星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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チェックイン

 宴の星、あるいは、夢の地。ピノコニーという星は、そのように語られる。アスデナ星系に位置するその星は、星の大海に聳え立つ、「調和」の派閥、「ファミリー」が管理する豪勢なリゾート、「ホテル・レバリー」であり、その地には銀河に名だたる数多の大物が集う。彼の夢の地を求めて一生を費やす者も少なくないが、その多くは夢を掴むこと無く一生を終える。ピノコニーとは、そのような場所である。

 そして、彼女はその地に足を踏み入れた。「脚本」によれば、彼女の友人は12システム時間ほど先にホテル・レバリーを訪れることになっていたため、彼女は一人だった。ピノコニー及びアスデナ星系は「憶質」と呼ばれる、生命体の記憶を閉じ込めておく物質が多く存在する星であり、そのために時間の流れは星系の内部と外部で変わる。12システム時間もあれば、友人は「夢の中」を三日くらいは過ごしているんだろうか、そんなことを考えながら、彼女はホテルの入口を進んだ。ホテル・レバリーの入場検査(イミグレーション)はとても冗長で、形式的で、退屈だったが、彼女は思考実験に耽ることでその空隙を相殺した。その時は折しも一琥珀紀に一度の、ピノコニーが「調和」の祝福を受ける儀式である、「調和セレモニー」の開催を控えており、ホテル・レバリーはファミリーからの招待状を受け取った招待客や、盛大な「調和」の祭典を一目見んとする一般客で賑わっていた。彼女は、その人の群れの中に混ざっていた。

 ようやく入場検査が終わったのは、彼女の思考実験が一つの論文にまとまりかけた頃だった。並の学者であれば、学会で地位を獲得できる程度のそれを思考の片隅に放り投げ、彼女は返却されたトランクケースを受け取った。その中身は、いくつかの着替えと、実験データが保存されたノートパソコン程度のもの。これだけの検査にしては時間を使い過ぎだろう、とファミリーの生真面目さにため息を吐きながらも、彼女はホテル・レバリーのロビーへと到着した。

 「酷く絢爛」、彼女はロビー一つを、そのように称した。銀河の端から端にかけて集められた最上級の調度品が宿泊客を出迎え、上空から見ると巨大な蹄鉄状になった客室は全てを見渡せないほどに広がっている。母ほどではないにしろ、余りそのような豪華さを好まない彼女でさえ、悪い心地がしないほどに、そこは整えられた空間だった。

 彼女はチェックインの前に、ロビーのカフェテリアで一杯の紅茶と、チーズケーキを注文した。そして、彼女がそれに静かに、舌鼓を打っていると、その隣に一人の少女が座った。

 

「ご一緒しても良いかしら?」

「どうぞ、構いません」

 

 天環族、即ち天使の輪のような物を頭の上に浮かべた少女は、同じように紅茶とチーズケーキを注文した。そして、その味を邪魔しないようにしながら、少女は話しかけた。

 

「今日は一人で?」

「いえ、中で友達と待ち合わせを」

「それは素敵ね。夢は一人で見るよりも皆で見るほうが楽しいもの」

「あなたは?」

「私は、ピノコニー出身なの。大人になって星を出たのだけれど、こうして「調和セレモニー」に招待されて戻ってきたのよ」

 

 少しの間、心地よい世間話をした後に、食べ終わった彼女は少女に別れを告げた。そして、彼女はフロントへ向かった。列には、様々な人間が並んでいる。有機生命体向けのビジネスで大成功を収めた無機生命体、紫色の長髪を靡かせ、1本の大太刀を持った、「巡海レンジャー」を名乗る女性、カンパニーに70年務め続け、その退職金で家族旅行に訪れた老人とその子、孫達……。彼女の番が訪れたのは、十数分が経った頃だった。

 

「お待たせしました。ご予約のお名前を伺ってもよろしいですか?」

 

 そう尋ねたフロント係に、彼女はその首を横に振る。そして彼女は、自身の爪で親指の腹を切り裂くと、「申し訳ありません、ホテル・レバリーは当日の宿泊はお断りしていまして……」と述べるフロント係の首にその手を当てた。その血液は幻覚作用及び反認識作用が含まれていて、周囲の人間の感覚を著しく乱す。彼女以外の誰もが、その瞬間を正しく認識できてはいなかった。そして数秒の沈黙を挟み、フロント係は「ご予約の確認が取れました」と一冊の無記名のパスポートを彼女に手渡した。彼女はフロント係の首に付着した自身の血液を拭うと、その場を離れた。そして、連絡が入った。

 

『どう?』

『「ホテル・レバリー」には入れたかしら?』

『「夢」を楽しんでくるのよ、「桜花」』




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