へ達するのであれば、インシァンに「運命」を組み込んでもらうのも悪くないでしょうか。同時に2つの感情的な特徴を持つ彼らは、可愛らしく、弱く、繊細で、涙もろい反面、狂暴で、唆し、横暴で、自信を持っていることもあります。そして、彼らは面白いことに一つの傾向があります。自らの創造主を慕い、それに対して子が親を、生命が食べ物を、人が人を想うような、パラメータ化されない「感情」を抱いているんです」

 

 そんなルアンの言葉とともに映像は終わる。そして星がふと足元を見ると、そこにはケーキと猫が一体化したような生物がうずくまっていた。

 

「……あなたが、ルアン・メェイの言ってた「大きなトラブル」?ゴミ袋が抹茶ケーキになっただけじゃん」

「抹茶ケーキ?違うよ、私はアズキアッシュ……。このケーキも身体だけど……」

 

 そう答えるケーキは悲しそうにうつむいた。そして「ルアン・メェイ……」と呟き、また悲しそうに口を開いた。

 

「私は……ルアン・メェイに認められた作品じゃない……2つ目の成功作品にはなれなかった……うぅ……」

「やっぱり私の声なんだ」

「こんなネガティブなエネルギーばっかじゃ駄目……ネガティブなエネルギーは嫌だ……うぅ……」

 

 「こんな悲しそうで弱々しい私の声を聞くことはないから新鮮だなぁ」なんてことを考えつつ、星は「それを帳消しに出来るくらい天才的な部分とかあるんじゃない?私ほどじゃないにしろ」と慰める。しかし、アズキアッシュは「うぅ……ルアン・メェイ……うぅ……」と悲しそうにしたままだった。

 

「どうして……私、は……こんな……失敗作なんだろ……?」

「……あんたは「成功作品」になって、ルアン・メェイに迎えに来て欲しいってこと?」

「……うん、きっと……ルアン・メェイは「成功作品」しか迎えに来てくれないから……」

「そんな顔しないで。私についてきて、大丈夫だから」

 

 そう言って星はアズキアッシュをその腕に抱える。そして更に部屋を進むと、さっきの記録映像の続きのようなものがそばのモニターに流れた。

 

「#23阿茶が機械の街で過ごした最期と、それまでの長い年月は、彼女のような長命種であっても例外無く終わりを迎えるという再確認を、私にもたらしてくれました。……今回の培養結果は「不合格」である、そう断言して間違いありません。生命の形とは今なおこの瞬間にすら分かれ、増え続けている……だからこそ、生命は在り方そのものに意味を持つものではないと証明されているのです。この生命体達は、それぞれの概念で非常に遠くまで進み、さらには共感覚に近い連鎖反応まで引き起こすに至りました……ですが、それは私が求めているものではありません。再び、私には分からなくなってきてしまったのです。「生命の本質」とは何か、その問いに答える術を見失ってしまったのです。その問いに答えなど存在するのか、そもそも、そのような問いに意味はあるのか……#1ザンダーでさえ、このように迷い、絶望したことがあるのでしょうか?生命とは無限の色彩を持ち、不易の美しさを持つものである、私はそう信じています。例えるのであれば、それはどれだけの花弁を散らしてもなお満開で有り続ける桜のような。多くの物事は無秩序に舞い散る花弁のようなものですが、それには元の枝があり、幹があり、根があります。であれば、万事万物には等しく、シンプルな共通項が存在し、それらを紐解くことで衆生の迷いは晴れるのでしょう。物心ついた時から、私は微生物の痕跡を眺め、そこから宇宙の法則を導くことに心を躍らせました。細胞1つに満たない微生物から、私達を覆い尽くす広大な銀河まで、そこには「生命の本質」があるはずです。私は、ルアン・メェイは……再び……「完成品」のような、答えを得ることが出来るのでしょうか?」

 

 そんな彼女の自問自答が終わり、映像は切れた。アズキアッシュは、黙ってその話を聞いていた。「あ、そうだ」と思い出したように星はそれに尋ねる。

 

「そうだ、あんた「インシァン」って知ってる?」

「知らない……ルアン・メェイは私みたいな失敗作には教えてくれないから……」

「そっか、ごめんね」

 

 そしてアズキアッシュは「少しだけ、一人にして……」と星の元を離れる。そしてそれと別れた星は、ふと部屋の隅に隠されたような扉を発見し、そこへ駆け寄った。

 

「ジー、ジー、隠し部屋です。管理権限は「ルアン・メェイ」にのみ与えられています。証明書を提示して下さい」

 

 そこには、先程と同じ小型ロボットが待機していた。そしてそう言われた星は、ルアン・メェイが自分の指紋を登録したことを思い出す。彼女はロボットに触れてみせた。

 

「……認証成功。権限を確認しました。ジー、ジー、以下のサービスから選択して下さい。1、培養記録の照会。2、無機生命体交流サービス」

「……じゃあ、交流サービスで」

「ジー、ジー、本機能は壊れています」

「じゃあ、培養記録の照会で」

 

 星が選択すると、小型ロボットは隠し部屋の照明を消し、壁に映像を映し出す。先程の記録映像、その続きだった。そして、映像の中のルアンは語り出した。

 

「私は、今一度、「完成品」に立ち返ることにしました。それは理解不能でもありながら、間違いなく「生命の在り方」であると言える存在。それこそが「星神」、そして「使令」です。それらを、私はまだ上手く理解できていません。学者は、「星神」を「運命」でありながら「運命の行人」の最果てであると見做し、「使令」を其の力の代行者と見做しています。では、いつから「使令」は他の生命体を差し置いて「星神」に近づいたのでしょうか。私はこの地にて、最初に「天才」を育てようとしました。ですが、それは失敗に終わってしまいました。この問題にはまだ未解決で、未証明の問題が積み上がっていて、探索にはまだ長い道のりが待ち構えています。しかし、この宇宙に満ちる運命は数多に枝分かれしていて、「知恵」はその1つに過ぎません。ならば、他の運命を歩み、理性を捨て、原始へ帰れば、より純粋で、ほんの僅かでも「完成品」に近い生命が、出来上がるのではないでしょうか?そして、私はそれほどまでに純粋な「生命」を知っていました。「繁殖」の星神、タイズルス。たった一つの生命体でありながら、その運命の下に増殖し、銀河の半分を飲み込むに至った「蟲の王」。私は、再び其と、其の子孫のデータを手にし、培養しました。もしこれが「完成品」と同じ道を辿るのであれば、私はきっと成功するでしょう。私が復元した「それ」は、かつてと同じ感動を、私にもたらしてくれるはずです。……ヘルタと、スクリューガムは、きっとこの実験を気に入ってはくれないでしょう。でも……」

 

 彼女が何かを言いかけて、その映像は切れた。なんとも言えない不穏さと、彼女の膨大な知識欲と好奇心を垣間見た星は、この先に待ち受ける試練を直感する。しかし、その映像はふっと、一瞬だけ、その続きが再生された。

 

「……「完成品(あの子)」は、喜んでくれるでしょうから」

 

 そう言って、映像の中のルアンは、母親らしく笑った。




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