星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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ギャンブラー、学者、研究者(その2)

「やっぱり、君は「カンパニー」じゃなかったんだね」

「いつ、お気づきになられたんですか?いえ、これは「フィードバック」です、言えないならば、それでも構わないので」

「いいや、そんな大層な話じゃないよ。たまたま親切な同僚が教えてくれたんだ。「「インシァン」という社員がカンパニーに加わったのは今から21システム時間前だ」ってね」

 

 アベンチュリンの部屋に通された桜花は、そのソファに腰掛けた。手土産は、バーで買った紅蓮葉茶のスラーダ割りと、桜のマドレーヌ。「中々悪くないね」とアベンチュリンは称賛した。

 

「それにしても、まさかこんなところであの「桜花」に出会えるとは思わなかったな。まだ何も始まってないっていうのに、もう土産話が出来てしまった。何せ、僕は「桜花」の顔を拝んだ、ただ一人のカンパニーの人間ということになるからね」

 

 そう言ってアベンチュリンが笑うと、桜花は「それほどでも」と控えめに笑った。

 

「ですが、重々承知しています。「繁殖()」は、「カンパニー(あなた方)」の、不倶戴天の敵である、と」

 

 星核ハンター「桜花」はカンパニーの指名手配を受ける身である。しかし、その扱いは他のメンバーとも一線を画すものだった。

 一に、桁外れの懸賞金。その額1200億3400万信用ポイント。カフカのおよそ11倍である。

 二に、その手配書と形態。他のメンバーの条件が「DEAD or ALIVE(生死問わず)」となる中で、ただ一人、彼女だけは「Only Extinction(絶滅のみ)」と記されている。

 懸賞金とは、おおよそカンパニーにとっての危険度を示すものである。なら、なぜ桜花だけが一頭地を抜いて高いのか。それは、彼女が「宇宙の蝗害」の再来と見做されているからであった。かつて銀河の半分を埋め尽くした蝗害は、一部の狂人、或いは天才を除いて、千琥珀紀以上が経過してなお、人々に本能的な「蟲」への恐怖を植え付けている。そんな中で、彼女は顕れた。顕れてしまった。彼女の訪れた痕はかつての蝗害のような蟲喰いを残して崩落し、一切もの抵抗を許さないその力はまさしく宇宙を埋め尽くさんとした「蟲の王」のそれであった。

 「蝗害」とは、銀河の敵である。かつての「繁殖(タイズルス)」は、その一匹の蟲を討つために「愉悦(アッハ)」「開拓(アキヴィリ)」「調和(シペ)」「均衡()」、そして「存護(クリフォト)」という、五柱もの星神の力を必要とした。もし、其が再び銀河に舞い降りてしまったらどうなるのか。

 カンパニーの動きは早かった。星核ハンター「桜花」が出現し、その力が「繁殖」であると分かったその瞬間には、彼女の命には1000億の値がついた。いや、正確に言えば「彼女の死によって齎される平穏」に1000億の値がついたのだ。しかし、カンパニーが如何に広大な情報網を保持しようと、彼女の特定には至らない。理由は明白。たったの一人ですら、星核ハンター「桜花」を目撃した者はいないのである。彼女が顕れたことを示す状況証拠は確かに存在し、そして彼女が齎した災禍の痕も確かに残っている。しかし、誰一人として桜花そのものを目撃した者はいない。「目撃者が全員巻き込まれた為に、誰も証言できない」なんてことではない。決して多くはないものの、生存者は確かにいる。その点においては「刃」「サム」「カフカ」よりは良心的かもしれない。しかし、それでもなお彼女についての証言はただ一つとして残らない。

 簡単な話だ。桜花は、その蟲に由来する肉体によって、深刻な「認識汚染」を引き起こす。その血を香れば脳が狂い、その血が触れれば心が乱れる。そして、その血が舞えば、「桜花」を起点として、記憶の全ては蟲喰まれ、墨染の桜吹雪に飲み込まれる。そこには有機無機の境目さえ存在しない。人も、オムニックも、果ては監視カメラさえ。故に、「桜花」の姿を知る者は、「インシァン・ルアン・メェイ」を知る一部の人間を除いて、この宇宙には存在しない。

 そのような、伝わる話の全てが「規格外」の、正真正銘の怪物に、アベンチュリンは相対していた。

 

「「不倶戴天」、そうだね、カンパニーの君に対する扱いは全くもってその通りだ。だが、それが分かっていて、どうして僕に協力してくれるんだい?「桜花」ちゃん」

「確かに、私とカンパニーはそのような関係と言って、差し支えないと思います。……ですが、私とあなたには何の因縁もない。そう、ですよね?」

「……なるほど。つまり、君はこう言いたいわけだ。「星核ハンターはアベンチュリンという個人には協力するが、スターピースカンパニーには協力しない」、と。違うかい?」

「いえ。そのように、考えていただければ」

 

 紅蓮葉茶のスラーダ割りを啜って言う彼女に、彼は少しも考えさえしなかった。強いて言えば、彼は過去の、ココアを奢り、チップを渡した自分を信じた。

 

「分かった。ありがたく「星核ハンター」の協力を受けようじゃないか。今の僕には一人でも多くの「友人」が必要なんだ。君達が、僕の力になってくれることを祈ってるよ」

「安心してください。あなた方に指名手配される程度には、私達は出来ますから。私についても、ココアの分は、ちゃんと成果を出します」

「ああ、頼りにさせてもらうよ」

 

 そして部屋を去ろうとした桜花だったが、最後にアベンチュリンは問いかけた。

 

「ああ、そうだ。一つ聞きたかったんだけど、あの日君達はどうしてピアポイントにやってきたんだい?」

「あれは……友達のゲームアカウントを、取りに行ったんです」

「あははっ!ゲームの為にわざわざ来たのかい?思ったよりも、僕達は良い友人になれるかもしれないな」

「ええ、そうなることを祈っています」

 

 桜花は、そう言い残して部屋を去った。




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