「っ、また同じ部屋……?」
「……みたい、だね」
一つの部屋に扉は3つ。扉を開けると通路があり、その先にはまた一つの部屋。そこには同じように壊れたモニターが積み上げられていて、また同じように扉は3つ。まるでループ再生のような景色と、誰かの独白かのように浮かぶ文字に惑わされながらも、彼女達は先へ進み続けた。そして、一つ、二つ、三つと進んでいった先の部屋でのことだった。
「……?ここ、少し……」
「うん。さっきとは違う」
星の言葉に、ホタルは頷いた。その部屋は今までのものと同じような内装だったが、どこかが違う。彼女達がその理由を探って辺りを見回すと、すぐにその理由に気がついた。幾つかのモニターに砂嵐が奔っているのだ。「なんでだろ……」と星がそのモニターに近づくと、ノイズの混じった音が部屋に響いた。
「■■助け■……!■■■、助けて……■■……」
「……っ?!」
「今のは……?」
そして彼女達は、そのノイズ混じりの言葉の主が浮かぶ文字の語り手と同一人物であることを直感した。部屋に響いた助けを求める声が止まると同時に、モニターに映った砂嵐も鳴りを潜め、今まで通過してきたような無味無臭の部屋に戻る。再び星達の前に現れた三択の変わりない選択肢。彼女達は、隠された真実を求めようと、迷うこと無く突き進んだ。
彼女達は、終点が少しずつ近づいてきているのを感じていた。部屋から部屋をつなぐ廊下が、徐々に長くなっていってるのを感じたのだ。そして星が次の部屋のドアノブに手をかけた瞬間、彼女達は中がノイズで満ちていることに気がついた。星は、意を決してその扉を開けた。
「■■■が言って■た■、■■箱を開け■■いけない……■■……」
「またノイズ……」
「うん、しかもさっきよりも増えてる……!」
しかも、今度は声が止まっても砂嵐が消えていない。それどころか、さっきよりも砂嵐を映すモニターの数は増えている。「ここからが本番だ」、と開拓の本能が星に告げた。再び、彼女は真ん中の扉を開けた。
長い、長い廊下の最中。ジリリリリ、というけたたましい目覚まし時計のベルのような音とともに、星は一瞬の動悸のようなものに襲われた。一瞬歪んだ視界の先、少しだけ次の部屋の扉が近づいたような感覚を星は覚えた。そして、彼女は最後の部屋に足を踏み入れた。
「っ、ここ……今までで一番酷い……!」
聞き取りようもない声、砂嵐を映す無数のモニター、埋め尽くされたノイズ。仄暗い部屋は、人の精神を狂わせかねないほどに狂気に満ちている。
「■願い■■■……やめてよ■■■■……怖■……■いよ……」
声をこだまさせながら、その部屋は真ん中の扉を開け、彼女達を招き入れる。ノイズはまるでタイムリミットを定めているかのように加速していく。二人は、もう遠くない終点へ向けて駆け出した。
「ホタル……!」
「分かってる、次で終わりだって……!」
廊下の奥の扉は頑なに閉ざされていたが、彼女達はそれは自分達を待ち構えているのだと直感する。そして速度を緩めず走り続ける彼女達がぶつかりそうになった瞬間、弾けるように割れた。つんざくような音が響いた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
何重もの聞き取りようのない声が部屋にこだまする。置かれた全てのモニターは砂嵐を映すが、その光はドクンドクンと心臓のように脈打ちながら徐々にその光度を増していく。ステンドガラスで作られている3つの扉は鍵を閉められたように色を失い、彼女達の入ってきた入口も同様に塞がれている。彼女達は身を寄せ合い、身構えながらその瞬間が訪れるのを待っていた。そして、テレビが砂嵐ではない、純粋な閃光を放った。
「っ……」
「……っ、何か来る……!」
