「……星穹列車、出発したみたいね」
「はい。つい先程、予定通りにヘルタを発車した、と」
朝のニュースを見ながら呟いたカフカに、インシァンはハムエッグを焼きながら答える。そしてその傍らではホタルと銀狼がりんごジュースを啜りながら嘆いていた。
「星、本当に行っちゃった……」
「四人マルチが出来ない日々に逆戻り……」
「二人共落ち着いて下さい。きっとすぐに慣れますから」
「それ、6人前作ってるインシァンが言っても説得力ないけど?」
そう銀狼に指摘されたインシァンは「え?」と少し驚いたような顔をすると、朝食を盛っている最中の手元のお皿の枚数を数える。
「1、2、3、4……本当、ですね。……どうやら、私もしばらく慣れなさそうです」
「あーあ、私達3人とも星ロスかー……」
「あら、あなた達だけじゃないわよ。私だって星がいなくなって淋しいし、刃ちゃんだって手合わせの相手がいなくなっちゃったからちょっと寂しそうな顔をしてたわ。だけど、例え今は別れたとしても必ず私達の運命が再び交わる日は必ず訪れる。もしかしたらその時あの子はナナシビトで、違う立場で、相見える敵として、あるいは共闘の為に再会するのかもしれない。けれど、それは重要なことじゃないの。大切なのは、私達の道は平行線という訳ではないということ。きっとすぐ、再会の時は訪れるわ」
「……そうだよね」
「……仕方ない。しばらくは3人プレイで我慢しよう」
「そう、ですね。……ところで、ハムエッグが余ってしまったのですが……」
「私が頂くわ」
そしてもう少し後に刃が合流し、彼女達はいつものように朝食を取り始めた。
◇◇◇
「さて、食べ終わったところで本題に入るとしましょう」
食べ終わったお皿をインシァンが粗方食洗機に入れ終え、スイッチを入れると、カフカはそのように話を切り出した。
「エリオの予言通り、星は星穹列車と合流した。これによって物語は大きく動き始める。それは、「
「だから?」
「スーツを仕立て直しましょう」
カフカの趣味はコート集めである。彼女のクローゼットには割とマジでビックリする、というかドン引きするくらい大量の、それも最低でも一着6桁は下らないコートが収納されており、なんならどこかしらに買い物に出かける度に一つか二つ買ってくるほど。以前銀狼が「そんなお金どこにあるの?」と尋ねたところ、「良い?お金なんてものは結局作ろうと思えばいくらでも作れるの」との回答が帰ってきた。「でも君達はまだ無駄遣いしちゃ駄目よ」と付け加えられる中、(次元が違う……)と銀狼は思った。それ以外にもドレスやスーツなど、おそらくフォーマルなファッションが大好物のカフカは星核ハンターに新メンバーが加わる度、自らの行きつけの仕立て屋でスーツを見繕っていた。刃も銀狼も持っているし、インシァンのもホタルと同じタイミングで仕立ててもらった物が部屋の何処かに閉まってあった。メンバーが揃って任務に臨む時の礼服のような物だ。
「それじゃあ刃ちゃん、車を出してもらえるかしら?」
「……承知した」
ちなみに星核ハンターの運転役は基本的に刃である。カフカは免許持ちだが馬鹿ほど飛ばし、ホタルは効率重視で速度制限が存在せず、銀狼もレースゲーム感覚でドリフトを狙い、インシァンに関しては「いなかったので」と堂々と信号を無視する無法っぷり。というか後半3人は無免である。それに対して刃はなんとゴールド免許。一度戦闘となれば己の肉体も省みず荒々しくその剣を振るう刃だったが、運転となれば話は別。交通ルールを遵守し、速度制限を守り、歩行者を優先する徹底っぷり。ちなみに他のメンバーからは「別に倫理観があったって目的地に早く到着するわけじゃないわ」「自動車ってもっと早く走れるんだよ」「コーナーもっと攻めれた」「なんで今の赤信号止まったんですか?」と非難轟々である。もし彼女がいても、楽しげに「ルールは、破るためにある!」と彼を責めたことだろう。正しいことが良いことだとは限らないのだ。
ということで刃運転のオープンカーに乗って街に繰り出した一行。助手席にはカフカが座り、後部座席の真ん中に小柄な銀狼を挟んでインシァンとホタルが座る。目的地はカフカが贔屓にしている仕立て屋。手配書で顔が割れていないインシァンとホタルはともかく、彼女達のような指名手配犯となるとお世話になるのは信頼に値する個人店である。そしてその店は駅前の繁華街の一角にひっそりと佇んでいた。車を近くの空き地に止めると、カフカは通用口のような扉をモールス信号のようにノックし、扉を開けた。
「失礼するわ」
「……ああ、カフカさん。いらっしゃいませ。本日は何がご入用ですか?」
「私と、この子達のスーツを仕立てて欲しいの。また大きな仕事が始まりそうだから」
「かしこまりました。それではこちらへどうぞ」
そう言って店の奥に通された一行。待っていた店員に言われてインシァン達が下着姿になると、彼らは素早く採寸を済ませていく。
「刃ちゃん、また胸おっきくなったの?」
「……」
「まあ、上着のボタンも外れそうになってましたし」
「確かに、昔はそんなにだったような……?」
そして採寸を終えると、店員はインシァン達にカタログを配った。様々な種類が掲載されたそれを眺める彼女達に、カフカは「好きなのを選んでちょうだい」と伝える。
「あたしは……あんまり締め付けるやつじゃないほうが良いかな。このブラウスタイプ、下はスカートで……あ、あと、一番大きいサイズのジャケットを」
「えっと……なら、前回と同じスリーピーススーツのスカートでお願いします」
「私も前回とおんなじ。ベストと、サスペンダーのやつ」
「……」
「刃ちゃんはスリーピーススーツね。私はいつもので良いわ」
「かしこまりました」
そして仕立て終えるまでの30分ほど、彼女達は近くのコンビニなんかで時間を潰していた。無論防犯カメラなどは銀狼によってハッキング済み。コンビニの運営元にして彼女達に懸賞金を懸けている張本人であるスターピースカンパニーにバレる心配もない。そして無駄な運を発揮したインシァンがアイスの当たりの3連目に突入したところで完成の連絡が入り、彼女達は受け取りに仕立て屋まで戻った。
「おお……!」
「……悪くない、ですね」
「ま、良いんじゃない?」
「……」
「流石の仕事ね。カードでお願い」
「失礼いたします」
そう言って試しにと卸し立てのスーツに着替える一行と、精算を済ませるカフカ。そしてカフカは「せっかくだし、このままドレスコードのあるお店でも寄ってみる?」と高めの昼食を提案する。インシァンとホタル、銀狼は期待の籠もった目で頷いた。
「っていうわけで、また運転お願いね、刃ちゃん」
「…………承知した」
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