彼は、勝負のテーブルに着いていた。朝露の館の最奥、オーク家当主の書斎。傍らでレイシオが静観する中、アベンチュリンはサンデーと対面した。
「ワタシの誂えた謎解きは、楽しんでもらえたようですね。生き馬の目を抜くようなカンパニーの方には、少し物足りなかったかもしれませんが」
「ファミリーの盛大なもてなしに感謝するよ、サンデーさん。僕個人としては、あれが誠意ある招待には思えなかったけどね」
「こちらの意図が正しく伝わっていることを、嬉しく思います。アナタの言う通り、これは招待ではなく「呼び出し」ですから。話し合う前に、アナタの誠意や品性といったものを調べる必要がありましたから。恐らく、傍らの博学なご友人の手を借りて、ここまで来たのでしょう?」
「ああ、全く以てその通りだとも。彼は、君が望んだような役割を忠実に果たしただろう?僕の案内役という役割をね」
「ええ。先日、レイシオ教授は「アベンチュリンさんはファミリーが手を組むに値する誠実で優秀な人間である」と保証してくれました。そして今、その答えは明確にワタシの前に示されています。アベンチュリンさん、アナタは確かに彼の言う通り、勤勉で、寛大で、それでいて協力的で、そして数々の困難と試練を乗り越えてワタシの前に姿を現してくれました。これだけでも、アナタの知恵と力、そして勇気を信じるには充分です」
「……そうか。それは何よりだよ」
「ですが、そのような賢明なアナタに聞かせてほしいことがあります。アナタの才覚が用いるべきではないものに用いられ、出会うべきではない人に出会い、現れるべきでない場所に現れ……そして、起こるべきでない
「大丈夫かい、サンデーさん?あまり顔色が良くないように見える。もしその理由が僕だって言うのなら謝罪するけど、もしそうじゃないなら……僕は、君の力になれる。君の取り巻きとは違ってね」
「その言葉……額面通りに受け取るのであれば、「ファミリー」に対する侮辱に聞こえますが?」
「ああ、良かった。ちゃんとこっちの意図も伝わってるみたいだね。ちなみに、取り消すつもりは全くないよ。だって、君の傍では確かに悪が増長し続けてるんだから」
そう切り出したアベンチュリンに、レイシオは「ようやく始まったか」と呟いた。
◇◇◇
「ギャンブラーの居場所は、常にテーブルだからね」
自信あり気に言ったアベンチュリンに、レイシオは「君の計画を話してみろ」と言うが、彼は「そんなものは無いよ」とその首を横に振った。
「交渉の場に計画なんてものを持ち込んで役に立つと思うかい?そこで役に立つものなんて「利益」「恐怖」の二つだけなんだ。あとはそのカードをどのタイミングで切るかっていう臨機応変さだね」
「君は本当に「誠意」というものを理解するつもりがないようだな」
「誠意?ビジネスにおいてメリットを示す以上の誠意なんてものがあるのかい?もちろん、妹さんの死くらいは利用させてもらうけどね。これも立派な交渉材料だ。もちろん、「恐怖」の方だけれど」
「なら、君が言う「利益」とは何なんだ?」
「それはもっと簡単だよ。僕が彼の代わりに殺人犯を捕まえれば良い。彼は地位やら立場やら体裁やらを保たないと行けないんだ、そう考えると彼が自分で捕まえることはとても出来ないからね。だから、僕がそれを請け負ってあげるってわけだ」
「ふむ、何故彼には出来ないと言い切れる?ましてや君はファミリーと対立するカンパニーの人間だぞ」
「だからこそ、だよ。結論から言えば、僕は犯人がファミリー内部の「裏切り者」だと考えてる。そうなれば、オーク家御当主様が直々に、とはいかないだろう?」
「……僕の記憶が正しければ、君はあの巡海レンジャーに矛先を向けていたはずだが」
レイシオの言葉に「あれは口実に過ぎないんだ」とアベンチュリンはその首を横に振った。
「分かるだろ、教授?犯人じゃないとしても、彼女は明らかに怪しかった。僕の見立てが正しければ、まだ手の内の殆どを自分からは明かしてないはずだ。そうなると、流石に野放しにしておくのも怖いからね。誰かを使って牽制しておく必要があったから、あの星核ハンターにも誘導を手伝ってもらったってわけなんだけど……彼女の言葉を借りるなら「正しい方法が正しい答えを導くのでなく、正しい答えを導くのが正しい方法である」ってところだね。それに、僕達が突き止めた彼女の正体が事実なら、彼女はこのピノコニーでもかなり重要な駒になるはずだ。いずれにせよ、言及して損する話じゃなかったんだよ」
「……つまり、君は彼女のことを犯人だとは思っていないんだな?」
「ああ、そうだね。この件に関しては彼女も不幸な目撃者に過ぎないんじゃないかな。そう考えても、やっぱり今回はファミリーの内部に問題があると思う。サンデーもそれを分かってるから大っぴらにはやらず、こうして密かに面会しようとしてるんじゃないかな。だから、見ていてくれよ、レイシオ?僕はロビンの死をチップにして、自由を取り戻す。そして最後にはこの美しい夢を根っこからひっくり返して、このピノコニーで最も盛大に「死」んでみせるさ。たとえ、どれだけその確率が低くてもね」
「このギャンブラーめ、何を根拠に勝ちを信じられると言うんだ?」
「もちろん、今まで勝ち続けてきた僕自身さ。僕がピノコニーに持ち込んだチップは3枚だけだけど、それだけで充分。全ては「オール・オア・ナッシング」だ」
◇◇◇
沈黙をもって答えるサンデーに、アベンチュリンは話を続けた。
「少し話題を変えよう。そうだな……妹さんの話なんてどうだい?」
「……」
「今でも鮮明に思い出せるよ。彼女の歌声は宇宙広しといえども右に出るものはいないほどの素晴らしいものだった。でも、君なら分かっていると思うけど、ピノコニーに戻ってきてからの彼女の声は何故か「不調」に陥っていた。そして、今この瞬間。もう、この宇宙に彼女の歌声が響くことはないんだ。全く、恐ろしい話だね。これが誰の仕業なのか、皆は外部の人間の犯行だと思っているけど……君は違う答えを持っているんだろう?」
「……」
「今、君の高貴な立場は君の足枷そのものに成り果てている。このままじゃ、犯人を捕らえて可愛い妹の仇さえ討てなくなってしまう。君としてもそれは避けたいだろうけど、残念ながら孤立無援。だから、君は今酷く焦ってる。でも、そこはもう心配しなくて良い。だって、僕は君の味方なんだから」
アベンチュリンがそう言うと、サンデーはしばらく保っていた沈黙を解いた。
「アベンチュリンさんにそこまで言っていただけるとは、とても光栄なことです。ですが……1つだけ、確認させてください。アナタほど寛大で賢明、そして無欲な方であれば、見返りを求めることなどはありませんよね?」
「ああ、それで良い。今回の件で君が何かを失うことはないと約束しよう。僕も、ただ自分の所有物を取り戻したいだけだからね。この身の自由と、ファミリーが僕に代わって保管している携行品、謝礼金、そして……」
「存護の「基石」、でしょう?」
サンデーの言葉に、彼は「その通り」と頷いた。
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アベンチュリンっていつも可愛くてすごいと思います