その名を口にした瞬間、空間に緊張が迸った。アベンチュリンは頷くも、その一瞬の表情の動揺を見逃さず、サンデーは「ようやくアナタの人間らしい反応が見れましたね」と笑う。
「「基石」……「存護」の使令、戦略投資部のダイヤモンドに仕える「十の石心」達が持つ、彼の権能を宿した聖なる石。アナタも、それを1つ所持していると聞いています。もし、それを取り戻せるとしたら……それは、アナタにとって最上の報酬となるのではありませんか?」
「……でも、君も理解しているはずだろう?「真実」という高い買い物には、それ相応のコストが付き物だってね」
「アベンチュリンさん、アナタは外にいる時、常にその身嗜みに最大限の注意を払っていますか?ネクタイは1°も左右にズレることなく、シャツはベストからはみ出さずに平行に、スラックスのラインは直線を保ち、靴の先までその一直線を描くように保つ……といった、些細なことを徹底的に」
「もちろん」
「そうですか。ですが、それではまだ不十分です。何故なら、それでは「外に出る瞬間」が不完全ですから。本来であれば、それらは全て……外に出る前に、誰の目にも入らぬ内から完全にされ、そして決して崩れぬように保たれなければならないのです。それと同じこと、ワタシは、あらゆるリスクを排除し、いかなるリスクも冒しません。故に、アナタの「基石」はファミリーが責任を持って保管します」
「どうやら、相談というものが一切無いみたいだけど?」
「ワタシに、二度も断らせるつもりですか?」
僅かに語気を強めて言うサンデーに、彼が相当な頑固者であること、もう交渉の余地が無いことを悟ったアベンチュリンは「分かった」と頷く。
「なら、「基石」はそのままでも良いから、謝礼金だけでも返してくれないか?カンパニーがどうこうとかそれ以前に、流石に商人として交渉の手札が無いというのはどうしようもないからね」
「おや、思ったよりも早い妥協ですね。ですが……それを必要としているのは、アナタが「商人」ではなく「ギャンブラー」だからでしょう?ですから、謝礼金をお返しするのは構いませんが、その前に、1つ聞かせてください」
そう言って、サンデーは重厚に包まれたトランクケースに手を伸ばした。本来、それには十の石心やその関係者にしか開けることの出来ないロックが掛かっている。そしてサンデーはそれをアベンチュリンの前までスライドし、彼に尋ねた。
「アナタがこれほどまでに簡単に諦めたこの器には、本当は何が入っているのですか?」
「……」
「……「3つの顔を持つ魂よ。その熱き鉄を彼の舌と手のひらに押し当て、嘘偽りの誓いを口にできないようにしたまえ」」
「……君は、今何をした?」
沈黙を選んだアベンチュリンに、サンデーは「調和」の洗礼を以て答えた。
「「調和」の光の下においては、あらゆる欺瞞は白日の下に晒され、隠すことは出来ません。ワタシは其の権能を借り受け、其に代わってアナタに真実を尋ねます。そして、アナタには……ワタシの信頼と、その真実を証明する時間が、113秒与えられる。決して、無駄にしないでください」
「もし、僕が答えることを断ったら?」
「その結末を決めるのは「調和」の意思のみです」
「……」
「「質問:アナタは「基石」を持っていますか?」」
「ああ」
「アナタは正しい判断を下しています。あまり、多くを語る必要はありません。……「アナタは、ピノコニーに来た時、「基石」をファミリーに渡しましたか?」」
「ああ」
「「アナタがファミリーに渡した「基石」は、アナタのものですか?」」
「ああ」
「「今、アナタの「基石」は、この部屋の中にありますか?」」
「ああ」
「「アナタの記憶は、如何なる形、方法においても改編、削除されていないことを誓いますか?これには、ガーデン・オブ・リコレクション及び「記憶」の派閥の力を含むものとします」」
「ああ」
「「アナタは、今複数の異なる勢力との協力関係にありますか?」」
「ああ」
「「アナタは「仮面の愚者」「星核ハンター」と手を組んでいますか?」」
「ああ」
「「その中には、このピノコニーを訪れる前からの協力関係は存在していますか?」」
「……ああ」
「……「アナタは、ツガンニヤ-Ⅳのエヴィキン人ですか?」」
「ああ。その質問に意味があるかは分からないが」
「「エヴィキン人は自分や他人の思考を読み取ったり、改編、削除、操作する能力を持っていますか?」」
「ない。これには全く関係のない話だ」
「「アナタは、自分自身よりも、家族を愛していますか?」」
「ああ」
「「エヴィキン人は、或る虐殺によって全員がこの世を去りましたか?」」
「いいや」
「「アナタは、その唯一の生き残りですか?」」
「……多分ね」
「……「アナタはこの世界を憎み、自らの手で滅ぼしたいと思っていますか?」」
「…………分からない」
「そうですか。……では、最後の質問です。……「アナタは今、この器に仕舞われているのが「
「……」
「……ああ、もちろん」
「……全ての答えは、揃いました。アベンチュリンさん。これが、アナタがその正しさを証明するラストチャンスです」
「その手で、器を開いてください」とサンデーはアベンチュリンに促す。彼は頷き、テーブルの上に置かれたケースに手を掛けた。ちらりとレイシオの方を見ると「好きにしろ、ギャンブラー」と言わんばかりの表情を見せ、彼はそっぽを向いた。サンデーは椅子に座り、まるでピアノでも引くかのようにその指を動かして、その瞬間を待っている。そして、アベンチュリンはそのロックを解除し、蓋を開けた。
「っ……」
「……探していたものは、これですか?」
アベンチュリンの目の前の空のケース。その中身は今、サンデーの手元の箱に鎮座していた。
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インシァンとかいうやつは今頃多分なんか変なことしてます