星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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夢を焚べる溶火(その2)

「なんか……迷路みたい……」

 

 酷く複雑なホテルの道を行きながら星が呟くと、彼女達を先導するブラックスワンは「当たらずとも遠からず、ね」と相槌を打つ。

 

「どうやら、この夢境はロビーを中心に創られているみたいなの。故に、ロビーから離れているほどその構造は曖昧になり、乱れやすくなる……」

「つまり、今も絶え間無く変化し続けているということか?」

「ええ。だから、少し急ぎましょう。もちろん、彼等を刺激しないようにね」

 

 彼女達は記憶域ミームが彷徨う空間を進み、招かれざる客の後を追う。そして幾つかの、惑わせるような廊下を抜けた先、星は一際大きなシャンデリアが目を惹く部屋に足を踏み入れた。

 

「これは……まさしく「目を奪われる輝き」とでも言うべきか」

「ブラックスワン、この部屋で合ってるの?」

「ええ。正確に言えば……ここの「真下」ね」

 

 彼女の言葉を「真下?」と聞き返し、星はコンコンと床を叩いた。夢境ながら、帰って来るその如何にも頑丈そうな、リアルな感覚に彼女は「これどうやって下に行くの?」と首を傾げる。

 

「あ、もしかして、メモキーパーの「壁抜け」とか教えてくれるの?」

「ふふっ、少し調子が戻って来たみたいね。でも、あなた達がメモキーパーのように物理的構造を無視するのは難しいわ」

「なら、どうすれば良いんだ?」

「簡単な話よ。物理的構造が無視できないのなら、物理的に破壊してしまえば良い。使うのは、頭上の大きなシャンデリアだけ」

「……あ、あれを落とすってこと?」

「正解よ」

 

 そう答え、ブラックスワンは何枚かのアルカナカードを飛ばす。それは壁などに貼り付き、夢泡の塊、あるいはワインタワーなんかを出現させた。

 

「使い方は知っているでしょう?憶質の流れを動かして、壁や天井を伝って、そして、あれに近づけば良いの」

「オッケー、任せて」

 

 そう頷いてから、星はワインタワーに触れた。ワインタワーから浮かんだ金色の雫が近くの夢泡と合体して、スロープのようなものを作り出す。それを登ると、彼女を縛る重力は壁に働き、彼女は壁に掛けられた大きな絵の上に立っていた。そして次の雫がふわふわと、水槽の中の金魚のような動きで次の夢泡と共にスロープを用意する。それを何度か繰り返すと、気がつけば星はシャンデリアの付け根、そのチェーンの目の前に到着した。

 

「着いたよ、ブラックスワン」

「お疲れ様。そしたら、そこにいるひとりぼっちのチェーンを解放してあげましょう」

「分かった。そういうのは得意分野だよ」

 

 そして星はバットを取り出すと、いつものような二本足打法で思いっきりそのチェーンを叩き割った。一瞬、彼女の視界はスローモーションになり、ゆっくり、ゆっくりとそのシャンデリアが落下していくのが分かる。そしてそれは徐々に加速していって、床と激しく衝突した。破片が、憶質となって飛び散った。それと同時に、星の身体も通常の重力へ引き戻され、真下へ頭から落下していくが、それをブラックスワンのカードが受け止めた。

 

「……っと、スリリングだった」

「楽しんでもらえたなら何より。ほら、ちゃんと真下への道も開けたわ」

「ここから、飛び降りれば良いのか?」

「ええ。でも安心して。私が夢泡を積み上げてクッションを作ってあげるから。そこへ向けて飛び降りれば、快適に着陸できるわ」

 

 ブラックスワンがそう言うと、シャンデリアの落下によって開いた穴を埋めるように集まっていた夢泡はゆっくりと下降し、そして真下の床へ積み重なる。「好きなタイミングで飛び降りてちょうだい」というブラックスワンの言葉に頷いて、星はぴょんと飛び降りた。黄泉もそれに続いて飛び降りる

 

「……本当に、無事に着地できた。なんというか……すごく、不思議な気分だ」

「ほんとにね。アクティビティにしたいくらい」

「二人共、メモキーパーがいない時は真似しちゃ駄目よ?それじゃあ……」

 

 先程の真下の部屋、まるで初めて「死」と対峙したあの部屋を思わせるかのようにモニターの並んだ部屋の中で、ブラックスワンは振り返る。そこには、シャンデリアによる衝撃、そしてその物音を聞きつけたナイトメア劇団達。彼女はアルカナカードを取り出すと、「ひとまず、あの子達にご退場願いましょう」と微笑んだ。

 

◇◇◇

 

「……よし、全部追い払ったよ」

「ええ。そのようね。それじゃあ、あなた達にちょっとしたマジックをご覧入れるわ」

 

 「あまり、驚きすぎないようにね」、そう微笑んだブラックスワン。止まった星と黄泉の、その視界の前を彼女のアルカナカードが通過すると、そこには、憶質が見慣れた人影に固まっていた。

 

「これは……」

「……ホタル?」

「ええ。彼女は、どうやらこの部屋を訪れていたみたい。これは、部屋に残されたホタルさんの記憶よ。地面の振動、スクリーンの反射光、憶質の流れの跡……それらを集めて、断片的に再現したの」

「なら、これを追えばホタルの道のりが分かる……?」

「そういうことよ。前後関係については、少し整理が必要だけれど。さあ、早く追いかけましょう。いくら記憶域がメモキーパーの領域でも、これは流石に消耗が激しいから」

 

 星はその言葉に頷き、目の前のホタルの形をした憶質に触れた。

 

