星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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甘い夢の終わり

 崩れ落ち、燃え盛る永火官邸。その中で彼女は、一つの生命にその鞘を向けていた。それは、すんなりとその結末を受け入れた。

 

「……どうやら、勝敗は最初から決まっていたようだな」

「彼等は、まだ生きている。それはあなたも同じだ。あなたには、まだ選択する余地があり、その権利がある。そのオルゴールを置いて、ここを去るといい」

「選択?そのようなもの、一から「壊滅」の血には存在しない」

 

 死が包む玉座にあって、それは堂々と跳ね除けた。

 

「「冥火大公」アフリート、例えあなたがその命を捧げようと、「壊滅(ナヌーク)」はあなたを知覚することさえないだろう」

「「巡狩」を歩む者には分からぬだろうな。私と貴様は、最初から異なる道の行人なのだ。互いを理解しようなど烏滸がましい。私達は、炎の中より生まれ出た。その産声とは発火であり、その成長とは焚焼である。そしてその結末とは、須らく冷たい灰だ。それこそが、私達炎魔の全て。生まれた瞬間から、死という定まった結末への一方通行に身を任すのだ。「この世の結末は遍く「壊滅」である」、その真理に従ってな」

「本当に、そうだろうか。倒れ伏したあなたの仲間は、あなたを生かすために、その機会を勝ち取った」

「そうか。だが、あれらは私の子だ。未だ燻り続ける火種だ。例え道から逸れようと、それは若さ故。取り立てて責めることでもあるまい。しかし、私は違う。私の炎は、これ以上は弱まる一方だ。残された時間は、あまりにも少ない」

「ならば、何故だ?」

「……彼方、宴の星「ピノコニー」、私は彼の地へ煉獄をもたらさねばならぬ。故に、ここで「壊滅」の歩みを止めるわけにはいかないのだ。……お前がどれほど、星神が敷いた軌道の先を征こうとも……そうだろう?……「使令」よ」

「……」

「答えは、その刀を抜いて示すがいい。そして、死闘を繰り広げよう。「壊滅」とは至上の一瞬だ。それこそが、矮小な生命である、私達に相応しい結末なのだから」

「……もし、その答えが、あなた自身を破滅させるとしても?」

「答えは重要ではない。それは取るに足らない、一つの付属品だ。重要なのは、「存在する」というたった一つの事実。全ての存在は、破滅を導く。無論、それは「使令」とて逃れられるものではない。虚空の中でも「美しい夢(ピノコニー)」は生まれる。いわゆる「不可能」と呼ばれるものは、まだ訪れていないだけのことだ」

「……分かった。それがあなたの望みなら……私は、受けて立とう」

「感謝する。そして、お前がこれから目の当たりにする、この宇宙で最も激しく、輝かしい炎と、その煌々たる光が、お前の底知れぬ夢を照らすことを祈っている」

「……ならば、私も一つ明かそう。この刀を抜かない理由は、慈悲や軽蔑ではない。ただ、私の、人に見せたくない秘密だというだけなんだ。だが、この場において、あなたに敬意を示したい」

 

 彼女は、刀の柄に手を掛けた。

 

「……「巡狩」は、私の歩む道ではないんだ」

 

 そしてそれは抜かれた。

 

「死が、あなたの長い夢を終わらせることを……そして、目覚めの世界へと導くことを願う」

 

◇◇◇

 

「様子見は充分でしょう。刀を抜く時です、レンジャー」

 

 記憶域最深部、夢境ホテルロビー。サムはそう言い放ち、その四肢に溶火を纏わせて構える。黄泉は納刀されたままの鞘を、それへ向けた。

 

「……ハンター。あなたは、まだ夢を見るか?……自分のせいで、死んだ者の夢を……」

 

 サムは、沈黙を以て答える。しかし、黄泉はその刀を下ろした。

 

「……私は、今でも夢に見る」

「……」

「退け。まだ、あなたの番ではない」

 

 その言葉にサムは纏わせていた溶火を解除した。周囲を包んでいた炎も、それと同時に沈黙した。

 

「……「私の番」、ですか?」

「……巧妙な偽装は、数多く見てきた。しかし、それらは総じて、心まで隠せるものではないんだ。あなたも、その例外ではない。あなたは、最初からあの開拓者を敵と見做していなかった。おそらく、あなたが攻撃対象としたのは、私と、あのメモキーパーだけだろう。……しかし、それは何故だ?」

「……」

「それは「運命の奴隷」によるものか?」

 

 沈黙していたサムは、「運命の奴隷」という言葉に反応して、口を開いた。

 

「あなたは、エリオを知っているのですね」

「このことは、あなたの「脚本」に書かれていると思っていたが……」

「私に書き下ろされる「脚本」は、常に数行です。それ以上は必要ありませんし、私も欲しいとは思わない。彼は、私のことをよく知っています。運命はただ一つであり、巨大な門のように立ち塞がっています。そして、それは人の手では決して破れない。……ですが、それまでの道を選択する権利は私にあります。……では、私からも、質問しましょう。あなたは、一体何者なのですか?」

「私には、あなたが期待するほどの価値はない。あなた達と同じように宇宙を巡り、あなた達と同じように、人並みの秘密を抱えているだけだ。……ただ、私なら、あなたを助けられるかもしれない」

「……何故、そのようなことを?」

「私は……よく忘れてしまうから、記憶よりも「感覚」を頼って、物事を捉えるようにしているんだ。だから……私には、その鋼鉄の下にいるのが、誰か分かる」

 

