「焦らないでください、星ちゃん。ちゃんと、必要な情報は教えてあげますから」
そう言って笑う桜花。星は戸惑いを隠さずに「どういうことか、説明してもらえる?」と彼女達に尋ねた。
「良いとも、マイフレンド。単刀直入に言えば、あの「黄泉」って女は巡海レンジャーじゃないんだ」
「巡海レンジャーじゃない……?」
「ああ。もし巡海レンジャーじゃないとしたら、彼女は何者だと思う?」
アベンチュリンからの質問に、星は頭を捻る。そしてしばらくの沈黙後、彼女は「分からない」と言うかのようにその首を横に振った。アベンチュリンは「それも当然だ」と笑った。
「それじゃあお待ちかね、正解発表と行こう」
「……焦らさないで、アベンチュリン」
「ああ、もちろん。……「虚無」の「使令」。虚空の使者にして、死と終局をもたらす者。それこそが、彼女の正体だ」
「……この銀河打者を騙せるとでも思った?「
そう答える星。アベンチュリンに代わって、桜花は「よく調べましたね、星ちゃん」と微笑んだ。
「それでは、それを疑ってみましょうか。研究というのは、そこから始まるんです」
「研究?」
「はい」
そう言って、桜花は星の首筋を撫で、彼女に問いかける。
「星ちゃん、少し話は変わるのですが、「冥火大公」アフリート、という方を知っていますか?」
「知ってるよ。戦ったこともあるし」
「あははっ!流石ナナシビト、経験豊富だね!」
「でしたら、簡単にまとめます。冥火大公は、「壊滅」の星神、ナヌークによって滅ぼされた星、トフェトにて発生したプラズマ生命体です。その誕生には、天才クラブ#29セセルカルの創り上げた位相霊火も絡んでいる、と。無論、「壊滅」の運命を歩むアナイアレイトギャング、その一大派閥である「永火官邸」の長である彼は熱心に壊滅を信仰し、実践していました。それこそ、同じアナイアレイトギャングでさえ、餌食にするほどに……と、ここまでは、至って平凡な話です」
「……まだ続くの?」
「はい。むしろ、必要なのはここからです」
ふっと微笑んで、彼女は話を続ける。
「ある日、そんな彼等の下にファミリーからの招待状が届きました。アナイアレイトギャングを代表してのものです。その時、何故か永火官邸の対抗馬であった「ヤペラーブラザーフット」が一切の消息も無く壊滅していたが故のものでしょう。彼等は、宴の星を火の海に変えてやろうと、それを喜んで受け取りました。この話について、不自然なところが一つあります。どこだと思いますか?星ちゃん。推測でも構いません」
「……あ、それっぽい人達、1人も見たことない……」
思い出したように呟く星。「正解です。事実として、永火官邸は誰一人としてチェックインしていません」と桜花は頷き、続けて「どうしてだと思いますか?」と問いかけた。
「それは……ここに、来てないから」
「では、どうして来れなかったんでしょうか?もし星ちゃんなら、ピノコニー旅行をそう簡単にキャンセルなんてしますか?」
「ううん、しないよ。ちょっときな臭くなってきたけど、それでも超楽しいもん。それこそ、死にでもしない限り絶対来る……ね……?」
自分の言葉を反芻し、星はハッと気が付いた。桜花は、相変わらず満足そうに笑っている。
「永火官邸がここに来れなかった理由は完成しました。なら、後は何が必要ですか?」
「……アフリート達を、殺した犯人……?」
「はい。では、最後のヒントをあげます」
そう言って、桜花は二つのファイルを星に共有した。一つは招待客の予約リスト。そしてもう一つは実際の宿泊客のリスト。星はそのファイルを開くと、中身を必死に捜索する。そして彼女が見つけたのは、アフリートが宿泊する予定だった部屋。そしてその部屋に今泊まっていたのは……。
「黄泉……」
「どうやら、これ以上時間を掛ける必要は無さそうだね」
そして、アベンチュリンは星に提案する。
「改めて、取引をしようじゃないか、マイフレンド。今すぐ、僕達が言ったことを忘れてここを去り、掴みかけた真実を手放すか……あるいは、僕達の誘いを受け入れて、このピノコニーを盛大にひっくり返すか……君が選択してくれ」
「……その前に、一つ聞きたいことがあるんだけど」
星が言うと、アベンチュリンは構わないと言うように頷いた。
「桜花、あんたがアベンチュリンと手を組んで、私を仲間にしようとしてるなら、なんでサムは私達を攻撃してきたの?」
「ああ、私ですか?……はい。その答えは、至ってシンプルです。私とサムさんは好き勝手に行動している、それだけですから」
「好き勝手?」
「はい。連絡も取っていませんし、何かを示し合わせたりもしていません。私達は、まだ互いにやることを終えていませんから。私達の必須条件は全て、「脚本」が内包していますから、それで充分なんです。……ああ、ごめんなさい、また、話が逸れました。結論から言えば、カンパニーと星核ハンターが組んでいるのではなく、私とアベンチュリンさんが個人的に組んでいるだけなんです」
