星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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あのピノコニーの視点が混ざりまくるやつ好きなので頑張ります


ホテル・レバリーにて(その1)

「うわー!やっぱりすっごい豪華だね!」

 

 星穹列車のナナシビト、三月なのかは声を上げた。紆余曲折あったものの、カンパニーやファミリーの人間との新たな出会いもあり、無事にチェックインを終えた星穹列車御一行様。彼らはロビーから客室棟エレベーターに乗り込み、そのバーラウンジを訪れていた。

 

「ねえ星!ピノコニーは「スラーダ」っていう飲み物が有名なんだって!飲んでみようよ!」

「馬鹿にしないで、なの。私クラスになるとスラーダなんて一日10リットルは飲んでるよ」

「あんたってよくそんな真っ赤な嘘を堂々と吐けるよね……」

「取り敢えず、一休みしてからそれぞれの部屋に向かいましょう」

 

 そしてラウンジ中央のバーテンダーの下に駆け寄り、よく冷えたスラーダを用意してもらう二人。彼女達を微笑ましく眺めながら、星穹列車のナビゲーターである姫子と、古参のヴェルトは近くのソファに腰掛けた。

 

「……何か、話したいことでもあるのか?」

「ええ。「ファミリー」からの招待状を覚えてる?」

「ああ。「「ファミリーのゲスト」をピノコニーに招待いたします。他のゲストとともに盛大な宴にご参加下さい」、俺達がここに来た最大の理由だ。……いや、その口ぶりだと、続きでもあるかのようだな」

「よく分かったわね。「夢の中で不可能を見届け、ピノコニーの父「時計屋」の遺産を探し出し、「生命体は、何故眠るのか」という問いにお答えください」、確かに、あの招待状はそう続けられていたわ」

「……記憶にないな。暗号でも仕込まれていたということか?」

 

 ヴェルトが尋ねると、姫子はその首を縦に振った。

 

「「ファミリー」からの招待状はオルゴールのゼンマイを巻くと、メロディーに乗せてメッセージが流れるというものだった。でも、その肝心のメロディーの中にいくつかの不協和音が混ざっていたのよ」

「……それを解読した結果、さっきの文章が得られたというわけか。ナナシビトが使う緊急連絡手段に似ているな。いつ気付いたんだ?」

「あんた達が「羅浮」を救った直後よ。これに気付いてるのは私達だけじゃない。おそらくカンパニーも気付いているでしょうね」

「……となると、「ファミリー」も潔白と言い切れる状況ではなさそうだな。ただでさえ、彼らが他の派閥を招待することは極めて稀なケースだ。これらの懸念が現実のものだとすれば……「セレモニー」は一筋縄では行かないぞ。……子どもたちにも、伝えるべきなんじゃないか?」

「ええ、私もそう思ったの。だから、出発前に丹恒と三月ちゃんには話しておいたわ」

 

 そう言うと同時に、スラーダを貰ってきたなのかと星がヴェルト達の下に戻ってくる。そしてヴェルトは顎に手を当てて微笑んだ。

 

「……なるほど。どうやら、知らなかったのは俺だけだったらしい」

「安心してヴェルト。この銀河打者でさえ知らされてなかったからね」

「もう……あんたのその自己肯定感ってどこから湧いてくるの?」

「ふっ、男子三日会わざればとも言うが、本当に若者の成長は早いな。目を離した隙にまた頼もしくなったようだ」

「ええ、そうね。でも、冒険には少しの慎重さも必要よ。多分、今のピノコニーは多くの派閥が混ざり合って複雑な状況を組み上げているの。もう少し事実が明らかになるまで、無闇な行動は避けた方が良いかも知れないわ」

「つまり、取り敢えず今はバカンスを楽しめば良いってこと……だよね?」

「ええ、そういうことよ。ピノコニーは宇宙有数のリゾート地、ほとんどの人が一生足を踏み入れることがないような場所だもの」

「それなら任せて。この銀河打者ほど休み時間の使い方が上手いナナシビトはいないからね」

「休み時間……って、意味変わっちゃうしあんた学校も通ったことないでしょ?!」

「あっ、学歴厨にレスバで負けちゃうじゃん……」

「気にするとこそこ?って、早く飲まないとスラーダの炭酸が抜けちゃう!」

「そうだな」

 

 そして彼女達は一人一つ、スラーダのパチパチと弾けるグラスを手に取ると、無事にピノコニーに辿り着いたことを祝して乾杯した。

 

◇◇◇

 

「じゃあ星、また後でね!」

「うん。プラチナルームとか超楽しみだね」

 

 そんな風に言葉をかわしながら自分達の部屋に向かっていくなのかや星。「まだ行かないの?」と姫子に尋ねられたヴェルトは頷き、「もう少し休んでからな」と答える。姫子はその答えを聞いて、「じゃあ、お先に失礼するわ」と彼女達のように自らに割り当てられた部屋へ向かった。

 

「……さて」

 

 彼はソファを立ち上がると、カウンターで一人で飲んでいる、品の良い黒いスーツを纏った少女に声を掛ける。

 

「お嬢さん、ご一緒させてもらえるか?」

「ええ。構いませんよ」

 

 ヴェルトがその隣に座ると、彼女は落ち着いた色のモクテルと、練り菓子を味わっているのが分かった。

 

「失礼、そのモクテルは何のフレーバーだ?」

「これは……紅蓮葉茶をスラーダで割ってもらったんです。すっきりしていて、とても味わいやすいですよ」

「そうか。なら、俺も同じものを頂けるか」

 

 ヴェルトが注文すると、バーテンダーは「かしこまりました」とそのモクテルを用意し始めた。

 

「それで、何か私に聞きたいことでも?」

「いや、そんな大層な話じゃない。ただ、俺達の話が気になっているようだったからな」

「はい、友達が「開拓(ナナシビト)」に憧れていて、時々話を聞かされているんです。それで、初めてそれらしい方々を見かけたものですから」

「そうか。そのご友人もピノコニーに来ているのか?」

「はい。「夢」で会う予定です」

 

 バーテンダーは、作り終えたモクテルをヴェルトに差し出した。赤とピンクが柔らかく混ざった中に、泡沫のように炭酸が浮かんでいる。ヴェルトが一口飲むと、薄味の花の蜜のような、すっきりとしていて、されど味わい深い不思議な感覚が舌を撫でる。「なるほど」と彼は呟いた。

 

「悪くないな。人は選ぶかも知れないが、少なくとも俺は好きな味だ」

「そう言って頂けると幸いです。……ああ、そろそろ、時間が」

 

 彼女は懐中時計を覗くと、その席を立った。

 

「突然ご一緒させてもらったんだ、お代は俺に持たせてくれ」

「では、お言葉に甘えて」

 

 そして彼女は一つのトランクケースを持ってその場を去ろうとする。だが、何か思い出したように「そうでした」と呟いた。

 

「「生命体は、何故眠るのか」……その答えは、お持ちですか?」

「……っ、まさか君も……」

「いえ、安心して下さい。私は……」

 

 彼女が何かを言おうとしたその瞬間、ヴェルトはほんの一瞬だけ、強烈な麻酔のような睡魔に襲われる。

 

「……では、夢の中で会いましょう」

 

 そして再び目を開けると、彼女は跡形もなく消えていた。




高評価とか感想よろしくお願いします
あと「インシァン」ってめちゃくちゃエゴサしやすくて面白いです
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