「……ねえ、結局ウチらは誰と手を組めば良いの?」
彼女が去った後の沈黙の中、口を開いたのはなのかだった。桜花のもたらした情報はどれも即時性には欠けていたが、それと同時に「決して忘れるなかれ」とその脳に訴えかけ、彼等の記憶の片隅に刻み込まれる。そしてなのかの疑問に対して僅かに考える姫子とヴェルトの年長者組。先に答えたのは姫子だった。
「これは私の感覚になるけど、外部に漏れたら存続が危ぶまれる程の「事件」が起きてる中、ファミリーは星穹列車に協力を頼んできた。もし彼等に悪意があるとすれば、考えられない行動のはずよ。少なくとも、ファミリーは星穹列車を信用していると考えても良いんじゃないかしら。何より、夢境というファミリーの領域で彼等と手を組めるというのは、今後もかなり役立つはずよ」
「ああ、俺も概ね同意見だ。アベンチュリンさんについては……あれは一筋縄ではいかない相手だろうな。星の話を聞く限り……ロビーでのやり取りもそうだが、彼は腰の低い人間を演じること、そして感情と論理を伴って相手を納得させることに長けているように思える。あの星核ハンターと手を組んでいると考えれば、その手腕は相当なものだ」
「じゃあ断っとく?」
「いや、その上で俺は彼と協力するべきだと思う。状況が無秩序に拡大している今、少しでも多くの勢力と繋がりを持つことが先決だろう。それに、彼は優秀な商人だ。俺もそれなりに多くの人間を見てきたが、利害関係が一致した商人ほど信用できる人種もそう多くはない。互いが互いの利益になる限り、頼もしい味方になってくれるだろうな」
「ブラックスワンと同じこと言ってる……」
「何より、俺達はバランスを保つべきだ。その観点から考えると、どちらかに近づき過ぎるというのもかえって真実を見逃すことになりかねない。ここは敢えて両方と関係を持っておくというのはどうだろうか?」
「なるほど……確かに、ヴェルトの言う通りね。それなら、万が一どちらかが「犯人」だった場合でも、もう一方と手を組んで対抗することが出来る。分かった、ファミリーへは私から連絡しておくわ」
「アベンチュリンさんには星、あんたが連絡してちょうだい」という姫子からの指示に「あいあいさー」と星は大袈裟に敬礼する。
「ねえ星、本当に大丈夫なの?」
「アベンチュリン?大丈夫だよ、ああいうのは大体純情だしいつでも抱けるのに童貞なんだから」
「あんたの評価基準どうなってんの……じゃなくて!桜花の方だよ!あの星核ハンターで一番ヤバいっていう噂なのに、アベンチュリンと手を組むってことは桜花とも手を組むってことでしょ?そこんとこ、星はどう思ってるのさ?」
「桜花……別にさっきだって悪意は感じなかったし、悪いやつじゃないと思うけど。というか、星核ハンターが。全体的に」
「あんた色々甘いよね……ま、ウチはあんたを信じるけどさ」
「なのかも甘いじゃん」
そして、星はスマートフォンを起動し、アベンチュリンの連絡先を開いた。
『列車組のオッケーが出たよ』
『私達が協力してあげる』
『おお、予想よりも早い返事だね、マイフレンド』
『僕はその言葉をずっと待っていたんだよ』
『これで僕達は同じ車に乗り込んだ仲間だ。桜花ちゃんも喜んでいるよ』
『おっと、お礼をしないとね。ささやかなものだが受け取ってくれ』
『アベンチュリンが100000信用ポイントを送金しました』
『この銀河打者も随分と安く見られたもんだね』
『ははっ、いいね。僕も丁度数字を打ち間違えたところだったんだ』
『アベンチュリンが100000信用ポイントを送金しました』
『あ、あと今度ガチャ代行も頼んで良い?』
『ああ、君のだったら優先的に受け付けるよ』
『それと、思った通り、ファミリーはロビンの死を徹底的に隠蔽するつもりらしい。彼女の死を知るのは僕と桜花ちゃん、そして君達星穹列車に絞られたってわけだ』
『だが、もう一つの殺人に関しては彼等も手をこまねいているみたいだね』
『それじゃあ、そろそろ失礼しよう。改めて、君達の協力に感謝するよ!』
星は20万の臨時ボーナスをゲットしつつメッセージを閉じる。そして彼女は改めて、姫子に報告しに行った。
「姫子、アベンチュリンと無事に手を結べたよ」
「それなら一安心ね。手を組んでいる桜花の目的は分からないけど……少なくとも、彼の目的は「ピノコニーをカンパニーの手に取り戻す」とはっきりしてる。けれど、その為には何としてでもファミリーを倒して、ピノコニーのパワーバランスをひっくり返す必要があるわ。おそらく、その切り札は「死」の公表なんでしょうけど……それは、とにかくたくさんの人間が注目するような派手さが必要よ」