 黄泉が答えると、サムはしばらく沈黙した。

 

「……どうだ、鎧を脱いで話す気になったか?」

「まだその時ではありません。私はまだ誰の助けも必要としていない。なので、あなたにアドバイスを差し上げましょう」

「アドバイス?」

「あなたが「時計屋の遺産」を狙っているのなら、ファミリーを調べてください。彼等は「死」を始めとする、夢境の真実の全てを隠しています。……そして、星穹列車はあなたの敵ではない」

「ああ、私もそれは分かっている。……だが、あなたから言われるとは思っても見なかった。……あなたは、これからどうするつもりなんだ?開拓者と、ブラックスワンの後を追うのか?」

「いえ。……あなたになら、教えても構いません。エリオが私に与えた指示はたった一つ。「星穹列車に、共に「大いなる遺産」を追わせること」。故に、私は最も端的で直接的な方法を取ろうとし、こうして順調に失敗を重ねています」

「「順調に」……か」

「ええ。桜花は「不可能とは、結局のところ未だ訪れてない全てを括っているだけだ」と」

「……そうか。その人も、ピノコニーを訪れているのか?」

「はい。おそらく、そう遠くない内にあなたも彼女と会うことになるでしょう。彼女は、最もこの夢境の真実に迫りつつある存在ですから」

 

 サムがそう言うと、黄泉は「分かった。出来る限り、覚えておこう」と頷いた。

 

「……ああ、それと、最後にもう一つだけ聞きたいことがあるんだ。あなたの「脚本」に私は登場するか?運命が残した未来で「私」がどのような注釈を書き加えたのか、知りたいんだ」

「残念ですが、一言も触れられていません。桜花の「脚本」にも、あなたの名前は無い。彼女の「脚本」は、たった一文の過程に過ぎませんので」

「……いや、驚くことでもない」

 

 そう呟いて、黄泉は去ろうとする。しかし、その背中をサムは呼び止めた。

 

「最後に「ノー」と答えておきます」

「……何?」

「「まだ夢を見るか?自分のせいで死んだ者の夢を」、あなたの最初の質問です。答えは「ノー」。一度も見たことがありません。私には初めから「夢を見る」という機能が備わっていない。この夢さえも銀狼と、桜花の力で無理矢理に見ているだけに過ぎません。私の存在意義は、冷たい鎧の中と、ほんの僅かな現実に収まっています。なので、伝えておきましょう。「あなたが、本当に羨ましい」と」

「……そうか。あなたはもう、目覚めの世界へと生きているんだな……」

 

 そう言い残して黄泉は記憶域を去っていった。

 

「幸運を祈っています。レンジャー……いえ、「自滅者」のあなた……」

「……この夢は、あたしの、誰もの想像より……ずっと、ずっと深いから」

 

◇◇◇

 

「……ああ、来たんですね。星ちゃん」

「いいね、君ならきっと来ると思ってたよ、マイフレンド」

 

 部屋を出た星を、彼等はそう言って歓迎した。すぐ側には、ミームとなって見守っているブラックスワンの気配。桜花もアベンチュリンも、それに気付いているのかいないのか、彼女のことには全く触れずにその廊下を歩き出す。

 

「何度も言うけど、君が仲間と相談しようと、僕を利用しようと構わない。だって、そうして凝らした工夫の数々が君達の価値を雄弁に語ってくれるからね。僕は損する取引はしない主義なんだ」

「分かってるよ。二人共、そういう関係で手を組んでるんでしょ?」

「まあ、そのような形だと言っておきます」

「それより、気付いてるかい?星核ちゃん。この廊下も、今から向かおうとしている部屋も、君は見覚えがあるはずだ」

 

 アベンチュリンがそう言うと、星は歩きながら周りを見回して気付く。ここはチェックイン直後に、酷く機嫌よく歩いていた廊下だ、と。そして、その記憶は次の目的地を雄弁に語る。

 

「もう分かるだろう?僕達が最後に出会ったのは……このドアの奥だ」

「……開けろってこと?」

「さあ。君に任せるとも」

「安心してください。私達は、あなたの協力が欲しいんです。星ちゃんを嵌める理由はありませんから」

 

 そして、星は意を決してドアノブに手を掛ける。「そう、それでいいんだ」と頷くアベンチュリン。彼女はゆっくりと、ゆっくりと力を掛けた。

 

「……ああ!やっと思い出せた!最後に僕達は楽しいゲームをしたんだった!」

 

 カチャ、とドアノブがこれ以上回らない位置まで到達した。

 

「ほら、丁度、あの時とおんなじ時間だ!そうだろう?」

 

 回す力が、引く力に変わった。

 

「そうだ、そして僕は君にこう言ったんだ……」

 

 扉が開いた。

 

「「ほら、ゲームはもう始まっている」」

 

 彼は、空の夢泡を踏んだ。

 

「「さあ、僕と取引をしよう」」

 

 彼女は、軽く微笑んだ。

 

「「君は断れない」」

 

 彼は、浮かぶ夢泡を払った。

 

「「断る理由がない」」

 

 彼女は、唇に人差し指を当てた。

 

「「断る余地もない」」

 

 星は、ドリームプールを見た。

 

 そこには、一人の少女が眠っていた。

 

 胸には、大きな傷があった。

 

 ロビンが、死んでいた。




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