「……おや、来てたのかい?レイシオ」
自らの部屋に戻ったアベンチュリンを待っていたのは、2琥珀紀ぶりの第一級名誉学位を持つ第一真理大学教授にして、博識学会の代表としてカンパニーの技術開発部顧問を務める学者、ベリタス・レイシオだった。彼はアベンチュリンに気がつくと、手に持った本をパタリと閉じた。
「それにしても、そんなシケた顔して何かあったのかい?君のカッコいい石膏頭も、一体どこにやっちゃったのさ?」
「……4分16秒の遅刻だぞ。仮にそれだけの時間でアキヴィリの死について解明出来たのであれば上出来だが……もしそうでないのであれば、ナナシビトと事を構えるのは賢い選択ではないだろう」
「ありがとう。アドバイスとして受け取っておくよ。しっかし、君にまで僕は疑われてしまうんだね。僕は本当に、心の底から彼らと仲良くなりたいだけなんだ。どうして誰も分かってくれないんだろう?君はどう思う?」
「喧しい奴にそう多くの人間が近づくはずないだろう。一つ、君が知るべき豆知識がある。アティニークジャクはこの銀河でも一、二を争う程に耳障りな鳴き声で求愛行動をする鳥類だ。しかし、その鳴き声のせいで他の動物はおろか雌すら逃げてしまうことがある。そして、君の身なりは派手なクジャクによく似ている……だが、その羽も「ファミリー」に毟り取られたようだな。あの「入場検査」にでも引っかかったのか?」
「そうなんだよ。聞いてくれるかい?持って来た祝い金も、「基石」も、全部あの灰色スーツのハンサムに取り上げられちゃったんだ。酷くないかい?僕は……って、レイシオ、どこへ行くつもりだい?」
アベンチュリンの話に途中で見切りをつけ、部屋を出ようとするレイシオ。彼からの問いかけに、レイシオはため息を吐く。
「見て分からないのか?今からカンパニーに戻り、バカのせいで全て台無しになったと報告する。残念だ」
「おいおい、賢い君がたかが石ころ数個を失くしただけでそんなに悲観的になるのかい?」
「あの「砂金石」が無ければ、君は一人の死刑宣告を賜ったツガンニヤの奴隷に過ぎないだろう。それとも、君の首に焼き入れられた「商品コード」も
「……なるほど、やっぱり持つべきは賢い友人だね。君はいつ何時であろうと決して予習を欠かさない」
「それが、僕がカンパニーから引き受けた役割だからな。そうでなければ、一人のギャンブラーがカンパニーに代わってピノコニーを取り戻すなど、痛々しい夢物語にも程がある」
「おや、もう忘れたのかい?ピノコニーは「夢の地」だ。夢物語を叶えるには十分だろう?安心してくれ、教授。方法は既に用意してあるんだ。「ファミリー」はカンパニーを必要以上に恐れていて、それ故に対立を重ねている……そう考えると、「ピノコニー」そのものが「調和」が仕掛けた巨大な陰謀だった可能性も捨てきれないね。いいかい?間違いなく、あの招待状は彼らの自作自演だ。おそらく彼らは「調和セレモニー」を利用して、より大きな何かを仕掛けるつもりなんだろうね。まあ、僕はそれでも構わない。「ファミリー」も「時計屋の遺産」も、僕の役に立つならそれで良いんだ」
「……馬鹿は話が長い。要点だけ言え。この場合では、「方法」についてだ」
「悪いね、今はまだそれを伝えるべきタイミングじゃないんだ。……「切り札」は、最後まで隠しておかないと」
「それがギャンブルの鉄則だ」という彼の言葉に、レイシオは僅かに表情を歪める。
「全く……尽くギャンブラーという人種とは話が合わないな。協力というのは互いの信頼を前提とした概念だというのに……ツガンニヤ人の教育課程に道徳は含まれていないのか?」
「なら、君は僕のことを信頼してくれるのかい?」
「それは君の態度次第だろう」
「ほら、その答えが証明してるじゃないか。僕らはお互いにお互いを信用していない。それなら全てはお互い様だ。それと、僕はそんな教育を受けたことも、両親からマナーやルール、モラルなんてことを教わったこともない。みんな、僕に何かを教える前に綺麗さっぱり消えちゃったからね」
「……すまない、その点について悪く言うつもりはなかったんだ。これは僕の落ち度だな」
「いや、気にする必要はない。でも、たった1つだけ、両親が僕に教えてくれたことがあるんだ。「友人こそ、エヴィキン人の最大の武器だ」ってね。「調和」に虎視眈々と狙われている状況じゃ、僕らの「友人」も多いに越したことはないだろう?」
そしてアベンチュリンはソファに腰掛けると、その指を折って数え始める。
「ええっと……ガーデン・オブ・リコレクションと星穹列車は……もう接触済みかな。アナイアレイトギャングは……しばらく音沙汰無し、望み薄だね。純美の騎士団は……謎が多いな、招待にも応じてくれるかどうか。「パブ」は……接触してから考えるべきかな。……ああ、そういえば、さっき会った人は「巡海レンジャー」を名乗っていたな。そこはもう少し調べる必要がありそうだけど……そうだレイシオ、彼女について……?」
アベンチュリンが顔を上げると、レイシオは既に部屋を去った後だった。そして、彼は「全く、僕一人で調べるしかないか……」とやれやれと言わんばかりにため息を吐く。
「えっと……それにしても、彼女の名前はなんて言ったかな。確か……」
「「黄泉」。巡海レンジャーの方の話、ですよね?」
再び、その部屋の扉は開いた。そして聞こえたのは、アベンチュリンとそう年は離れていないであろう、少女の声。彼は、その声に聞き覚えが合った。彼は、入口の方に視線をやった。
「……はは、そうか。ずいぶん早い再会になったね」
「はい、ご無沙汰しています」
「君が現れたということは、「君達」は僕の「友人」になってくれる……そう考えていいのかな?」
「はい」とその首を縦に振り、彼女は、砂金石のあしらわれた1枚のチップを弾いた。
「美味しいココアを、頂きましたから」
そう言って彼女、インシァン、或いは星核ハンター「桜花」は、柔らかく微笑んだ。
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