「……あ、そのために黄泉を狙ってるのかな?」
「それは彼に聞かないと分からないわね。少なくとも、アベンチュリンさんが彼女のことを相当気にしているのは間違いないわ。けれど、私達はまだ彼女について考察できるほどの材料を持っていない」
「じゃあ、あとは……「星穹列車」……?」
「その線も充分にあり得るでしょうね。彼はあんたにかなり注目してるみたいだった。証拠に、何度も意図的にあんたに近づいてきたでしょう?もしかしたら、あんたを何らかの形で利用するつもりなのかもしれないわ」
「てっきりこの銀河打者の美貌に一目惚れしたのかと……」
「あんたがそこまで軽口を叩けるようになってて安心したわ。とにかく、あんたも彼と手を組んだとはいえ充分に用心してちょうだい。彼は優秀な商人だろうけど……それ以上に、生粋のギャンブラーだろうから。もし気になるようだったら、もう一度ヴェルトにも相談してみると良いわ。ヴェルトの方が経験値があるはずだから」
そして星が周りをキョロキョロと見回すと、彼は自販機で買ったお茶を片手にベンチに腰掛けていた、彼女は、その下へ駆け寄った。
「ヴェルト、アベンチュリンと仲間になれたよ」
「それについてなんだが、彼と協力する上での幾つかの懸念点を共有しておきたい」
「懸念点?」
「ああ。彼は、殆ど何の根拠も持たないままにあの巡海レンジャーをロビンさんを殺した犯人だと告発した。考えてみれば、あのアナイアレイトギャングの件も彼女がロビンさんを殺した証拠にはなり得ないはずだ。もしかしたら……彼は、君に黄泉さんに対する疑念を抱かせることが狙いだったのかもしれない。君は何度か彼女と接触しているだろう?彼女について、少し教えて欲しいんだ」
「えっと……結構優しくて……色々謎で……なんかすごい感じの……あれ、待って……」
星は目を瞑り、その首を捻って考えた。
「おかしい……あんまりよく覚えてないような気がする……」
「……なるほど。確かに、典型的な巡海レンジャーという感じだな」
「……あ、待って……そういえば、「虚無」と関係があるみたいな……」
おぼろげに思い出した星に、ヴェルトは僅かに、その目を変えた。
「……星、そのことを姫子達には伝えたか?」
「ううん、伝えてない」
「分かった。ならそのままにしておいてくれ。この件については、俺の方で調べてみる。もし本当にそうなら……これは厄介な話になるぞ」
そして「ありがとう、少し休んでくれ」とヴェルトは星に礼を言う。彼女は代わりに無言でサムズアップし、ピノコニー大劇場を眺めているなのかの方へ走っていった。
「大丈夫?なの、疲れてない?」
「……うん、ウチでも、疲れてると思う。色々突然過ぎて……。実は全部イタズラで、ロビンさんだって本当は死んでなくて、どこかで元気にやってたらなぁ……って……。だってさ……これ、夢なんだよ?夢の楽園で、どうして人が死ぬの?……あの大劇場を見ると、色々考えちゃう……」
「なら、私達がどうにかしないとね」
「……うん、そうだよね!こんな時こそ、ウチら列車組の番だもん!」
「やっぱりなのは笑ってないとね。シリアス向いてないよ」
「なにそれ?それ、あんたのセリフ?」
そんな風に彼女達は笑い合い、そして姫子の下へ戻った。
「それじゃあ、作戦会議の続きと行きましょう。今のところアベンチュリンさんからの要請は無いようだし、先にファミリーの依頼から手を付けようと思うのだけど」
「なら、星が目撃した二つの殺人事件からだな。夢の中で死んだ人間は夢の中だとどうなるのか……そうだな、ホタルさんの様子でも調べてみるのはどうだ?もちろん、ロビンさんの情報も集めつつな」
「そうだね!ヨウおじちゃんもついてくるでしょ?」
「いや、俺はまだ幾つか調べたいことが残っていてな。もう少し、夢境を調査してから合流するつもりだ」
「そう、分かったわ」
「せっかく姫子とヨウおじちゃんのタッグが見れると思ったのに……じゃあ、そっちは任せるね!」
「ヴェルトの仕事が無くなっても知らないからね」
「ああ、期待している。だが、何かあったらすぐに連絡してくれ」
ヴェルトがそう言うと、彼女達は頷き、そして「バイバーイ!」と夢境を去っていく。そして彼は小さくため息を吐くと、その場で口を開いた。
「もう良いだろう、お客人」
「……気付いていたんだな」
「ああ。はじめまして、だな。……巡海レンジャー「黄泉」」
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