星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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朝露の館

「奥に行けば行くほど豪華になっていくね。どうやらファミリーの辞書には清廉やら謙虚、遠慮なんて言葉は乗ってないらしい」

「何度目か分からないが、何度でも忠告してやろう。ここはピノコニーの夢境、つまり彼等の領域だ。屋敷の内装をどれだけ豪華にしようと現実には微塵たりとも影響を与えることはない。こんなつまらないことで脱落するのは君のようなギャンブラーでも避けたいだろう?」

「ああ、そうだね。よく分かってるじゃないか、レイシオ」

 

 「君の言う通り、ファミリーを破綻させられるのは「死」だけだ」とアベンチュリンは頷く。屋内なのに並ぶバルコニー、その一つから、彼等は広大な大広間を見下ろした。ソファ、テーブル、カーペット、床材に至るまで、その全てが現実世界における最上級。豪華絢爛、それでいて病的なまでに、その空間は整然と秩序を保っている。そしてアベンチュリンはその縁から階下を見下ろすと、「どうせ、ここにも何か隠しているんだろう?」とレイシオに問いかけるが、彼は「さあな」と返し、階段を降りていく。アベンチュリンも、その後を追いかけた。

 

「……待て、ギャンブラー」

 

 そして大広間の奥、扉の前。足を止めたレイシオに「おや、君ともあろう人間が迷子かい?」と尋ねるアベンチュリン。レイシオはその首を横に振った。

 

「いや、そうじゃない。僕が前回訪ねた時はこの扉に鍵は掛かっていなかったはずだ」

「おいおい……サンデーが僕らを呼んでるんだろう?どうして君まで締め出されてるんだい?」

「僕の認識が間違っていなければ、これはサンデーが意図的に仕掛けたものだろうな」

「……つまりは抜き打ちテストってことかい?」

「ああ。脱出の手段はこの広間にあると考えて間違いないだろう。脱出できなければ、君の処刑場がここになるだけだ」

「へえ、こんな豪華な監獄なんて、サンデーも中々気が利くじゃないか」

「真面目にやれ、ギャンブラー。ここが命の瀬戸際だぞ。ヒントは……まあ、大方あの箱庭だろうな」

 

 そう振り返って、レイシオは大広間の中心のオブジェクトを指差した。威風堂々とその大広間に君臨する、「黄金の刻」を模した箱庭に、アベンチュリンはそれを眺めながら「いいねえ、これ。ちょうど空き部屋があるんだ、僕も一つ欲しいなぁ」なんて笑いながら言い、そしてその周囲を調べ始めた。

 

「……どうだ?何か見つかったか?」

「ああ、一つね」

 

 そう言って、アベンチュリンは黄金の刻の、ちょうどホテル・レバリー前にあたるメインストリート前を指差した。

 

「見てくれよ、ここに分かりやすい亀裂が入ってる。どうやら、本当に君の言う通りみたいだけど……もしかして、その「天才」的な頭脳だったら、ここに何があったのかも覚えていたりするのかい?教授」

「当然、と答えておく。それと、君のその減らず口に免じてアドバイスをやろう。この部屋の周りを調べると良い。僕が見れば、すぐに分かるだろう」

「はいはい、その言葉はありがたく受け止めるよ。まさか、僕があの第一真理大学名誉教授から初めて貰える単位が侵入窃盗学とは思いもしなかったけど」

 

 そう言って、アベンチュリンはもう一度ぐるっと見渡し、大広間に何もないことを確認すると、大広間の隣の階段を上がっていった。

 

◇◇◇

 

「……おや、もしかしてこれかな?」

「おそらくそうだろうな」

 

 階段を上がった先の小部屋、その中心には門のようなオブジェクトが置かれていた。アベンチュリンはそれに手を伸ばし、ぐるりと360°観察する。

 

「これは……「ガリバーアーチ」って言うらしい。すごいな、博識学会ともなるとこんな小物のことまで記憶してるんだな。しかし、名前と言い見た目と言い……あの通り抜けるだけで人を小さくしたりするトンネルのことを思い出すよ。もしかしたら、制作者は便利なポケットから取り出したのかな?」

「僕が君なら今すぐにその台詞を取り消すだろうな。あまり余計なことを言うものじゃない」

「おや、君は世代じゃないのかい?あんなこといいな、できたら」

「著作権の話だ」

 

 そう言われてアベンチュリンは仕方なく、その手持ちホワイトボードくらいの大きさのアーチを抱えて階段を降りていく。そして再び箱庭に戻ってきた彼は、先程の割れ目に合うように、アーチを動かし始める。

 

「それにしても、壊れそうで心配だよ。僕は遊んだことがないから分からないけど、完成済みのプラモデルの扱いもこんな感じなのかな?この崩れないように慎重に動かす感覚はオール・インのチップを動かす時みたいだ」

 

 そして数十秒後、カチッと音がして彼は顔を上げた。

 

「……よし、出来たよ教授。ピッタリ合って完璧だ。……で、次は?」

「さあな。ここから先は試行錯誤だ。僕にとっても、未知の領域だからな」

「おや、そうなのかい?それは残念だ……」

 

 そうして、アベンチュリンが箱庭の縁に寄りかかり、そのアーチに手が触れた瞬間だった。

 

「ね……?」

 

 彼は辺りを見回す。広がるビル街、巨大なスラーダ、そして巨大なレイシオ。数秒ほどの沈黙を挟んだ後、彼は納得したようにポンと手を叩いた。

 

「……どうして僕は箱庭に入ってるんだ?!」




高評価とか感想よろしくお願いします
アベンチュリンはピノコニー終わっても出番あると思います
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