「……なら、あの時星が出会ったアレは……きっと、「時計屋」と関係がある。あたしが、間違ってなければだけど」

「ホタル、私の名前を……?」

「どうやら、彼女はあなたに対して決して悪くない感情を抱いていたようね。それと、彼女は自分の発見と、その考えを誰かと共有しているみたい。そしてそれは……」

「……「時計屋の遺産」に絡んでいるようだな。この後、被害者になるとも知らずに」

 

 ホタルの記憶は、部屋の外へ続いている。星は、その後を追い始めた。

 

「……大丈夫、あたしは自分で答えを探すから」

 

「きっと、この記憶は……」

 

「……っ、もうそこまで来てる……!」

 

「……ううん、平気。ここからは、1人でも大丈夫」

 

「このドア、開かない……?まさか……行き止まり……?」

 

 彼女の記憶を追って、進んでいく三人。同行者がいる、というよりは誰かと連絡を取りながらにも見えるその足取り。そして、誰かに追われているような彼女は、気がつくと行き止まりの部屋まで進んでいた。

 

「これまでの記憶から推測すると、ホタルは協力者と連絡を取りながら逃げていたが、追手が増えたためにその連絡を切って1人で逃げることになった。そして、その途中でこの部屋に迷い込んだんだろうな」

「ええ。……そういえば、ハウンド家はここ最近「銀色の鎧を纏った大柄な男」を見つけ出そうと躍起になっているそうよ。もしかしたら、関係があるのかしら」

「でもそれだけ?ハウンド家のギャラガーって人に止められて、少しは大人しくなってたと思うんだけど……」

「あるいは、彼女が「時計屋」を追っていることが関係しているのかもしれない。この夢において「時計屋」はタブーなのかもしれないし、あるいは……もっと大きな「何か」の為の餌なのかもしれないわ」

「……だとすると、私達はまんまとそれに掛かってることになるね。しかも、私達がここまで辿り着けてることも怪しくなってくる」

「だとすれば……いや、どちらにせよ、ここで引き返すべきではないだろうな」

 

 黄泉の言葉に頷く星。ブラックスワンは「次の順路はあちらのようね」と部屋に隠された扉を指差す。彼女達は、どんどんと記憶域の奥へ潜っていくホタルの、次の記憶を追った。

 

「こんなところに、道を……」

 

「こっちが出口……?……うん、分かってる……」

 

「また、ロビーに戻って来た。……あとは……」

 

 そして、ロビーの手前の道をして途絶えたホタルの記憶。代わりにそこにあったのは、焼け焦げそうな程の熱と、炎と煙と灰の香り。「気をつけろ」と黄泉は二人に警告する。

 

「……どうやら招かれざる客とのご対面のようだ」

「ええ。表舞台に出るタイミングを待っていたのかしら」

 

 先程まで彼女達がいたはずのロビーで、それは待ち構えていた。金色のパーツが配置された、銀色の装甲。その身には莫大な熱を湛えているのが分かる。辺りには、先程とは比べ物にならないほどに新鮮な残骸の数々。星は、ヴェルトの言葉を思い出した。

 

「……っ、星核ハンター「サム」……!」

「……」

 

 それはおもむろに、されど威圧感を纏って彼女達に振り返る。

 

「「巡狩(巡海レンジャー)」に……「記憶(メモキーパー)」……」

「っ……」

「探偵ごっこは終わりにしてください。あなた達は、ここにいるべき人物ではない。このまま去れば、誰も傷付くことはありません」

 

 そして、提案するように差し出される右手。星は、バットを構えて相対する。

 

「もし、戻んないって言ったら?」

「そうであれば……」

 

 その右手は握り拳に変わり、胸部のユニットから放出された炎が辺りを包む。そして、それは告げた。

 

「全員、ここで死にます」

 


 

 「星核ハンター「サム」」

 「星核ハンター」の一員、白銀の重装甲を纏った謎の戦士。その鉄甲は灼熱の炎を放ち、その四肢は豪熱の嵐を巻き起こして戦場を火の海に変え、烈火の如き殲撃によって対象を排除する。

 

 「BHF-B-業炎進撃」

 指定した味方単体に炎属性ダメージを与える。

 

 「BHF-B-天墜」

 指定した味方単体及び隣接する味方に炎属性ダメージを与える。

 

 「BBHF-B-焦土作戦」

 味方全体に炎属性ダメージを与える。

 

 「DHGDR-B-二次燃焼」

 少量の自身のHPを消費し、「二次燃焼」に入り「弱点無効」を解除する。「二次燃焼」に入ると自身を大幅に強化するが、攻撃を行うたびに少量の自身のHPを消費する。

 

 「DHGDR-B-火災旋風」

 5連続でランダムな味方単体に炎属性ダメージを与える。

 

 「DHGDR-B-オーバードライヴ・スーパーノヴァ」

 味方全体に大量の炎属性ダメージを与え、攻撃を受けた味方を燃焼状態にする。

 

 「SGE-B-溶火フィールド」

 「二次燃焼」状態に入った後、フィールドと味方のSPを燃やす。味方が燃えるSPを消費するとHPを消費し、さらに敵に本来のダメージ一定割合分の炎属性固定ダメージを与える。自身以外による治癒効果を受ける時の回復量が大ダウンする。味方の残りSPに応じて与えるダメージをアップする。

 

 「SGE-B-溶火エンジン」

 「二次燃焼」のサムは「熔火エネルギー」を持つ。サムが燃えるSPを消費する攻撃を受ける時、対応する数の「熔火エネルギー」が減り、「熔火エネルギー」が尽きる、または弱点を撃破されたとき、「二次燃焼」が解除される。「二次燃焼」を解除した時、サムの被ダメージがアップし、味方のSPとEPがすべて回復する。




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