星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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インシァンと星核ハンター

 星核ハンター。それは「万界の癌」とも称され、顕れた星に深刻かつ極めて大規模な厄災を引き起こす謎の超危険物質、「星核」を蒐集する犯罪者集団。「運命の奴隷」と称されるエリオという男の書き上げる「脚本」に従って動く彼彼女らの首には、大なり小なり10桁を下らない莫大な賞金がスターピースカンパニーの手によって懸けられている。現在のインシァンは、そんな組織の一員だった。

 

 天才クラブ内でさえ「マッドサイエンティスト」と噂される母ルアンによく似たインシァンは、善悪に無頓着で、好奇心旺盛で、何よりも自分の感覚を信じるタイプ。「既にあるものに大した価値は無い」という母の教えは彼女のそのような傾向を更に加速させた。

 星核ハンターに入る以前は、ルアンから贈られた、とある星の秘匿された研究室で「運命」について研究し、「知恵」の星神「ヌース」からも一瞥を受けるほどであった彼女だったが、ある日任務でその星を訪れた、恐怖の欠落した殺し屋、カフカと焔の鉄鎧を纏う生体兵器サム、或いはホタルと出会い、そしてエリオから持ち掛けられた取引に応じたことで彼女は星核ハンターに加入することとなった。彼女から直接それを伝えられたルアンは、旅立つ娘をかなり過保護な親心と共に送り出した。

 

 それからというもの、彼女の生活は中々悪いものではなかった。前と変わらず星核ハンターの拠点で気ままに研究しつつ、時々渡されるエリオの「脚本」に沿って任務を果たすだけの簡単なお仕事。ちなみに彼女の研究費用はカフカからのお小遣いやルアンからの仕送りで賄われている。というかほとんど仕送り。少々過保護気味なルアンからの仕送りはかなり過剰で、前にインシァンが「流石にこんなにはいらないです」と伝えたところ「インシァン……あなたも、私の下を去ってしまうのですね……」ってガチで悲しそうな顔をされたため現在までそのままとなっていた。ちなみに余剰分はカフカが管理している。

 そんな彼女の星核ハンターでの役割は任務以外では怪我の治療や看病、刃がメインで行っている家事の手伝いなど多岐に渡る。スイーツに釣られてカフカの荷物持ちについて行くこともあれば、ホタルと街を歩いてお小遣いと相談しながら買い物することも、銀狼にゲームを教えてもらうことも、刃に仙舟料理を教わることだってある。組織名と主な活動内容に目をつぶれば、その生活は非常に年頃の少女らしい物だった。

 

 初めての任務は、カンパニーの研究所から星核を回収する、というものだった。「運命」の研究の中でその存在に興味が湧いていたインシァンは、二つ返事でそれを引き受けた。そして「流石に本名でやるというのはアレなんじゃ?」というホタルの提案に乗っかり、自身の名である「桜の扇(インシァン)」から取って、彼女は星核ハンター「桜花」としてその任務に臨むことになった。

 結論から言えば、それは取り沙汰するべき幕も無いほど呆気なく終わった。判明したことと言えば、彼女は任務中でもお構い無しに研究に見入ってしまうほど好奇心で生きていることと、それはもうあり得ないほど恐ろしく銃の扱いがヘタクソなこと、そしてそれらが霞んで見えなくなるほど「才能」があったこと。エリオの脚本に最低限従って帰ってきた彼女から飛び出した感想は「星核、初めて見ました」と心底嬉しそうなものだった。カフカはそれを微笑ましく思いながら「これから飽きるくらい見れるわよ」と笑った。

 

 それから仙舟を彷徨っていた不死身の剣士、刃を拾い、天才クラブ#76、 スクリューガムに喧嘩を売ってハッキング勝負を仕掛けたもののあえなく敗北した天才ハッカー、銀狼を拾い、そしてエリオが連れてきた、星核を人体に取り込む為に作られた人造人間、いわばベクターである星を加え、星核ハンターは完成した。カフカや刃は彼女に戦闘を仕込み、ホタルとインシァン、銀狼は彼女に常識を教えた。惜しむらくはホタルもインシァンも一般常識がそこそこ欠けており、面白がった銀狼もそれを止めることがなかったことだろうか。

 

 そして、物語が大きく動き出したのは星が星核を取り込むことになる、その日のことだった。

 

◇◇◇

 

「アスター所長、ご無沙汰してます」

「ああ、ミス・インシァン!久しぶりね!」

「少々忙しかったので。それと、「ミス」は止めて下さい。私はまだ「知恵(ヌース)」の招待を受けていませんから」

 

 旧友との再会を果たした彼女はそう言って微笑んだ。そしてインシァンが「彼女は、今どちらに?」と尋ねると、彼女は「さあ?いつもみたいにオフィスにはいると思うけど」と答える。

 

「最近もまた何かやってるみたいだけど、その手伝い?」

「ええ。そんなところです。それ以外にも、少し見て回ろうかと」

「ぜひそうして!前来たときよりもずっと所蔵物も増えてるから!」

「そうなんですね。それでは、失礼します」

 

 そう言って別れると、彼女は再び宇宙ステーションの所長としての業務に戻っていく。インシァンはちゃんと辿り着けるか少し心配そうにしながら宇宙ステーションのパンフレットを開くと、そのオフィスの在処を確かめ、その景色を味わうようにゆっくりと歩き出した。

 

「失礼します」

 

 彼女が扉を開けると、そこにはこの宇宙ステーションのどこよりも未来を行くような景色が広がっていた。壁に並ぶ無数のアーカイブに、飾られた歴代の「天才クラブ」会員の肖像画。「#1」ザンダー・ワン・クワバラ、「#4」ポルカ・カカム、「#22」リルタ、「#56」イリアスサラス、「#76」スクリューガム。そして……。

 

「ご無沙汰してます、ミス・ヘルタ」

 

 「#83」ヘルタ。多くの伝説を残し、数々の偉業を積み上げ、自ら作り上げたこの宇宙ステーション「ヘルタ」に名を冠する、正真正銘の天才である。




インシァンは星と同じくらいかちょっとだけ小さいくらいのサイズ感です
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