話は、数システム時間ほど前に遡る。朝露の館の書斎で、サンデーはある男を待っていた。
「……1分、1秒のズレもなく、丁度10分前。流石ですね、ベリタス・レイシオ教授。約束通りに来てくれたということは……アナタはファミリーに与する、と解釈しても?」
「何故、君は僕を仲間に出来ると思ったんだ?」
質問を質問で返したレイシオに対し、サンデーは答える。
「耳に挟んだのですが、レイシオ教授とアベンチュリンさんの仲は決して良好なものではないそうですね。何よりも知識の追求と普及を望む、アナタのような真の学者がそのような柵に囚われているとは、とても残念でなりません」
「それを知っているなら、一人前の学者は自らを知り、その立場を弁えるものであるとも分かっているはずだが」
「……1つ、アナタに提案があります。もし、アナタがファミリーに協力してくれるなら、このピノコニーの「星核」についての情報と、その研究成果を見返りとして差し上げます。賢明なアナタなら、この情報がどれだけ貴重か、そしてその情報の共有を許す派閥が、これまたどれだけ貴重か、理解できるのではありませんか?」
そして暫くの空隙の後、レイシオは「分かった」と口を開いた。
「……言ってみろ、何が必要なんだ?」
「アベンチュリンさんの計画、その全貌です」
「……君達は、既に彼の「基石」を回収しているんだろう?羽をもいだ孔雀を捕らえるのがそれほどまでに難しいことか?」
「しかし、彼の仲間、スターピースカンパニー戦略投資部「十の石心」には非常に強い団結力があり、カンパニーの利益の為なら互いに協力を惜しまないと聞いています」
「回りくどい言い方はあまり他人に良い印象を与えないぞ」
「では、簡潔に。……アベンチュリンさんが差し出した「基石」は……本当に、彼のものなのでしょうか?」
サンデーが尋ねると、レイシオは小さなため息とともに答える。
「君は「十の石心」というものを買い被り過ぎだ。彼等にとってあれは命と同等、あるいはそれ以上に重く扱われるものだぞ」
「ええ。ですが、彼が狂ったギャンブラーであることは、アナタも充分に理解しているでしょう?彼のような人種にとって、賭けのチップは重ければ重いほどに意味を持つのです」
「……全く、君も奴と同類か?君は今すぐギャンブラーに転向するか、あるいは精神科医に見てもらうべきだろうな」
そしてレイシオは「あの器を持ってきてくれ」とサンデーに伝える。それはカンパニーの幹部やその関係者にしか開けられないものだったが、レイシオにはその権限が与えられていた。
「……どうぞ、よろしくお願いします」
「…………残念ながら、君の推測が正しかったらしい」
開いた器の中には、金色に煌めく一つの宝石が鎮座していた。その輝きは、「存護」の星神、クリフォトの御体と同じ輝きを放っている。サンデーがそれに言及すると、レイシオはその首を横に振った。
「そう思ったなら、彼の思う壺だ。十の石心の持つ「基石」は、持ち主に相応しい輝きを放つ。この金色であれば「黄玉」……すなわち「トパーズ」のものだ。「砂金石」ではないが……彼に直接尋ねてみるか?」
「いえ、その必要はまだ。それよりも、ワタシは「砂金石」の在処を知りたいですね」
「そうか。なら、その答えは案外に簡単だ。何せ、彼はそれを隠そうともしていない。答えは、今まさに君の手の中にあるんだからな」
そう言って、レイシオは部屋の片隅に置かれた一つの鞄に目をやった。それは、彼が「謝礼金」と言って預けた、宝石の数々が詰まっている。それを見たサンデーは「なるほど、随分とギャンブラーらしい」と頷いた。そして、レイシオがそれを開けると、そこには一際大きな、緑水色の透き通った宝石が入っていた。
「おそらく、彼はこれに全てを賭けていたんだろうな。「基石」が返されるはずがないのなら、まだ返される可能性のある「謝礼金」に本命を混ぜておく……恐ろしいほどのギャンブラーだ」
「……ありがとうございました、博識学会のベリタス・レイシオ教授。ファミリーは、必ず受けた恩を返し、そして……受けた恥辱に報います」
◇◇◇
「……故に、アナタのご友人のお陰で、ワタシは負け知らずのアナタのキャリアに盛大な傷を入れることが出来たのです」
「レイシオ、この野郎……」
「……」
「本性を現しましたね。それと、一つ付け加えておきますが、今のところ、アナタのタイムリミットは「17システム時間」です。その傷の余韻をじっくりと味わってください。「調和」の洗礼は、神の御前で偽ったアナタに、必ずや捌きを下すでしょう」
「へえ……束縛と強制の上に「調和」があるなんて、随分ユニークだね。この傷をもっと盛大に上書きしてやりたくなったよ」
「それは誤解です。ワタシは、あなたの不屈の心に応え、一つの生の可能性を授けたのです。……この17システム時間、アナタは夢境から出られず、仲間とも連絡を取ることも出来ません。そしてその間に、ワタシの試練を乗り越えられたのなら、アナタはこの調和の旋律に名を連ねることが出来る。失敗すれば、「
「実質、選択肢はゼロか……」
「ワタシは、アナタに最大限の期待をしています。17システム時間以内にファミリーに潜む「悪」を暴き、必ずや目的を果たしてくれる、と」
「っ……全く、恥知らずな偽善者が……!僕から全てを奪った挙げ句、真実を差し出してみせろだって?いくら夢でも不可能はあるさ。君達の金と陰謀に満たされたこの愚かしい遊園地で、僕はどうやって手ぶらで戦えと言うんだ……?」
「それが、アナタの役目です。アナタの目の前には試練があり、その先には祝福が待っています。ああ、そうだ。「謝礼金」はお返ししましょう。ギャンブラーともなれば、あの安っぽい宝石で全てを手に入れることも難しくないのでは?」
そして、サンデーは「さあ、念願の自由です」と彼を送り出す。アベンチュリンは謝礼金の詰まったカバンを持って、部屋を出ようとした。
「……つまりは、この場は話し合いでも、尋問なんかでもなく……君の「私刑」だったんだな」
「まさか。ワタシは本当に知りたいんです。誰が彼女を「殺した」のか……ああ、そうだ。最後にもう一度だけ」
「まだ何かあるのかい?」
「アナタは……本当に、この世界を、自らの手で滅ぼしたいのですか?」
その答えの代わりに沈黙を満たしながら、彼はそこを後にした。
もし需要があるならいつか現パロとかも手出したいです