星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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アベンチュリン編突入なのでどっちかと言うと使令よりも星神に近い女こと桜花の出番がまた減ります


研究:或る少年の幸運
ベットタイム


 今から十数年前。スターピースカンパニー「市場開拓部」は、とある星に独立した首長連邦国家を設立することを発表した。ツガンニヤ-Ⅳと呼ばれるその星は、複数の星系の境界に位置し、その恒星の星風に絶え間無く晒される極めて過酷な環境故に「暴風の目」としてその名を知られていた。星体遊離作用による、一帯に砂嵐の吹き荒れる荒野の広がるその地は居住人口も極めて少なく、博識学会などは残ったごく少数の民族を「ツガンニヤ人」と一括りにしていた。

 しかし、それは正しい認識だと手放しに言えるものではなかった。確かに、大部分は氏族は違うものの、同じように遊牧をして生計を立て、また同じように星神神話体系から完全に独立した、全く別の信仰を共有する、彼等が称するような「ツガンニヤ人」である。けれど、それが全てではない。血と争い、蛮行と残虐を好み、その名はツガンニヤの言葉で「ナイフ」を表す、ツガンニヤで最も血に飢えた原始民族「カティカ人」、あるいは、彼等と数琥珀紀に渡る確執を抱き続ける、生まれつき優れた容姿とコミュニケーション能力を持ち、人から好かれることを得意とする故にかえって多くの嫉妬や恨みも集める、ツガンニヤの言葉で「蜂蜜」を意味する少数民族「エヴィキン人」。彼等の対立こそ、ツガンニヤの抱える大きな問題の一つであった。

 そして、スターピースカンパニーの発表から遡ること数年。エヴィキン人に、一人の少年が産まれた。母は産まれたばかりの、スヤスヤと寝息を立てる彼を抱き抱え、優しく祝福する。

 

「……ツガンニヤ、ツガンニヤ。乾き切った暴風の目、神々に見捨てられた地……」

 

「石はあっても水はなく、雷はあっても雨はなく、血はあっても涙はない。流星で我々を打ち、風雷で我々を鍛え、裂けた大地で我々を食む……」

 

「あなたは我らにエヴィキン(蜂蜜)の名を与えながら、苦境という名のカティカ()の下に置いた。フェンゴ・ビヨス(3つの目を持つ地母神)よ。この声が聞こえたなら、どうか目を開けてこの子を見てください……」

 

「あなたがこの子の父親を連れ去った時、この子はまだ羊水の中で眠っていました。そして今、私も夫のいる場所へ向かっている……」

 

「私は自分が安らかに逝くことなど望んでいません。ただ産着で眠る我が子が……母の鼓動を、雨降る大地の音を夢みることができるか教えてください。命とは刹那に過ぎ去る夢でしかないのか教えてください……」

 

「……そうでないなら、なぜこの子は生まれたばかりで死を迎えようとしているのでしょうか……?」

 

 そして、彼女の涙が今にも我が子に落ちそうになった、その瞬間だった。

 

「……お母さん……雨だ!雨が振ってきたんだよ!」

 

 その赤子の姉は、そう言って、心の底から嬉しそうに声を掛けた。母は「雨……?」と、信じられないものを見るような顔で外を見る。そして、テントを雨粒が叩き始めた。

 

「雨……!」

「そう、雨!黒い服の人達が言ってたのは本当だったんだ!あの他所から来た人達が雨を呼んだんだよ!これで……これで私達、ここから出れる……!家に帰れるよ……!」

「家に帰る……あぁ……3つの目を持つ地母神よ、あなたなのですね?私の祈りが届いたのですね……?ありがとうございます……ありがとうございます……」

 

 そして、彼女の赤子を抱くその手の力が僅かに強くなる。

 

「坊や、聞いて……これが雨の音よ。あなたが生まれた日、天もこうして(地母神の恵み)を振らせてくれたの」

 

「あなたは幸運な子、祝福された子……あなたの名前と同じように、神がエヴィキンに与えてくれた贈り物……ああ、坊や……」

 

「「地母神があなたのために三度瞳を閉じますように……」」

 

「「あなたの体を流れる血が永遠に巡りますように……」」

 

「「……計略が決して露見しませんように」」

 

「……この悲しい世界へようこそ、地母神に祝福された子(カカワーシャ)

 

◇◇◇

 

「……そろそろ目覚めろ、ギャンブラー」

 

 レイシオがそう声を掛けて、ようやく机に突っ伏して眠っていたアベンチュリンは目を覚ます。そして「ああ、全く……スラーダでも飲み過ぎたかな……」と頭を抑えながら彼は椅子から立ち上がった。

 

