「……着いたぞ、ギャンブラー。ここがピノコニーの全ての決定権が集う、オーク家の誇る要塞……「朝露の館」だ」
「要塞……ははっ、いい例えだね、教授。ついこの前、イーマニカ星系への出張があったんだけど、そこの軍閥もここまで酷い完全武装じゃなかった。もしかして、僕らはファミリーの牢獄にでもおびき寄せられたのかな?」
そう言って、アベンチュリンは辺りを見回す。そこは夢の支配者であるファミリーに全く以て相応しい豪勢な屋敷であったが、当然ながら歓迎ムードとは程遠く、その空気は張り詰めていた。レイシオは「僕を巻き込むな。今から処刑台に登らされようとしているのは君だけだ」とつれなく切り返し、話を続ける。
「だが、そう思えるのも仕方のないことか。この屋敷は名目上はサンデーが所有者ということになっている。彼の招待がなければ、一般人は足を踏み入れることさえ叶わない。貴重な機会だ、再びその手足に枷を嵌められる前に見て回るのも悪い選択肢じゃないだろう」
「レイシオ、君の言う事はもっともだけど……その言い方じゃあ、一体どちらの味方か分からないな。そこのところどうなんだい?」
「それは無意味な問答だろう。ここで僕が何らかの答えを示したとして、その答えが正しいことを誰が証明できると言うんだ?」
「はっ、いいさ。どっちにしても、ちゃんと見といてくれよ?あの趣味の悪い男の口から、答えを利子付きで引き出してやる瞬間をさ」
「……分かった。ついてこい、彼の応接室まで案内する。言っておくが、君は余計なことをするべきではない。ファミリーの相手は僕に任せておけ」
そう言って歩いていくレイシオとその後をついて行くアベンチュリン。そして部屋の奥の扉に辿り着くと、門番役のピピシ人が彼等を呼び止めた。
「おい、そこの二人!ここから先は一般人は立入禁止だぞ!会議室だからな!」
「サンデーさんに頼まれて、例の事件の容疑者を連れてきた。聞いていないようなら「レイシオ」と伝えてくれ」
「おお、そうか!だったら早く通れ!決して待たせたり遅れるんじゃないぞ!」
そんなことを言いながら開かれた扉の先にはやたらめったらに長く複雑な廊下が伸びていた。「こんなに大仰な夢境を作っている割に、ファミリーにはおもてなしの心ってのが足りてないね」なんてアベンチュリンが笑うと、レイシオは「全く、軽口で失うには惜しい男だな」とため息を吐いた。
そして辿り着いた廊下の端。三方に壁の広がる光景を目にしたアベンチュリンは「おいおい!」と少し大袈裟に反応した。
「見てくれよ教授、こんなに苦労した散歩道の終点は見るも無惨な行き止まりだ!サンデーの奴はよっぽど僕に会いたくないらしいね?」
「冷静になれ。扉が閉まっているだけだ、そこまで大袈裟に騒ぐことでもない。おそらく、君の力を試しているんだろう」
「へえ、僕には壁にしか見えないな。無い扉を開けろだなんて、ファミリーは哲学にも手を出しているのかい?」
「違う。これはファミリーが用意した、れっきとした防犯システムだ。セキュリティ上の理由から、ファミリーの行政施設に足を踏み入れるには幾つかのギミックを越えなければいけない。今回で言えば……」
「……この、鳥の彫像ってわけだ」
そう頷いて、アベンチュリンは部屋を見渡す。そこには、足元に回転用の操作ボタンが備え付けられた、見上げるほどに大きなツグミの彫像が6つ置かれていた。
「五大クラン、カタルス家の象徴の鳥だ。僕が以前訪れた際は、使用人が隣の部屋で何かを確認した後に、この彫像の向きを変えていたが……」
「教授、今はどれくらい時間があるんだい?」
「……彼の性格を考えれば、少なくとも、急ぐべきではあるだろうな」
「分かった、なら最速で決めよう」
アベンチュリンは彫像の方へ振り向くと、不敵な笑みを浮かべて言う。そしてレイシオが「才能も使い方次第、か」と呟く中、彼は初見のそれを慣れた手付きで、流れるように操作していく。そして6羽目のツグミが軋むように動くと、今まで壁だったはずの正面に、一つの道が開いた。
「ほら、これが正解だ」
「全く……奇抜な発想だな。君にヌースからの招待状を譲ってやろう」
「ははっ、悪くないね。君はそんなのとっくに諦めたのかと思っていたよ」
「冗談だ。伝わらなかったなら僕の落ち度だな」
「いやあ、残念だ」とアベンチュリンはわざとらしく肩を竦めると、その先へ向けて彼等は進んでいった。
◇◇◇
「……ここが、本当の「ピノコニー」……」
目を覚ましたホタルは、その暗い街を見渡した。そこは彼女が思い描いていたような「
彼女は、少し肩の力を抜いた。ここからは「サム」ではなく「ホタル」として、再び舞台に上がることになる。そう考えると、少し肩の荷が降りたような気もするし、また気が引き締まるような気もした。ただ、一つ言えるのは、これは最低限の「脚本」も、それに従って、彼女の友人が描いた「手順」も、順調に進み続けているということだった。
そして、彼女が自らを包んでいた溶火とは程遠い、僅かに冷たい風を浴びていると、綺麗な少女が、彼女に声を掛けた。
「……あなたも、この「ドリームリーフ」に迷い込んだの?」
「あなたは……もしかして、あのロビンさん?「傷つく誰かの心を守ることができたなら」……あたし、あの曲大好きなんだ」
「ふふっ、ありがとう。今は少し事情があって、ここに身を寄せてるの」
「あたしは……友達との、約束があって」
「約束?」
「そう。「やるべきことを全て果たしたら、もう一度会おう」って……そのために、あたしはここへ来たの」
「それは……とても、素晴らしいことだと思うわ。約束の為に進み続けるのは、とても尊いことだから」
「そう……なのかな」
ホタルは、ぎゅっと手を、強く握った。果たすべき約束も、もう一度再会すべき彼女も、まだ残したままなのだから。
「ありがとう、ロビンさん。……あたし、もう少し頑張らないと」
「ええ、頑張って。歌声があなたと共にあることを祈っているわ」
そして、ホタルは彼女と別れ、「もう一度会うまでに、あたしにやれることはまだ残ってる」と再びドリームリーフの街中に消えていった。
それと入れ替わるように、一つの人影が、ロビンの傍らに姿を現した。
「……行っちゃいましたね。ホタルちゃん」
「……桜花さん。あの子は……あなたの知り合いなんでしょう?」
「知り合い……いえ、それでは言葉が足りません。ホタルちゃんは……私の、生まれて初めての、全てを共有できるお友達なんです」
そう言って柔らかく笑う桜花、あるいはインシァンに、ロビンは「とても、素敵なことね」と静かに微笑んだ。
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インシァンとホタルは一緒になって星核ハンター時代の星を可愛がってたらしいです