星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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原作よりも星がヤバいかもしれない


ガール・ミーツ・ガール(その3)

「あっ、ほら!ここだよ!見て!」

 

 ホタルが向かった先には、一体のカートゥーン調の、時計のキャラクターのような像が置かれていた。星もその足元に駆け寄り「子供向けっぽいね」と見上げる。

 

「この像は、ピノコニーで一番有名なキャラクターのものなんだよ。その名も「クロックボーイ」!アニメもすっごく有名で、美しき夢の町、ドリームタウンで暮らす主人公のクロックボーイとその仲間達の冒険が描かれてるんだ。ピノコニーで一番歴史のあるアニメでもあって、これまでに1万話以上も放送されてるんだって!」

「なるほど。そう聞くと親近感湧いてくるね。この銀河打者も宇宙中のファミリー層に大人気だろうから」

「ふふっ、君とのおしゃべりは飽きないね」

 

 そして星はぐるっとクロックボーイ像の周りを一周して観察し「あのサスペンダーは食い込むと痛そう」やら「右のまつげだけ異様に盛られてる気がする」やら適当な感想を述べる。ホタルはそれに相槌を打ったり、クスッと笑ったりしながらその話を聞いていた。

 

「……あ、そうだ。これは噂なんだけどね、クロックボーイのモデルって、あの「時計屋」なんだって」

「時計屋……って、アレだよね。超有名なアレ」

「うん。時計屋はピノコニーの歴史上最も重要な人物って言っても過言じゃないんだよ。なんて言ったって、この「夢境」を創り上げた、いわば「夢」を現実にした人なんだ!」

「すごい。ヒーローものの異能バトルみたい」

「でも、時計屋の正体はまだ良くわかってないらしいんだ。宇宙から来た商人、監獄星の囚人の一人、実際はただのシンボルで、時計屋なんて実在しない、なんて言う人もいるくらい。……あ、「ナナシビト」なんていう説もあるんだって!もしかしたら、君の大先輩なのかも!」

「えっやば。靴舐めよっかな」

「そ、それは汚いから止めたほうが良いんじゃないかな……?」

 

 「そっか……」と少し大袈裟に残念そうにする星。ホタルは苦笑いして、改めてクロックボーイの顔を見上げた。

 

「でも、一つ確かなことがあるの。それは、誰もが彼の成功に憧れていて、彼のように成功を収めて、そして次の「時計屋」になりたいって思ってるってこと!このピノコニーも、彼に憧れて夢を抱いてきた人々が押し寄せてきて、それでどんどん豪華になっていったんだ。「宴の星」って言われるのも、彼らが開いた宴会からそう呼ばれるようになったんだよ」

「宴かぁ、私ってお酒飲んで良いのか分かんないんだよね」

「大丈夫。ピノコニーでは未成年でもスラーダを飲めば楽しく安全に酔えるから。そうそう、クロックボーイもスラーダが大好きなんだよ。アニメのクロックボーイはおっちょこちょいで、自慢もたくさんするんだけど、でもたくさんの仲間を率いて「夢」を切り拓いていくんだよ!だから、あたしは時計屋も「ナナシビト」だって信じてるんだ!だって、夢を切り拓くなんて、まさに「開拓」だもん!」

「そう考えるともっと靴舐めたくなってきちゃった。どうにかして敬意を払わないとだからね」

「うーん……あ、じゃあこのクロックボーイ像と一緒に写真を撮るのはどうかな?大先輩との記念写真だよ!」

「あっ天才。銀河打者ポイントあげちゃう」

「それ、何に使えるの?」

「良い感じのお皿とかと交換できるよ」

「カンパニー春のパン祭りみたいな感じなんだ……あっ、そうだった。写真だよね、良かったらあたしが撮ってあげるよ!」

 

 「じゃあお願い」と星はホタルにスマホを投げ渡す。「わっ、ちょっ」と言いながらもなんとかキャッチしたホタルに彼女は「ナイスキャッチ!」とサムズアップした。

 

「はい、チー……」

「あっなんか付いてる」

 

 シャッターの瞬間、ぴょんとジャンプし、クロックボーイ像の右まつ毛を引っこ抜いた星。それを写真に収めたホタルは「わあっ、すっごい躍動感だよ!」と手を叩いた。

 

「おっ上手」

「そうかな?たまに友達と撮ったりもするから……君が喜んでくれたなら嬉しいな!」

 

 そして星は満足気にそれを確認し「星穹列車♡ファミリー」と名付けられたグループチャットに送信する。それを見たホタルは「次の場所もすごく写真映えするよ!」と彼女を案内した。

 

◇◇◇

 

 次に彼女達が訪れたのは展望台。遠くに浮かぶ王冠と天使の輪っかが合わさったような建物を指差してホタルは話し始める。

 

