星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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人と天才と神の玉座(エピローグ)

「天才達の会議は、つい先程終わりました。そちらも、無事に終わったようですね。お疲れ様でした、助手さん」

 

 そう言って、ルアンは星のことを、さもそれがあるべき姿であるかのように出迎えた。それに対して星が「頑張った銀河打者を労うにはちょっと言葉足らずなんじゃない?」と冗談半分真面目3割怒り2割で言うと、彼女は「それは、当然の反応だと思います」と俯いた。

 

「申し訳ありません、星。私には、何も弁解の余地がありません。私は今まで数多くの失敗を重ねてきましたが、そのどれもが予想した通りの失敗でした。当然、今回の件も取るに足らない失敗に過ぎません」

「……ねえ、ルアン。あんたの口から聞かせて。あの蟲は結局なんだったの?」

「「砕星王蟲」スキャラカバズ……今は亡き「繁殖」の使令、そのクローンです。ですが……結局のところ、あの実験体は本物には似ても似つかない出来でした」

「本物はもっと凄いんだ……」

 

 そう呟いて先程の扇子でパタパタと自分を扇ぐ星。ルアンは彼女が手に持った「それ」を見て、僅かに目の色を変えた。

 

「その扇子……」

「これ?蟲と戦ってる時に落ちてきた」

「……あなたは、どのようにあのクローンを退けたのですか?」

「正直、あんまりよく分かってない。扇子を掴んだ瞬間、何かに首を撫でられた気がして、今までと違う力が一気に流れ込んできて……それで、気付いたら勝ってた」

 

 そう答えた星にルアンは目を瞑り、数秒の間考える。そして彼女は「……分かりました」と誰に向けてか、何かを決めたように呟いた。

 

「「報酬」をお渡しする、そう約束していましたね、助手さん。望むものをあなたに差し上げます。どうぞ、好きなものを言って下さい」

「……なら、「真実」を教えて。ルアン」

「……あなたは、そう言うと思っていました」

 

 そう頷くと、ルアンはおもむろに語り出した。

 

「先程、あなたに「反自白剤」を投与した、そう伝えましたね」

「うん。かなり迷惑だった」

「実は、私があなたに加えた薬は、それだけではないんです。「反自白剤」、「忘却剤」、そして「「知恵」の行薬」」

「……続けて」

「「反自白剤」は話した通りです。「忘却剤」はあなたが今回の件を含めて、「ルアン・メェイ」についての記憶が緩やかに、例えれば、一週間前に食べた朝食のメニュー、先月のニュースの速報、そんな取るに足らないことに混ざって消えていく、そんな薬です。そして「行薬」。これは、とある研究者が開発した、使用者を「運命」の入口に立たせる薬です」

「「運命」の……」

「はい。……一つ、質問なのですが、今回のあなたは何故「シャーレ」まで行ってしまったのですか?」

「……分かんない。知りたかった、としか言えないと思う」

「それはきっと、正しい答えです。「未知を既知へ」、それこそが「知恵」の運命のあるべき姿ですから。「行薬」とは、その運命のあるべき姿へ、少しだけ、その背を押す薬なんです」

 

 そしてルアンは何か小さな箱のようなものをポケットから取り出すと、星に差し出した。

 

「……これ、何?」

「最終確認のようなものだと思って下さい。申し訳ありません、私は心配性なので、このような形でもう一度。それは「忘却剤」を打ち消す薬です。それを飲んだのなら、もう引き返すことは出来ません。あなたは、ヘルタやスクリューガムでさえ知らない真実を知ることになるのですから」

「じゃあ……」

 

 そう言って、星は箱の中に入った小さな瓶、その中身を一息に飲み干した。

 

