星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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真夜中を謳歌して

「なの?私だよ、銀河打者。ロビーへ行こう」

 

 なのかが眠り、そして目を覚ますはずの部屋の扉をノックして星は声を掛ける。しかし、返事はない。

 

「もしもーし?なのー?私だよー?オレオレ詐欺じゃないよー?」

 

 もう一度ノックする。それでも何の反応もない。

 

「訪問販売でもないよー?星穹列車の星だよー?そろそろ時間だよー?」

 

 めげずに彼女は再びノックする。それでも何の反応も帰ってこない。彼女は少しムッとした顔でバットを取り出した。

 

「そんなに味わいたいなら……!お望み通り、銀河打者のモーニングコールを見せてあげる!……雪だるま……ッ……作ろう……ッッ!!」

 

 そう言って、星は部屋のドアに思いっきりフルスイングをかました。しかし、それでも何の反応も無く、それどころかドアさえ微動だにしない。「この銀河打者流二本足打法が……」と落ち込む彼女に、ブラックスワンは「残念ながら、そんなことをする必要はないわ」と慰めた。

 

「あの娘は、今ここにいない。そして、ここもあの娘の部屋じゃないの。記憶域では、現実の物理的構造は意味をなさなくなる。彼女は今……そう、少し遠くにいるのね」

「えっ早めに言ってよ。……待って、ってことはロビー見つけるのもかなり面倒?」

「ええ。ナビゲーターさんの言っていたロビーにたどり着くには……それ相応の、工夫が必要なの。行きましょう、案内してあげるわ」

 

 そう言って、廊下をゆっくりと進んでいくブラックスワン。星も、その後を軽い足取りで追っていく。

 

「ねえ、ブラックスワン」

 

 そしてその道中、「なんか倒れてるよ」と星は廊下の傍らに転がされた、ガラクタのような何かを指差す。ブラックスワンは足を止め、彼女の指したそれを見た。

 

「ああ、この子は……スウィート・ドリーム楽団……いえ、ナイトメア楽団かしら。可哀想に、自らの役目も忘れて果ててしまったのね。……しかし、妙ね……」

「どうかした?」

「ええ。何故か、ここに私達以外の人間の気配があるの」

「誰かが迷い込んでるかもってこと?」

「それは……いえ、まだ何と言うべきじゃないわね」

 

 「先へ進みましょう」という言葉に星は頷き、少し暗く、そして幻想的な夢境ホテルを彼女達は着実に進んでいった。

 

◇◇◇

 

「嘘、彼女は……いえ、しかし……こんなこと、あり得るの?」

 

 階段を降り、本来のホテル・レバリーであればラウンジがあるはずの場所へ足を踏み入れた彼女達。その気配を察して僅かに狼狽えるブラックスワンに、星は「どうかした?」と尋ねた。

 

「いえ……ただ、驚いただけよ」

「え?なんで……って」

 

 ブラックスワンが見ている方向に、同じく目をやった星。そこには、いるはずのいない人物が、静かにナイトメア楽団と対峙していた。

 

「ここは……スタッフは、いないのか?まさか、お前達が?」

「違うわ。その子達は役目を忘れた哀れな道具に過ぎないの」

「……おや、どうして、あなた達が?」

 

 そう言って、太刀を持った彼女、黄泉は二人の方へ振り返った。「また道に迷ったの?」と尋ねる星に対して、彼女は「道に迷った、という言い方では正しくないな。少しだけ自分の今の居場所が分からなくなっただけだ」と首を横に振った。そして「えっそれ何が違うの?」と言わんばかりに首を傾げる星を尻目に、ブラックスワンは「今は、力を合わせて、その子達にご退場願うのが先じゃないかしら」と二人に提案する。

 

「力を合わせて……か。なるほど、悪くない響きだね。この銀河打者の好みだよ」

「あなた達とご一緒できるとは……そうだな、光栄だ。その提案と、協力に感謝する」

 

 こうしてサクッと目の前のナイトメア楽団共をボコボコにした彼女達。最後の一体が倒れると、黄泉は二人の方へ振り向き、「あなた達は、どうしてここに?」と尋ねた。

 

「なるほど、それは完全にこっちの台詞だね」

「ええ。あなたは、どうやってここまで来たの?」

今、ピノコニーでは、決して表にするべきではない秘密の話題……時計屋やその遺産、悪夢、そして死といった、根拠のない、曖昧な噂話が飛び交っている。私はその噂と、出所に興味を持ち、それらについて調べていたんだ。そして、その最中、噂通りの方法を試したところ……本当に、ここに辿り着いてしまったんだ

「……本当に、それだけかしら?」

「ああ。これだけだ。メモキーパーの前で隠し事をするなど、そのような愚行はしない」

「私は出来るけどね」

「そうか……あなたは、中々愉快な人だ」

 

 そう言ってほんの少し微笑むと、黄泉は二人に対して一つの提案をした。

 

「もし、私達の目的が一致しているのであれば、共に行かないか?」

「目的?黄泉もなんかあるの?」

「ああ。この夢境は、危機に瀕している。そしてそれは、解決されないといけない。私は、あなた達を守ることが出来る。そして、私にはメモキーパーの助けが必要だ。どうだ?」

「星さん、選択はあなたに任せるわ」

「じゃあ一緒に行く?人手って多いに越したことはないし」

「ありがとう……心から感謝する」

 

 こうして、星の夢境探索パーティに、また一人仲間が加わった。




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