「あの大きな建物がピノコニーの「大劇場」。ホテル・レバリーと並んで、ピノコニーで最も重要なランドマークなんだよ!」

「超独特な形だね。なんか監獄的なオーラをかもし出してる」

「あっ、大正解!そうなの、あれは現実世界ではピノコニーが存在するアスデナ星系の中央監獄だったんだ。ファミリーが夢境で改修して、今みたいな豪華絢爛な大劇場に生まれ変わったんだよ。その時から、大劇場は夢境に「調和の歌」を響かせ続けてる。そしてこれから始まる、1琥珀紀に1回の「調和セレモニー」ではファミリーのメンバーが大劇場に勢揃いして、調和の化身「ハルモニア聖歌隊」を迎えてピノコニーに永遠の「調和」の祝福をもたらすんだって。……あ、そうだ!ここは「黄金の刻」では一番の展望ポイントだから、多分セレモニーが始まったらすぐ埋まっちゃうの。もし見たいなら、早めに席を確保しておいたほうが良いよ!」

「かしこまり」

 

 そしてホタルは、その後も星を様々な場所へ連れて行った。ピノコニーで一番大きな、「スラーダ」を創り上げた大企業「スラーダ社」が管理する、黄金の刻で最も豪華なスラーダ公園や、大人気の野外バンド、車そのものが全自動でポップコーンを作ってくれるキッチンカーなどなど、ピノコニーを楽しみに楽しむ星。そしてそれは、二人がゲームコーナーで遊び終わり、近くのバーで一休みしていた時だった。

 

「どう、楽しんでる?この「黄金の刻」って、本当にすごいと思わない?」

「最高だね、間違いない。私は今人生の絶頂にいるよ。まあ毎秒更新してるんだけど」

「うん。私もそう思うよ。ここは誰もを受け入れてくれる、「ファミリー」そのものみたいな、優しくて寛容な夢だから。どんなに小さくて、どんなに弱い者でも、そこでは安心して眠ることが出来るんだ。……あたし、君が助けてくれたの、本当に、すっごく感謝してるんだ。おかげで、あたしは君にこんな幸せな夢を案内できるから。あたしは、ここに最初からいたわけじゃないけど、それでもここはあたしの居場所になってくれた。……だから、大好きなこの場所を誰かに見せたかったんだ」

「……あれ、ホタルって地元の人じゃなかったっけ?」

「う、うん、今はね。今のあたしには、合法的な身分があるから……」

 

 そう言ってホタルは気付かれないように周りを見回すと、こっそりと星に耳打ちした。

 

「君、ストーキングされてるかも」

「えっマジ?」

「駄目、気付かれないようにして。一応聞いておくけど、君は一人で来てる?」

「うん、仲間は他の「刻」へ行ってるけど、ここには私一人で来たよ」

「そっか、そうなんだね。……実は、あたしはちょっと変なルートで君を案内してるんだ。それは、誰かが君の後をつけてるから。男の人だと思う。結構大柄、178から182くらいかな。身体は鍛えてて逞しいけど、パワー一辺倒ってわけじゃない。どっちかというとすばしっこい感じ。戦闘には慣れてるかな……多分、裏工作とかの方が慣れてると思うけど。得物は……短い刃物。ナイフとか……」

「あ、もしかして……」

「もしかして、知り合いにいる?」

「うん。ワインレッドのコートに、グリーンの瞳、あと……」

「……ダークブルーの髪?」

 

 「それ!」と星が指差した瞬間、「おや、僕の話ですか?」と星をつけていた彼、ベロブルグの商人「サンポ」は彼女達に話しかけた。

 

「ご無沙汰しています、開拓者のお姉さん。せっかく見かけたんですから、話しかけるタイミングを伺っていたのですが……ムードを壊すのもよくないと思って、ここまで引きずってしまいました」

「紹介するね。この見るからに胡散臭くて裏切りそうな信用ならない人はサンポ。多分その気になればすぐに背後から刺してくるタイプだけど、手を組むのが最大利益になる時は絶対に裏切らない、ある意味めちゃめちゃ信用できるタイプだよ」

「そ、それはなんていうか……不思議な感じのお友達だね?」

「そう!僕はこの星さんの友人であり、そしてビジネスパートナーなんです!」

「んでサンポ、ピノコニーで何やってるの?儲からなさそうなのに」

「いやはや、僕だって年がら年中商売のことを考えていては息が詰まってしまいます。たまにはこうして、白昼堂々心地よい夢遊病にでも掛かって休むことも大事なんですよ?しかし……」

 

 サンポは星の目を覗き込む。彼女は「あ、やっぱり惚れちゃう?しょうがない、この銀河打者は宇宙に轟く美少女だからね」とドヤ顔するが、サンポはそれを大袈裟に囃し立て、そして口を開いた。

 

