「……なるほど。道理で、カフカさんもスーツを仕立て直してくれた訳です」
国を見下ろすビルの屋上。彼女はカスタードのたっぷり入ったシュークリームを頬張りながら呟いた。
「相変わらず、少し人使いが荒い気もしますが……まあ、構いません。丁度「壊滅」のサンプルも欲しかったところですから」
そう言って彼女は口元の汚れを拭うと、愛用の扇子を取り出し、軽やかに開く。肌理細やかな黒地に舞う花弁。そして桜花がそれを視界を薙ぐように振り抜いた瞬間、その景色の遍くは墨に染めたかのような、真っ黒な桜吹雪に包まれた。
「さて、と。始めましょうか」
◇◇◇
「星核ハンター「カフカ」、罪を認めるか?」
ヤペラー宮殿の最奥、「壊滅の間」に厳粛な声が響いた。窓の外は真っ黒で、真っ赤。獣の頭を持った屈強な男達は半円状のテーブルに着き、彼女はその中心に、手枷足枷と共に座っていた。
「到底赦される罪ではない。だが、ヤペラーブラザーフッドは常に、その生命が天国へ往く権利を尊重する。認めれば、アナイアレイトギャングが「壊滅」の名の下に死を授けよう」
「……ええ、良いわ」
「続けてちょうだい」とカフカは閉じていた目を開いて答えた。このような場においても化粧は欠かさないのが彼女の流儀である。
「では、其方と「星核ハンター」のメンバーは以下の罪について真実を語り、認めるが良い」
そう言って鹿頭の男が手元のディスプレイを操作すると、カフカの後ろのスクリーンに無数の罪状が羅列される。虎頭の男が言った。
「其方らはアテューン世界オークションにて招かれた数百の来賓を操り、「敬虔観者」の管理下に置かれた述べ数千品もの芸術品を破壊し8600億信用ポイント以上を損失させたと同時に「
問いかけに対して、カフカは残念そうに答えた。
「ええ。でも敬虔観者は「敬虔」と言うには少し傲慢だった」
鹿頭の男が言った。
「其方らは
問いかけに対して、カフカはため息を吐きながら答えた。
「ええ。でもデータ悪魔は自由故に「データ悪魔」なのよ」
犬頭の男が言った。
「其方らは「
問いかけに対して、カフカは懐かしがるように言った。
「ええ。でもあれはまだ私達じゃなかったもの」
山羊頭の男が言った。
「其方らはリングワールド・ゴールコンダに侵入し、その植民地の全てにパラドックスウイルスを蔓延させ4600万の無機生命体を制御不能な機械に貶めた。そしてゴールコンダのラグランジュに格納された「
問いかけに対して、カフカは不思議そうに言った。
「あら?それはブラザーフッドの仕業だって聞いてるけど?確かに、「
そして罪状を並べるその手が早くなる。
「それだけではない。トロヴェス星系失踪事件、ロー-51星核事件、エルティネイア暴落事変、スクリュー星に対するハッキング襲撃、オン=ウェリルネス解放事件、ピアポイント侵入事件……計55件の罪!この全てが「星核ハンター」の手によるものだと、認めるか?」
問いかけに対して、カフカは笑いながら言った。
「「アナイアレイトギャング」も絡んでいると聞くけど……まあ、認めるわ」
そして彼女は窓の外に現れた人影を確認すると、わざとらしく、思い出すように言う。
「そうそう、1件だけ抜けてるわ……」
その艷やかなリップの塗られた唇が、徐ろに動いた。
「「ヤペラー反逆事件」」
カフカがそう呟いた瞬間、彼らは我に返ったように、今まで何かに取り憑かれていたか、操られていたかのようにその目を見開く。そして彼らが「どういうことだ」と頭を押さえたその瞬間、現れた人影が全てを焼き払った。
◇◇◇
赤黒い街並みを見下ろしながら、カフカは「やっぱり手枷は痛いわ」と手首のストレッチをしながらネクタイを締め直した。その足元を黒猫がくるりと回る。そして彼らを焼き払った鉄騎、サムは「獲物で遊ぶ癖は直して下さい、カフカ」と排熱しながら苦言を呈する。
「はいはい、次はね。今回はもう間に合わないもの」
「分かりました。……「システム時間3時43分11秒」、間もなくです」
サムがそう言うと、「おつかれ〜」と背中から声が掛けられた。銀狼は空になった拳銃を回し、刃はベストのボタンを留める。
「ねえカフカ、ネクタイって本当に必要?苦しいだけじゃない?」
「ふふっ、でもお洒落は我慢とも言うでしょう?それと、偉いわ、刃ちゃん。今回は卸し立てのスーツを返り血で汚してないのね」
「後は桜花ですか。彼女の気紛れも多少の悩み物ですが……」
サムがそう言った瞬間、黒い桜吹雪が舞って、彼女は姿を表した。
「お待たせしました。少々道に迷ってしまって」
「構わないわ。ところで、あれは君かしら?」
あちらこちらに散らばっている蟲喰い死体を差して言うカフカに、桜花は手に持った上着を畳みながらその首を縦に振る。彼女の答えにカフカは「相変わらずの「悪食」ね」と笑う。そしてその眼下には自分達の頭領の異変に気がついて押し寄せるヤペラーブラザーフッドの群れ。桜花は扇子を開く。
「カフカさん、あれもそうしますか?」
「ええ。エリオの予言はまだ続いているもの」
そう言ってカフカは上着を羽織った。キーボードがカチャつき、刃が鳴り、鉄騎が再点火し、墨桜が吹雪き、引き金に指が掛かる。
「続けましょう。……全ては「脚本」の通りに」
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