そして閃光を放ったモニターは一瞬、全てがまとめて電源を落とされたように真っ黒になる。そして、一つのモニターが紫色の悍ましい瞳を映した。それは感染するように全てのモニターに同じものを映し出し、部屋の中心の彼女達を囲むように全てのモニターの瞳が彼女達を見つめる。
「隠れて、ホタル!」
そう言って星がバットを取り出した瞬間、それは部屋の天井を埋め尽くす黒い靄を貫いて姿を現した。その気配に気が付いた二人は、その姿を仰ぐ。それはモニターに映ったような無数の瞳を湛え、膜のないコウモリのような翼に、長い身体、鋭い四肢、鉤爪を持った掌に目玉を一つ置いたような頭を持った怪物。彼女達は、夢の中に置いてその存在に「死」を直感させられた。天井のステンドガラスから、光が注いだ。
「な、なんなの、このモンスター……」
「重力の効かない部屋のモンスターに似てる……アレの仲間ってこと?!」
「これが、ファミリーの隠していた「秘密」……?あっ、来るよ!」
その怪物は目玉を刃のようにつなげ、鋭く振り回す。すんでで避けたその感覚が、生々しく「死」を星に伝える。黒い靄を纏いながら四方八方から切り付け、襲い掛かるそれに、バット一本ではいささか分が悪い。「銀河打者」なんて軽口を叩く余裕はなく、なんとかホタルを守るだけで精一杯になる星。しかし、健闘も虚しくその翼が星を弾き飛ばし、怪物は隙を見せたホタルを掴み上げる。その悍ましい瞳が彼女を見つめる中、ホタルは考える。ここで切れるカードはあるか、それを切ってしまっても良いのか。そしてその判断を下す前に、戦況は変貌を遂げた。
「っ……ホタル……っ!」
「くっ……このっ……!……っ?これ、魔法陣……?」
怪物を囲むほどの大きさで、その足元に描かれていく魔法陣。それは四放射相称で広がり、緻密な図形を描き上げた。その様子に伏せた星は困惑しながらも身体を起こし、怪物はホタルを掴んだままながらもその頭を左右に振って状況を探る。そして次の瞬間、魔法陣から現れた無数の、水晶で創られたような手が怪物を絡め取り、壁に叩きつけた。星は解放されたホタルを滑り込むようにキャッチする。
「正しい方法を知らなければ、或いは、正しい知識を持たなければ、「死」の陰からは、決して、逃れることは出来ないわ」
星やホタルよりも大人びた、美しい声が響く。相対するは、手の束縛を無理矢理に抜け出した怪物。声の主は「怖がることはないわ。……ほら、もう一度立ち上がって」と彼女達に促す。
「あんたは……?」
「落ち着いて、お嬢さん。私はあなた達の味方だから。私は……そう、「メモキーパー」ブラックスワン、とでも呼んでくれたら良いわ」
「あなたは、このモンスターについて知ってるの……?」
ホタルが尋ねると、彼女は、ブラックスワンは手元のアルカナカードを捌き、その怪物に応戦しながら答える。
「ええ。少しだけ。「記憶域ミーム」、この空間に存在する彼等はそのように呼ばれているの。彼の名前は……「死へ向かうのは何物」。夢に生きる今のあなた達にとっては、少し難しい相手ね」
そして彼女は一枚のカードをめくると、それを積み上がったモニターの方へ飛ばす。そのカードは空間ごと抉じ開けるように、渦のような歪みを発生させた。星も、ホタルも、そして怪物もそれが出口であると瞬時に直感する。そして逃げようとする彼女達に追い打ちしようとした「死へ向かうのは何物」にブラックスワンはもう一枚のカードを叩きつけた。超強烈なプレス機のように、二つの魔法陣が怪物を挟み込んだ。
「ほら、早く行って。再会を、楽しみにしてるわ」
「行こう、星!」
そう言ってホタルは星の腕を掴み、共に渦に飛び込んだ。
高評価とか感想よろしくお願いします
怯えてる星ちゃんは可愛いと思います