星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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思惑と嗜好と取引

 「取引がしたい」、ブラックスワンの言葉に、姫子は静かに思考する。ブラックスワンはその答えを待ちながらも「そんなに警戒する必要は無いわ。肩の力を抜いて」と優しく言った。

 

「言った通り、この提案はガーデンを代表するなんて大仰なものではないわ。あくまでも、個人の嗜好の範疇のもの。私はガーデンのメモキーパーであると同時に、一人のコレクターでもある。こう言えば、分かってもらえるかしら。私はただ、星穹列車のナナシビト……つまり、「開拓」が持つ記憶に興味があるだけなの」

「……つまり、あんたは自分が持っている情報と私達の記憶を交換したい、そういうことね?」

「ええ。そう考えてもらって差し支えないわ。どうかしら?」

「あんたの言いたいことは理解したわ。その上で、回答する前にもう少し時間が欲しいの。いくつかこちらで話し合いたいことがあってね」

 

 姫子の言葉に、ブラックスワンは「私は構わないわ。ゆっくりと、あなた達の答えを出してちょうだい」とどこかへ去っていく。そして彼女は、列車組の方へ振り返った。

 

「姫子、彼女の話についてどう思う?」

「少なくとも、頭から鵜呑みにして良い話じゃないわね。意図的に私達を誘導しようとする要素が少なくなかったもの。ヴェルト、そういうあんたはどうなの?」

「俺もおおよそ同意見だ。少なくとも、十割俺達の味方というのは有り得ないだろうな。俺達とは別の陣営と繋がっている可能性もあるだろう。……だが、夢境に関してはある程度納得がいく話だった。彼女が言うことが事実なら、ファミリーの対応も辻褄が合う」

「ええ、問題はそこよね。意図がどうであれ、もし彼女の話が本当で、そしてその裏に糸を引く黒幕がいるとすれば……」

「……それは「時計屋の招待状」に限りなく近い関係を持っているだろうな。今の状況を踏まえると、あの招待状にも二つの可能性が出てくる。誰かが外部の勢力を招き入れてファミリーに対抗しようとしているか、或いはファミリーが自分達を守るため、密かに助けを求めているのか、だ。だが招待状の暗号、そしてファミリーの反応を見るに、前者である可能性は極めて高い。断言するにはまだ調査が必要だが」

「待ってよ、ヨウおじちゃん。ってことは黒幕とは別に差出人がいるって可能性もあるってこと?」

 

 訳が分からないと言わんばかりに首を傾げるなのかと、その横で何にも分かっていないくせに「この銀河打者は超理解してます」というドヤ顔をしている星。ヴェルトはなのかの疑問に対して「ああ」と首を縦に振る。

 

「その可能性もあるだろうな。どうやらこの夢の地は俺達の想像よりも遥かに複雑な事情を抱えてるらしい」

「そして私達もその招待状に招かれている以上、無関係でいることは出来ないわ」

「じゃあ、もうバカンスは終わりだね……」

「ああ、一旦中止だ。それと、俺からも報告が一つある。残念ながら、悪いニュースだがな。確かな筋からの情報だが、ピノコニーに銀色の鎧を纏った背の高い男が侵入したらしい。俺はそれについてハウンド家に話を聞いたり、目撃者の来賓を尋ねたりしたんだが……その結果、あるものを手に入れた」

 

 そしてヴェルトは一つのファイルを仲間達のスマートフォンに送信する。「害がないことは確認した。開けてみてくれ」と促され、彼女達はそのファイルを開封した。

 

「コホン、聞こえてる?やっほー、星穹列車。短いバカンスは楽しめた?」

「おっ銀狼じゃん」

「あんたあのハッカー娘と知り合いなの?!いつの間に?!」

 

 彼女達のスマートフォンの画面に映ったのは、拡声器を持った2.5頭身くらいのデフォルメ体型の星核ハンター「銀狼」。彼女は星穹列車の事情を知りながら、ニヤニヤといつものようにいたずらっぽく笑っている。

 

「言っておくけど、これは録音データ。どんな反応しても無駄だよ。あーあ、あなた達の顔が拝めないのだけ残念。そうそう、ウチの人達には会えた?会えてないなら、星穹列車でも迂闊に手を出さない方が良いよ。これは忠告。あいつらに手を出したら、ピノコニーごと大爆発しちゃうかも」

「取り敢えず本題だけ聞いても良い?」

「じゃあ、そろそろ本題だけど、あなた達がピノコニーの異変について調べてるのは知ってる。むしろ、今頃の私はワクワクしながらそれを追ってるだろうね。誰だって、人が真実を暴く過程は大好きだから」