「これで、私も天才クラブ入り間違いなしだね」

「……あなたには、敵いませんね。分かりました、全てを話しましょう。……私は、今回の実験で「使令」の再現を試みると同時に、「完成品」の再現を試みました」

「「完成品」……」

「それはかつて神であり、今においては最も神に近い生命体。私が「繁殖」を用いて作り上げた完全な「生命」です。多くの変数の重なりの果てに生まれたその生命は、私の予想を超越しながら成長を続けています。私は、その幸福を忘れることが出来ていません。研究者として、そして一人の「ルアン・メェイ」という人間として、私はその実験を通して多くの喜びを得たんです。しかし、ヘルタの言っていた通り、実験において「停滞」とは悪です。そして、私は未だその「完成品」より先へ進めていない。故に私は、この宇宙ステーションで「天才」を、そして「使令」を創り上げることでその先に繋がる手がかりを得ようとしました。結果については、あなたの知る通りに失敗に終わってしまいましたが」

 

 少し残念そうに言うルアン。そして星は、意を決して、最も重要な質問を切り出した。

 

「ルアン、「完成品」って、一体何なの?」

「それは……私の口から伝えるのは相応しくありません。それを知りたいのであれば……その扇子を持って、もう一度「シャーレ」に向かって下さい。「完成品(あの子)」が、そこで待っていますから」

「……分かった」

 

 そう言って、星はゆっくりとルアンの下を去っていく。

 

「じゃあね、ルアン。結構楽しかったよ」

「はい。……あなたのことを忘れない、そう約束します。私の助手さん」

 

◇◇◇

 

 エレベーターを、星は長く感じた。斜行昇降機を、星は遠く感じた。そして再び戻った「シャーレ」は、不気味なほどに静かだった。そして、少しずつ歩きながら、星は「インシァン」のことを思い出した。ルアンが口に出さなかったということは、おそらく会えたのだろう。そんなことを考え、その中心に辿り着いた彼女は、ふと培養器の破片が跡形もなく片付けられていることに気がついた。そして、彼女が立ち止まって考えようとしたその瞬間、「シャーレ」の中央は、僅かなモーターの駆動音とともに下降を開始した。

 

「っ……どういうこと……?」

 

 そう呟いた瞬間、星は小型ロボットの言葉を思い出す。「地下三階、権限無し」、自分が向かっているのがその「権限無し」だと、彼女は理解した。身体に盛られた「知恵の行薬」のせいか、初めて封鎖部分を訪れた時の恐怖はどこかへ消え失せ、そこには真実を前にした好奇心だけがあった。そして下降が止まって暗い部屋に辿り着いた星。彼女が周囲を見回すと、僅かに泡の浮かぶ培養器が並んでいる。「実験室……?」と彼女が首を傾げると、部屋の奥に座る少女に気がついた。モニターの光だけが部屋を仄かに照らす中、星に気がついたらしい少女は、パンプスの足音を響かせながら彼女の下へ近づいてくる。ふと吹いた風が星の首を優しく撫でる。そして、彼女の顔に気がついた星は「嘘……」と呟いた。

 

「お久しぶりですね、星ちゃん」

「っ……あんたは……」

「ああ、こちらで会うのは初めてでしたね。いえ、あなたの想像する通りだと思いますから、安心して下さい」

 

 そして彼女は星が手に持った扇子を見て、「どうでしたか?「繁殖()」の力は」と笑うが、星は答えなかった。「いえ、構いません」と少女は笑った。

 

「改めて、自己紹介をしましょうか。「桜花」は「星核ハンター」としての名ですから」

「……」

「私は「インシァン・ルアン・メェイ」」

 

 そして、彼女は柔らかく微笑みながら言う。

 

「「ルアン・メェイ」の娘であり」

 

 星の頭が、あらゆる答え合わせを済ませていく。

 

「その「複製品(クローン)」であり、その「完成品」」

 

 まだ、言葉は続く。

 

「そして、あなたが「星核」を宿すように「星神」をその身に宿した……」

 

 彼女は、微笑んだ。

 

「「繁殖(タイズルス)」の「複製品(クローン)」です」

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