「ところで、君がこんなに早く戻ってくるとは思わなかった。てっきり、君は今頃仲間づくりに勤しんでいるものかと思っていたからね」

「半分は正解だ。少なくとも「ピノコニーでは仲間は必要である」という君の主張は正しい。おそらく、今僕達が持てる最高の装備は「情報」だからな」

「おお、そうだろう?それで、君の方は何か収穫があったのかい?」

「結論から言えば、君の推測通りだ。外の連中は誰もロビンが殺されたことを知らない、それどころかそのような噂すら全く流れていなかった。テレビではリハーサルに励む彼女の様子が流されていたが……十中八九替え玉、あるいは録画を流しているだけだろう。人々はファミリーに夢を見せられているままだ」

「ま、全く妥当な話だね。この夢の中じゃあファミリーの謳う絶対安全を疑う人間なんていない。誰も「死」なんて想像できるはずがないんだ。ましてや、被害者が「調和セレモニー」のヒロインだなんて……僕でさえ、初めは全く信じられなかった」

 

 アベンチュリンの言葉にレイシオは「ほう」と少し興味を示したようだった。

 

「意外だな。ギャンブラーという人種は常に死と隣合わせだと聞いていたが」

「そりゃあ、現実ならそうさ。でも、ここに「死」なんてものは存在しない。今の僕は心の底からそれを信じてるんだよ。何せ、自分で確かめたからね。拳銃、首吊り、ナイフ……自殺だけじゃあバリエーションが足りなかったから、友人の手を借りてそれ以外も山のように試したんだ。体が砂利みたいにバラバラにされたこともあったよ。けれど、そのどれも現実の僕は全くの無傷で強制的に目を覚ました。悪夢を見た後のような感覚だけを残してね。だから、僕は確信した。この事件の裏には、遥かに大きな秘密が待っているはずだ、ってね」

「そうか。なら、君も彼の記憶域ミームについて聞いたことがあるだろう。君に代わってファミリーのオーク家とコネクションを作りに行った際に耳に挟んだが、彼等も相当に頭を抱えているそうだ。死者はもう一人いるという話だ。密航者の少女だったらしい」

「なるほど……安心してくれ、教授。君の持って来た情報は今僕が持っている情報とバッチリ噛み合ってる」

 

 「どうやら、僕達はお互い正しい情報を集めたらしい」と頷くアベンチュリンに、レイシオは「論理のない過信は誤謬を導くぞ」と釘を差した。

 

「しかし、この事件は本当に狂ってるけど……ファミリーを追い詰めるには丁度いい。カンパニーが介入するための糸口としてはピッタリだ。ただ……このままじゃ、彼等に捻り潰されて隠蔽されて終わりだろうな。何せ、ロビンの替え玉まで既に用意してるんだから。うーん……これだけのリスクと状況、当てたら全てをひっくり返せそうな気もするけど……もう少し準備を重ねないとな……」

「まさか、君ともあろうギャンブラーがこんなところで行き詰まるのか?」

「チップはある程度集めたけど、それでも賭けるのは慎重に選ばないとだからね。「星核ハンター」や「仮面の愚者」なんてのは状況をひっくり返しうるけど……この状況で切るには些かリスクが大きすぎる。そうなると、やっぱり「ロビン」が一番わかり易いね。僕が仮面の愚者と別れた時、彼女は「口の利けない人を仲間にしろ」って言ったんだ。これは大ヒントだろう?何せ、彼女は声を失っていた。普通の人なら間違えるかもだけど、僕にはあの音が「声」じゃなくて「調和」が起こしている「音色」に聞こえたんだ。彼女が温存のためにああしてるって言うならお手上げだけど……そうじゃないなら、理由はすぐに突き詰められる。ロビンに問題が起きたか、この夢そのものが問題を抱えているか、だ。だから、それを確かめたくて彼女に会いに行ったんだけど……残念ながら、彼女は僕の目の前で死んでしまった」

「全負けした挙げ句、自分が容疑者か。幸いにも、目撃者のお陰で君のアリバイは保証されている。ファミリーも、それは間違いなく信じるだろう。だが……このピノコニーにいる間、君からハウンドの目が外れる瞬間は無くなるだろうな」

「まさかここまで追い詰められるとは思ってなかったよ、教授。冷や汗も出てきた。君なら、まだこの状況はひっくり返せるかい?」

「確率の話か?「ない」か「ある」なら間違いなく「ある」だろう。しかし、「ある」だけだ。この地になぞらえるなら……まさしく「夢を見る」ようなものだ。……だが、それでも君がギャンブルのテーブルに着くことを止められないというなら、僕が良い相手を用意してやろう」

「良い相手……一体誰だい?」

 

 首を傾げたアベンチュリンに、レイシオは僅かな溜息を吐いた後に答えた。

 

「……オーク家現当主であり、この夢境の代表者……サンデーだ。彼は、再び君に会いたがっている」




高評価とか感想よろしくお願いします
実はマシュマロとかツイッターもやってるので作者のとこからぜひぜひ
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