「そういやなのか、銀狼ってブローニャに似てない?」

「それ今言う必要ある?」

「ちなみに教えてあげるけど、ファミリーは確かに何かを隠してる。それで優しい私は、たまにはあなた達を助けてあげようかな、なんて思ったから、掴んでる情報をあなた達に共有してあげる。このファイルにおまけみたいに付いてるコードがあるでしょ?」

「あっあるね」

「それをホテル・レバリーのドリームプールにコピペしてみて。みんな大好き、隠しマップが解放されるから」

「えっホントに?」

「あんたなんで録音と会話してるの……?」

 

 それはそれは不思議そうな顔で星を見るなのか。彼女は「「情熱(パッション)」の為せる技だね」とドヤ顔するが、画面の中の銀狼は「あ、録音は嘘」とすんなり答える。星はバットを取り出し、「銀河打者のホームランボールになれるなんてあんた光栄だね」と脅しに掛かった。

 

「ふふっ、ごめんごめん。お詫びに、ウチの人達について教えてあげる。「サム」は単純な戦闘能力だったら星核ハンターでも一番かも。結構単純で、それでいて正々堂々が好きだからきっとあなた達とも気が合うよ。もう一人は……どうしよう、こっちはサプライズにしておこうかな。星なんて大喜びだろうし」

「えっママ来るの?」

「ふふっ、会ってからのお楽しみ。あ、そうそう、あいつからも伝言だよ。「辿り着けない夢の中で、終わらない演目が終わる」だってさ。それじゃ、あなた達の旅が星核ハンターによって終わらないことを祈っててあげる!」

 

 そう言って、銀狼のファイル、あるいは電話はぷつんと切れる。「こんなとこにまでいるとか、星核ハンターってしつこいんだね!」となのかは腹を立てた感じで言った。

 

「星核ハンターまで参戦するとなると……ますます先が読めなくなっていくわね」

「ああ。「溶火騎士「サム」」……あのグラモスの鉄騎の残党である遺伝子改造戦士。常人とはかけ離れた認識と思考回路を持ち、その行動は迅速かつ果断で、妥協の余地は無し。星核ハンターにおいてカフカや刃にも劣らないどころか、人によっては「桜花」と並ぶとさえ言う者もいる」

「あ、ウチでも名前は聞いたことあるよ!そういえば、「サム」もどこかで聞いたかも!」

「そうか。しかし、銀狼が言うもう一人が「桜花」なのであれば……出来る限り衝突は避けるべきだな。いや、今はそれよりも「隠しマップ」の方が先決だ。あの文脈なら、おそらく封鎖中の夢境の「ホテル・レバリー」だと思うが……」

「どうする?今回もバットで解決する?」

「そんなに身構える必要はないわ。もしファミリーに何か言われても、素直に星核ハンターのことを話しましょう。協力が得られるか、あるいは反応で何か分かるかもしれないわ。これ以上異論が無いようだったら、ブラックスワンを待って返事を伝えましょう」

 

 姫子の言葉に、列車組は頷いた。

 

◇◇◇

 

「……ああ、あなたが……」

 

 彼女達の答えを待つ間、ホテルを散策していたブラックスワン。そして彼女を待つように、一人の少女が廊下の片隅で一冊の本を読んでいた。彼女はその気配に気づくと、本から顔を上げた。

 

「はい。はじめまして、ブラックスワンさん」

「こちらこそ、はじめまして。星核ハンターさん。カンパニーの彼が言っていたのは、あなたのことね」

「ああ、既にアベンチュリンさんが話していたんですね。本当は、夢境でお待ちしようかとも思ったのですが、あいにくあの空気は思考に向いてないものですから」

 

 「それと、チェスの手で彼が悩んでいるので」と彼女は微笑んで答える。「そう」とブラックスワンも優しく微笑み返した。

 

「それで、どうしてあなたは私のことを待っているの?」

「何故……いえ、あなたと大差ありません。あなたが「開拓(星穹列車)」に興味を持っているように、私も「記憶(ガーデン・オブ・リコレクション)」に興味があるんです」

 

 そして彼女はブラックスワンを観察すると「少し、驚きました」とまた微笑んだ。

 

「メモキーパーは在る種の「ミーム」のような形で蒐集すると聞いていたんですが、こうして見ると普通の人みたいです」

「あなたと同じよ。人の中で過ごすなら、人の形を取るのが最も合理的で、そして最も簡単だもの」

「ふふっ、そうでした」

 

 少し笑ってから、彼女は椅子を立ち、「そろそろ、彼等も答えを出すでしょう」とブラックスワンに伝える。そしてブラックスワンが瞬きした瞬間、彼女の姿はどこかへ消えた。そして彼女は手元の光円錐を覗き、呟いた。

 

「「繁殖」……ふふっ、一体どんな味わいなのかしら」




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