「……分かった」
星が静かに頷くと、アベンチュリンは「答えは決まったかい?」と彼女に尋ねる。星は、首を横に振った。
「そうか……まあ良い。僕には君の助けが必要だからね。多少は待つのが礼儀だろう。でも、僕にもあまり時間がないんだ。もし答えを決めるにはまだ材料不足というなら……「真実」を見てから決めてくれても良い」
そして、「準備が出来たら言ってくれ」と先に部屋を出る桜花とアベンチュリン。星は、部屋に残ったもう一人、ブラックスワンにその目を向けた。
「……あら、まだ私と話をしてくれるの?私としては、またあなたとお話できるのは嬉しいし、あなたの心理療法士になりたいとも思っているのだけれど」
「うん。だから、幾つか教えてほしいことがあるの」
「構わないわ。答えられることなら、出来る限り答えてあげる」
「……ブラックスワンは、私を騙してたの?」
星が尋ねると、彼女は曖昧に答えた。いや、曖昧にしか答えようが無かったというのが事実だろうか。
「少なくとも、私が彼等と取引をして、あなたをここに連れてきたのは事実よ。けれど、ここが今最も安全な場所であるというのも、また事実でしょう?彼等は、確かにあなたの力を必要としているわ。そしてそれは、ピノコニーの本来の姿を取り戻すには欠かせない一手なの。それが、私が唯一無二の美しい記憶を手に入れることに繋がるのも分かっていたから、私は協力を受けたのよ。でも、私が星穹列車を信じているのは全く嘘偽りのない本心よ。ガーデンはあなた達の開拓の旅を望んでいるし、その過程で生まれる無数の記憶を待ち望んでいる。だから、あなた達が必要とする限り、私は力を貸すわ」
「……そっか。取り敢えず、助けてもらったのはありがとう」
星がそうお礼を言うと、ブラックスワンは「やはり、あなたは綺麗ね」と微笑んだ。
「ブラックスワンから見て、アベンチュリンと桜花は信用できる?」
「これを、あなたが受け入れてくれるかは分からないのだけど……私から見れば、彼等は信用に値する人間よ。アベンチュリンさんは優秀な商人で、桜花さんは星核ハンターであると同時に、優れた研究者でもある。この銀河において、取引に望む商人ほど誠実さと契約を重んじる人種はいないし、難題に挑む研究者ほど真実と正しさに貪慾な人種もいないもの。逆に言えば、それ以外の要素で彼等と接するのなら、充分な注意を払うべきよ」
「そっか。……最後に聞くんだけど、黒幕は誰だと思う?」
「ホタルさんのことは……そうね、きっと、彼女は星核ハンターと関わりがあるのだと思う。それも、切っても切り離せないほどの。桜花さんは一度も彼女について口にしなかったけれど……それが、彼女が取るに足らない要素だからか、それとも隠そうとしているのかは分からないわ。けれど、彼女達は黄泉さんを告発することを選んだ。少なくとも、それは現時点において、決して無視できないほどの説得力と根拠を伴っている。それに、あなたがそう思っているかは分からないけど……私も、黄泉さんは手放しで信用できる相手だとは考えていない……いえ、むしろ、信用に値しない、と言うべきかしら」
「……どういうこと?」
「詳しくは言えないのだけれど……私が以前に遭遇した、サプライズによるもの、とは言っておくわ。それに、アナイアレイトギャングについては、私も彼等の言うことが正しいと証明することが出来るの。きっと黄泉さんは、この金色の夢で最も美しく輝く舞手の一人でしょうね」
「……あ、もう一つだけあった。ここから私のこと出せたりする?」
少し調子を戻して尋ねた星。ブラックスワンは頷き、そして首を横に振った。
「もちろん出来るわ。でも、それは今じゃないの。あなたの心のさざめきは、私も理解できるわ。人魚姫のように、一人の少女が腕の中で泡のように消えていく感覚は、長くあなたの心をざわめかせ続けるでしょう。……それでも、あなたは彼等を信じてほしい。あるいは、説得力もないかもしれないけれど、私を信じてほしいの。彼等の言う「真実」は、きっとあなたを、ピノコニーに隠された本性へと近づけてくれるわ」
「ブラックスワンも、手伝ってくれるんだよね?」
「ええ。あなたのことは、私が守るわ。それに、あなたがより多くの情報を彼等から引き出して、その上で合流した方が姫子さん達にとってもメリットが大きいもの。……おそらく、これが今出来る最善の選択なの」
「……分かった、行こう」
星はブラックスワンの手を引っ張って、部屋を出た。
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