でも星は本来の主人公だからもっと出番を増やしても良いって通りすがりの銀河打者が言ってました。
「ええっと……私の部屋は……取り敢えず一番良さそうな部屋探せばいっか」
「なんかアップグレードしたみたいなこと言ってたし」と星は悠々自適に、肩で風を切って、ホテル・レバリーの客室棟の廊下を歩いていた。そして彼女はとある部屋の前で立ち止まった。
「おっ、この部屋とか良さそうじゃん」
そして自分の夢境パスポートを確認すると、丁度その部屋こそ星に割り当てられた部屋だった。彼女は「やっぱ銀河打者ってのは運も兼ね備えてこそだね」と誰が見るわけでもないドヤ顔をしながら、部屋の扉を開けた。そのドヤ顔の、目撃者が発生した。
「ああ、君か。また会うなんて本当に奇遇だね」
そう言って彼女に挨拶をした彼の名はアベンチュリン。先程のフロントでのトラブルで関わりを持った、カンパニーの戦略投資部で不良債権の処理を担当する専門家である。
「全くだね、マイフレンド!」
「ああ、そうだとも、マイフレンド!君のようなノリの良い子、僕は嫌いじゃないよ」
「それで、マイフレンド、私の見間違いじゃないかつロックのセキュリティミスじゃないかつ私の夢境パスポートの印刷ミスじゃなかったらこの部屋はこの銀河打者専用のはずなんだけど、なんで私以外がいるんだと思う?」
「「銀河打者」!それはまたユニークな二つ名だね。それで、そんなに警戒しなくてもいいよ。僕はこの部屋の幸せな空気をもう少しの間味わっていたかっただけだからね」
「幸せな空気?ならこんな美少女と一緒の方が幸せだよ。良かったね、マイフレンド」
「それも一理あるかもしれないね。でも、君にも分かるだろう?ラッキーな棟番号に、ラッキーなフロア、そしてラッキーな部屋番号……僕はこの素晴らしい部屋を予約するのに結構苦労したんだ。もう分かったと思うけど、この部屋はつい半システム時間前は僕の部屋だったんだよ」
「やっぱり良い感じの部屋だったんだね。私にピッタリ」
「ああ。そう言ってくれると報われるね。せっかく譲ってあげたんだ、楽しんでくれよ?マイフレンド」
「もちろん!」
そう満開の笑顔で答えた星に「そう、それで良いんだ」とアベンチュリンは頷いた。
「このピノコニーは正真正銘の「夢の地」だ。この銀河に生きる人々のほとんどは、ホテル・レバリーの宿泊権を手に入れるためには一生を費やしたっても足りないだろう」
「……あ、姫子もそんなこと言ってたような……」
「ここに泊まれるのがどのような人種か、君は一度考えてみると良い。「ファミリー」は、僕が裏で手を回したからこそ、君のような「招かれざる客」に対してその扉を開いたんだ。それを考えれば、僕にはもう少しこの部屋で過ごす権利も、その間に君とじっくり話をする権利もある。……違うかい?」
「……えっちなことしたいの?私も初めてだよ?」
「まさか。もっと大事な話だよ。簡単に言えば、僕には君の助けが必要なんだ。いや、正確に言えば、君だけじゃない。今の僕には一人でも多くの、信用できる友人が必要でね。君も薄々感づいてると思うけど、ピノコニーは見た目のままの楽園ってわけじゃない。あちらこちらに「ファミリー」の手の者が潜んでいるんだ。分かるだろ?」
「ま、確かに綺麗なものの裏側ってだいたいびっくりするくらい汚いしね」
「僕の目的は単純明快、カンパニーの所有物をカンパニーの手に取り戻すことだ。知っての通り、ピノコニーは1000年前にはカンパニーの保有していた辺境の監獄に過ぎなかったんだ。僕は、それを再び取り返すために来ていてね。もし、君が僕のことを手伝ってくれるなら、成功した暁には十分な見返りと「存護」の加護を保証しよう」
「えっ給料出るの?」
「ああ。望むのなら、カンパニーにポストを用意したって良い。僕はそれが出来る立場の人間で、そして君はそれだけの恩恵を受けるべき、特別な人間だ。君と手を組むことは僕にとっても切り札に鳴りうるからね。どうだい?賭けてみる気にはなったかな?……「星核」ちゃん」
そう言われた瞬間、星はその目を見開く。アベンチュリンはその顔を見て、満足気に笑う。
「もちろん、すぐに答える必要はないよ。仲間と相談してもらっても構わないし、逆に僕のことを利用するのも構わない。取引というのはWin-Winなものだし、何より、君達が選択により多くの時間をかければかけるほど、その答えには重みが生まれ、価値が生まれる。……でも、僕は損する取引はしない主義なんだ。僕をがっかりさせないでくれよ、マイフレンド?」
「良いよ、私も儲かる話は好きなんだ。良い答えを待ってて」
「良い返事だ」
そしてアベンチュリンは彼女の答えに頷くと、部屋を去ろうとする。「ばいばーい」と星が手を振ろうとしたところで、彼は「そうだ」と振り返った。
「最後にゲームをしよう」
「ゲーム?」
「ああ。何、せっかくこうして出会ったんだ、ゲームといっても互いのことをよく知るための簡単なものだよ。僕は君のことが知りたいし、君にも僕という人間の性格ややり方を知っていてほしいんだ」
そう言って、アベンチュリンは親指から1枚のチップを打ち上げる。
「ほら、ゲームはもう始まっている」
彼は余裕のある笑みを崩さずに言う。
「さあ、僕と取引をしよう」
その手つきは、よく手慣れたギャンブラーのそれだった。
「君は断れない」
一瞬だけ、スペードや彼の名の通りの
「断る理由がない」
だがそれは空中へ投げられた、その次の瞬間には消えていた。
「断る余地もない」
代わりに目の前に現れたのは2つの握り拳。
「左?右?君は何に賭ける?」
「……」
「じゃあ、答えを発表しよう。……ああ、そういえば、まだ君は何を選ぶのか聞いてなかったね。僕は思っているよりも君を気に入ってるんだ。選択の権利を上げようじゃないか」
そして、アベンチュリンは両手を星の前に突き出す。星は一瞬悩んだ後に、「あのさ」と口を開いた。
「「ポケット」に賭けていい?」
「ああ、良いとも。選択の自由は君にある」
「なら、これで勝負する」
「オーケー、行こうか」
アベンチュリンは頷いた。右手を開く。何も入っていない。左手を開く。何も入っていない。星は、意を決してポケットに手を突っ込んだ。
「……おめでとう、ジャックポットだ。君の勝ちだよ、マイフレンド」
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