「実に意外、とでも言いましょうか。かの高名な「ナナシビト(開拓)」でも夢に浸ることがあるんですね?しかし、お気をつけて。ぬるま湯というのは人の目を狂わせ、人の意欲というものを削ぎ落としますから。どうか、美しいだけの景色には騙されないよう。……大抵、美しいものとは「目的」のために作られるんですから。これも、誰もが演じてる盛大な喜劇に過ぎないのかもしれませんし……もしかしたら、可哀想な芦毛を食い物にしようとしているのかもしれませんよ?」

「珍しいね。そんな真面目なことを言うなんて」

「真面目?……ええ、これは僕からの忠告です。夢境とは、決して家のバスタブなどではなく、予測不可能な深海と呼ぶに相応しい代物です。そこに落ちきってしまったら……いえ、もっとはっきり言いましょう。魅力的な光に騙されないでください。あなたがそんなものに屈してしまったら……ああ、とても見ていられません。僕はとても、とってもがっかりしてしまいます」

「もうちょい簡単に言えるんじゃない?」

「はあ……最初から、なーんにも変わらない……。まだ分からないなら、後ろでも振り返って見れば?」

 

 そう言われて星が振り返り、そして周りを見ると、一つ、異変が起きていた。ホタルが、どこにもいないのだ。そしてそれを補強するかのように、言葉を続ける。

 

「口ではピノコニーの人間だと言っておきながら、彼女の行動は全て表面上のものに留まっています。まるで観光用ガイドブックを丸かじりしたような。それでいて、さっきみたいな推理ゲームやこのような逃げ足などは一級品。……改めてお聞きします。彼女は、信用できるのですか?」

「ま、美少女だしね。美少女は疑わないように出来てるんだ、私」

「アッハ!では忠告です。これ以上を知りたいなら、あなたはあの少女を探しに行ったほうが良い。あなたも逃げ足やらには自信があるでしょう?……それでは、僕はこれで失礼します。あなたのこと、僕はほーんとうに、気に入っているんですよ。ですから……がっかりさせないでくださいね」

「オッケー、バイバイ!」

 

 そしてサンポに別れを告げ、星はホタルが向かったらしい方向へ向けて全力疾走した。

 

◇◇◇

 

「あ〜あ〜!あの芦毛ちゃんの顔!面白かったぁ〜!」

 

 そう言って、「サンポ」を演じ終えた花火は路地裏でクスクスと笑う。その傍らで、彼女は行き交う人々の姿を眺めながら口を開いた。

 

「そんなに面白かったですか?金魚ちゃん。いえ、純粋な興味、質問と捉えてください」

「面白いよ〜!だって「楽しいだけ」の夢の中であんな顔が見れるんだよ?花火大満足〜!」

「確かに、サンプルとしては悪くありませんでしたが」

 

 そして花火は「にしても、桜ちゃんも楽しそうだよね〜?」と少しからかうように問いかける。

 

「だって、お友達がせっかく楽しそうにデートしてるのに、その後を堂々とついて行っちゃうわけでしょ?花火みたいに「演技」が出来るならまだしも、もっと酷い方法使っちゃってさ!」

「皮肉、ですか?……確かに、「私」は人の感覚を狂わせます。ですが、どちらも「才能」を行使しているという点では変わらないはずでしょう?……いえ、私の場合は「脚本」に従っているだけなのですが」

「「脚本」?花火とおそろいだ〜!花火も脚本に沿って演じるんだよ!でも〜、どうしても笑いの神様にアドリブを捧げたくもなっちゃうんだよね〜!」

 

 彼女の言葉に、桜花は「否定はしません。「仮面の愚者(愉悦)」とは、そのように在るものですから」と静かに頷く。そして彼女は少しの空白を置いて、花火に提案した。

 

「なら、もっと面白いこと、してみませんか?」

「面白いこと?良いけど、花火の舌は肥えてるよ〜?」

「大丈夫、だと思います。おそらく、「愉悦」が最も好むものの一つ、ですから」

 

 桜花がそう笑うと、少し気取ったような足音が路地裏に響き始める。孔雀の羽とルーレットを模したようなコートの裾が僅かになびく。「へえ?桜ちゃんってそういうこと出来るんだ?」と花火は少し驚いたように言った。

 

「もう途中までは桜花ちゃんが話しているだろう?なら、僕から言うべきことは一つだ。3人で、この「夢物語」をひっくり返そうじゃないか。どうだい、「仮面の愚者」?」

「……アッハ!花火、君達のこと好きかも!良いよ、花火が手伝ってあげる!」

「交渉成立、ですね」

 

 そして彼女達は、それぞれの意味を孕んだような、三者三様の笑顔を向け合う。カンパニー(アベンチュリン)星核ハンター(桜花)仮面の愚者(花火)……まさしく、夢でしか有り得ないような、奇妙な連合が、一つの利害の下に完成した。




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