(ここは……ホテル……?……いや、違う。この感じ……そうだ、夢に堕ちる直前に見たのと似てる……)
そう頭を抑えながら、星は奇妙な空間で目を覚ました。見てくれはホテル・レバリーによく似ているものの、細部まで見れば数多の歪みが目に入る。「黄金の刻」とは打って変わったその静寂の中では、音の外れたキラキラ星が流れ続けていた。星は身体を起こす前に、直前までを回想した。
ホタルとのツーショットを撮り終えると、星のスマホには星穹列車のグループメッセージの通知が入っていた。各所で不穏な出来事に遭遇したらしく、一度現実に戻って話そうとのこと。ホタルにそれを伝えると、彼女は少し名残惜しそうにしながら了承し、「なら、お礼にレバリーまで送るよ」と答えた。
しかし、戻って来た「黄金の刻」は様子がおかしかった。何を隠そう、星とホタル以外の誰も町にいなかったのである。文字通りの人っ子一人さえいない状態に、二人は困惑しながらも現実へ戻ろうとホテル・レバリーへと向かう。そして、夢から醒めようとしていた彼女達を、それは待っていた。
ホテル・レバリー前の広場まで辿り着いた星とホタル。そこで彼女達を待ち構えていたのは、先程遭遇したサンポだった。訝しみながらも近づくと、サンポは「ああ!僕の忠告を聞かず、まだその少女に夢中なんて……」と大袈裟に、わざとらしく落胆して見せる。そして警戒を強める星に、サンポは更に「あなたは本当に……余りにも、周りが見えていなさ過ぎる……」と言葉を重ねる。星がかつてベロブルグで出会ったサンポとは違う何かを目の前のそれから感じ取っていると、ホタルは「君の友達には、絶対に問題があるよ」と星を庇うようにその前に立った。サンポはその様子にまた「ああ、残念です」と頭を抑え、そして「あなた達は……残念ながらまだこの「夢」の舞台裏に気づけていないのですね」とこれまた落胆する。その様子に星が「ねえ、あんた本当に「サンポ」?」と尋ねると、それはにわかに微笑んで「ああ、その質問は興醒めですよ……「芦毛」」と答えた。そして、「サンポ」は「あーあ、芦毛ちゃんって変な勘は鋭いんだもんなぁ〜」と残念そうに呟き、「そんな芦毛ちゃんには、ちょっとした舞台裏、見せてあげるよ」とニヤけた。
その瞬間、辺りの景色が歪んだ。打ち上がる手毬、不相応な祭り囃子、宙を泳ぐ金魚……それと同時に、彼女達を襲う強烈な眠気。緑色のはずのその瞳は妖しく、真っ赤に煌めいている。そして、その姿さえも歪み、星もホタルも、その歪みが自身の眠気によるものか、目の前で発生しているインシデントなのか判別が付かなくなる。そして赤い着物の少女が彼女達の額を弾くと、星達は深い眠りの中に落とされた。
「……っ、メッセージ……?」
身体を起こすと、星は自らのスマートフォンにメッセージが来ていることに気がついた。姫子からのもので、内容は「ひとまず私の部屋に集まって作戦会議をしましょう」というもの。しかし、星が返信しようとも、「メッセージの送信に失敗しました」と無愛想なシステムメッセージが表示されるのみ。星は「こんなんだったらもっと良いのおねだりするべきだった」と、もしより高級なものだったとしてもどうにもならないであろうことを理解しながらも悔しそうに舌打ちした。
そして彼女が仕方なく脱出の手段を探そうと歩きだすと、突如として宙に文字が浮かびだす。「うわキモ」と思いながら先へ進み、扉を開けると、そこには探していた彼女がいた。
「……あ!やっぱり、君もここにいたんだね……!」
「ホタル!ねえ、何が起きたか分かる?ここがどこかとか……」
「ごめん、あたしにも分からないの……でも、ここが夢なのは間違いない。憶質特有の感覚が、ここにも残ってるから。……ううん、むしろ、さっきよりも強い……深い夢なのかも……」
少し長いようで、でもやはり短いような再会を果たした二人。少し考えるホタルに、星が適当に「よく考えたら夢の中で見る夢とか超夢って感じだよね」と口にすると、彼女はそれに頷いた。
「本当に、そんな感じかもしれない。でも、ここはあたしの知ってる「美しい夢」じゃない。文字が浮いてるのを見たでしょ?あれは、恐怖や悲しみ、不安を訴えてるの。もし、ファミリーが謳ってるピノコニーなら、こんな場所あるはずがない」
「ってことは……本当に、あれの言ってた「夢の舞台裏」ってこと?」
「……かもしれない。少なくとも、ファミリーは何か隠してるんだと思う。そう考えると、ここに隠されてる秘密は「時計屋」に繋がるものなのかも」
「……分かった。私も真実を知りたいからね。一緒に行こう」
「うん、なんとかしてここを脱出しないと」
二人は頷き、そして少し急ぎ足で、奇妙な「夢」を歩き出した。
◇◇◇
「桜ちゃん、ただいま〜!」
「おかえりなさい、金魚ちゃん。……仮面の愚者には、あのような技術もあるのですね」
「良いデータが取れました」、と桜花は慣れたように、夢境を漂う運命のサンプルを調べていた。ピノコニーの夢境の建築家であるドリームメーカーの技術を応用して創られた彼女の臨時研究室はファミリーに捕捉されることも無く、彼女は着々と考察材料を重ねていく。仮にも「繁殖」の運命を歩みながらもなお「
「それで、何か面白いこととか見つかった?花火気になっちゃうな〜!」
「面白いかどうかは、私には分かりませんが」
「興味深い結果は出ました」と桜花は壮麗な筆跡の計算式で埋められた、一枚の資料を花火に見せる。彼女はそれをざっと流し見た上で、「花火難しいの分かんな〜い」と桜花に言った。「良いですよ」と彼女は頷いた。
「このピノコニーの夢境は大半が「調和」、そしてほんの一部、先程金魚ちゃんが使ったような夢に含まれる「開拓」が混ざって構成されています。事実として、サンプリングで検出できた運命はその二つだけですから。……ですが、これでは足りないんです」
「へえ、花火気になるな〜?」
「はい。夢境のサンプリングと拝借してきた宿泊客データ、そして夢境の労働者の人数から夢境に用いられている虚数エネルギーを概算出来ます。その結果、この「夢」に存在する「調和」と「開拓」では到底その虚数エネルギーが賄い切れない、そう結論付けられました。その不足分は大凡55%ほどになります」
「つまり〜、桜ちゃんはどう思ってるのかな〜?」
「花火、桜ちゃんの口から聞きたいな〜!」とニヤニヤする花火。「……分かりました」と桜花は頷いた。
「結論から伝えます。ピノコニーを支配しているのは「調和」ではありません。彼等は、致命的に裏切っています」
そう、桜花は結論付けた。
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結構本筋から外れたりもするかもです