しょうがないね
「……やっと目が覚めた?ねぼすけさん」
ホテル・レバリーの客室で目を覚ました星。開いた瞼、その目に真っ先に飛び込んできたのはブラックスワンの姿だった。「ずいぶん、いい夢を見たようね」と少しアイロニカルに微笑む彼女の手を取り、星はドリームプールを上がった。「むにゃむにゃ」といういかにもな寝言を呟きながらも彼女は目を擦る。
「ふふっ、あまり寝起きは良くないのね。どう?夢の中で、私に会えたかしら?」
「……むにゃ、それはもう……めちゃお世話に……」
「そう大層なことはしてないわ。私は、あなた達を記憶域から出してあげただけだもの。改めて……現実の「ホテル・レバリー」へおかえりなさい。今、あなたにとって最も安全な場所よ」
「むにゃ……ま、この銀河打者がいる場所が一番安全だしね……」
「ふふっ、あなたの精神状態には何の影響もなさそうね。あの「原始の夢境」に入ったのに、大したものだわ。あなたが疑問にあふれているのは分かるけど……取り敢えず、今は仲間達の元へ向かうのはどうかしら?無事を報告しないといけないものね」
「あっそうだった」
「んじゃいってきまーす」と星はなんとか目を覚まし、ストレッチもしないままラウンジの方へ駆け出していく。そしてブラックスワンも、その後を追ってゆったりと歩き出した。
◇◇◇
「……ねえ、その話怪しくない?絶対裏があるタイプだって!」
「でも、ブラックスワンは確かに星のことを見つけて、助け出してくれたわ。答えがどうであれ、少なくとも話は聞くべきでしょうね」
「ああ。だがあのメモキーパーは周到な準備を重ねているように見える。俺達も、気を抜かずに慎重になった方が良いな」
階段を降りようとしたところで、そんな話が聞こえて星は手を止める。そして彼等の話が止まって少しすると、星の背後に現れたブラックスワンは「ほら、待ってるわよ」と彼女に声を掛けた。
「姫子さん、ほら、約束の通り。この子を連れて帰ってきたわ」
「やっと会えた!ウチ、現実にも夢にもアンタがいないからめちゃくちゃ心配したんだからね……!」
「やっぱり美少女は罪だね」
「そういうこと言うからアンタはアンタなんだよね……」
「とにかく無事で良かったわ、星。あんたにも紹介しておくわね。彼女はブラックスワン、ガーデン・オブ・リコレクションのメモキーパーよ。夢境について調べている最中、偶然出会ったの」
「ええ、だから、まだ知り合ったばかりなの。でも、これを機に私達はお互いの理解を深められるかもしれないわね」
そう言ってまた柔らかく微笑むブラックスワン。星はさらに彼女の胸元の二つの柔らかいものを確認し、そして姫子のものと見比べて「姫子デッカ……」となりながらもそれを口には出さずに大人しく話を聞いていた。
「それで、星。あんたに何があったか教えてもらえるかしら?」
「かしこまり」
そう言って星はホタルとの惚気話からつらつらと語り出す。それは10分弱ほど続いた後、なのかが「待って、その話本当に必要なの?」と中断し、そして本題の方に入った。
「なんか変身能力持ちの露出度激高な赤い着物の超可愛い子に夢に落とされてどうのこうのあーだこーだ」
「……なるほど。特徴を聞く限り、「仮面の愚者」だろうか。「愉悦」の陣営だな」
「ええ。彼女の名前は「花火」。気付いている通り、ピノコニーに紛れ込んだ「仮面の愚者」よ。でも、今は安心して大丈夫。あの娘は詰めが甘いの。今頃はどこかで自分が成功したと思いこんで遊び歩いてると思うわ」
「君は彼女について知っているのか?」
「ええ。私は、ここにいる全ての人間を知っているわ。嘘や虚構にまみれたピノコニーでも、記憶だけは常に正直者だもの。……そうね、皆さんにも、一つ明かしておこうかしら。彼女が幻術を掛けたのは事実だけれど、それは花火さんに由来するものじゃなく、ピノコニーそのものに由来しているの」
「ピノコニー……そのもの……?」
「そうよ。広く知られているピノコニーは、ファミリーが創り上げた幻想の上澄みにしか過ぎないの。そして、その上澄みの下には、淀んだ本来の「夢」が沈んでいる……」
「つまり、私がさっきまでいた場所こそが本当の「夢境」ってこと?」
「……確かに、そう考えると色々と辻褄が合うな。聞いた話だが、夢に入って最初に辿り着く場所は少し前までは夢境の「ホテル・レバリー」だったらしい。それが、事故によって立入禁止にされたそうだ。今は修繕中だと言っていたな。それにも、ある程度納得が出来るようになる」
「ふふっ、建物は、どのような時に修繕を必要とするかしら?答えは簡単……ピノコニーはより深い夢へ「沈没」している最中なの。それも、記憶域という深淵に」
「つまり、ファミリーはそれを隠したがっているというわけか。これが流出すれば、安全性を明確に保証できなくなり、ピノコニーの評判も共に沈むことになる」
「その結果が私が出会ったモンスターってわけだね。もうファミリーも信用できたもんじゃなくなってきた」
星の言葉に、ヴェルトや姫子もそれを否定しきれないと言った形で消極的に賛成する。そして、ブラックスワンは改めて切り出した。
「私は個人として、あなた達と取引がしたいの」
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インシァンは学歴なしです