「ここ、どうなってるの?質の悪いアスレチック番組?」
「あたしにも分からない。夢だからこんなに不安定なのか、それとも、あたし達を進ませたくないからなのか……」
「……どっちにしろ、この先にレアアイテムが隠されてるのは間違いなさそうだね」
「うん。なんとか道を探そう」
今彼女達の目の前に広がっていたのは、著しく不安定な景色だった。辛うじてその夢の元になったのがホテル・レバリーか否かと思える程度で、床は激しく乱高下し、調度品は水の中を漂うように中を浮いている。星が自らのポケットからガチャの空きカプセルを取り出し、上下する床に投げてみると、カプセルはすり抜けるように落ちていった。「やっぱり」とホタルは呟いた。
「強行突破は不可能……みたいだね」
「残念。私年末の忍者的なアレに出ても優勝する自信あったのに」
「天下の銀河打者の名を知らしめるのはまだ先だね」と残念そうに言う星。それにしても、辺りを見回しても四方八方が行き止まり。どうしたものか、と彼女が考えていると、「もしかしてだけど……」とホタルが声を掛けた。
「この部屋の構造、私達を壁から行かせたいんじゃない?」
「壁?私もホタルも壁って訳じゃないけど……」
「そうじゃなくて……!ほら、あそこ……」
そう言ってホタルが指差したその先。そこには、壁と床の境目にへばり付いた金色の泡と、それによく似た謎の物質を湛えたワインタワーが。「あれを使うってこと?」と星が尋ねると、彼女は「そうだと思う」と頷いた。そして、星はとことことワインタワーに近寄った。
「……んで、どうやって使うんだろ。ホタル知ってる?」
「ううん。あたしも、こんなところ初めてだから……」
「じゃあ「開拓」の精神に従うしかないね」
「「開拓」の精神?」
「そう。「取り敢えずやってから考える!」」
「えっそれ大丈夫なの?」と少し心配するホタルを差し置いてワインタワーに腕を突っ込んだ星。「あれ?大丈夫っぽい?」と彼女が少し驚いたような顔をすると、ワインタワーから金色の雫のようなものがふわふわと浮かんできて、そしてへばり付いた金色の泡と合体し、坂のようなものを作った。
「ホタル、あれって……」
「スロープ……かな?もしかしたら、壁に登れるかも」
「試してみよう」
ホタルの言葉に頷いて、彼女達は床と壁の間に渡された金色の坂を通った。しかしそこは夢の中。何事も一筋縄ではいかない環境である。なんと、坂を登ったその瞬間、彼女達を引っ張る重力の方向は床から壁へと切り替わった。ホタルは自分の言葉にも関わらず「本当に出来ちゃった……」と呟いた。
「夢境内の重力を勝手に変えるのはルールで厳しく禁止されてるの。ファミリーが管理してる夢じゃあり得ないことだよ」
「らしいね。なんか変な怪物も歩いてるし」
そう言って星が指差した先では、紫水晶のような身体を持った何かがそこらを我が物顔で跋扈している。「なるべく穏便にね」と言うホタルに彼女はまかせろと言わんばかりに親指を立てた。
◇◇◇
「結局ボコボコにしたね……」
「流石の私だね。これは天才的なアイドル様かもしれない」
そう自画自賛してうんうんと頷く星と、逐一挟まれる彼女の言葉を楽しんでいるホタル。そして彼女達が次の部屋に足を踏み入れると、その会話は一瞬止まった。
「……わぁ……っ……!」
「これは……うん、まさしく「壮観」だね……!」
その大部屋の中央には数十mあろうかという巨大噴水が鎮座しており、その周囲はクジラやサメ、クラゲ、ペンギンなんかの海洋生物の影のようなものが空間を自由に回遊している。そこには、ずっと流れ続けている誰かの独白の文字も。そして大噴水を挟んだ向こう側に、この部屋の出口が見えた。
「どうやっていくんだろう……?」
「……あ、あそこにさっきのワインタワーがあるよ!どこかから行けるんじゃない?」
「そうだね。行動あるのみ、だし」
そして、彼女達は部屋の攻略に取り掛かった。
「にしても……凄いね。本当に、夢の中でしか見られない景色みたい」
「うん。よく覚えてない夢を後から無理やり思い出そうとするとこんな感じになったりするよね」
「そうなんだ。にしても……さっきから浮かんでる文字、「ミハイル」って人のものらしいけど、彼は一体……?」
「分かんないけど……でも、誰かに助けてほしそうには見える」
「うん、あたしもだよ。この言葉には迷い、恐怖、悲しみ……多くの感情が込められてる。その中には、ほんの僅かな、エッセンス程度の「死をも超える決意」なんてのも……そこにはきっと、君の言うような思いも混ざってるんだろうね」
ホタルがそう言うと、星の頭に「誰か助けて……!」という弱く、幼い叫びが響く。星は思わず頭を抑え、そして思考する。そして数十秒の思考を経て、彼女は一つの考察を打ち立てた。
「……ここは、もしかして「ミハイル」の夢の中なんじゃない?」
「あ、だからあたし達を奥まで招こうとしてるってこと?助けが必要だから……」
「取り敢えず、確かめるために前に進まないと」
◇◇◇
「……出来た!」
「……あっ、扉が出来たよ!」
ドリームメイクパズルを駆使し、噴水のある大部屋からも脱出に成功した二人。少しずつ、夢の正体に彼女達は近づいていく。
そしてさらに幾つかのパズルを解き、道を進み、部屋を通過すると、彼女達は一つの、行き止まりのような暗い部屋にたどり着いた。その部屋の中央には専ら貴重な戦利品が入っている宝箱が一つ鎮座していて、その上から淡い光が注いでいる。
「これは……」
「どうする?あたしは君に任せるよ」
「……開けよう。せっかくここまで来たんだし」
そう言って星がその蓋に手を当て、こじ開けたその瞬間、その宝箱は跡形もなく消失し、ジリリリリッとアナログなアラーム音が鳴り響く。そして、部屋の灯りが着いた。
「扉が3つ……?」
「大体、こういうのは正規ルートが1つだけあるやつだね」
「何にしても、進むしか無いよ」と星は扉を開けた。
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