星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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接触と再会

「……っ!カカワーシャ……!」

 

 少女は視界の端に自らの弟の姿を見つけると、急いで駆け寄る。その顔や腕には、彼はまた新たに幾つかの傷を作っていた。

 

「今度はどこに行ってたの?しかもこんなに怪我して……!」

「……これを取り返しに行ってたんだ、お姉ちゃん」

 

 そう言って、彼女の弟、カカワーシャは一つのネックレスを取り出した。

 

「まさか……あなた、あの人達のところに行ったの……?!危ないじゃない!こんなネックレス、食べられる訳でも飲めるわけでもない、これが無くたって、私達は生きていけるわ。でも、あなたがいなかったら、私は……もう二度と「ナイフ(カティカ)」には近づかないって、約束できる?」

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ、お姉ちゃん。あいつらは馬鹿なんだ。僕の方がずっと賢いから、あいつらと「ゲーム」をしたって絶対に負けっこないよ。絶対に僕が勝つんだ」

「「勝つ」……?一体、何があったの?私に詳しく教えて?」

「簡単だよ。僕はあいつらと「賭け」をしたんだ。「砂漠の2羽の鳥と僕、どっちが先に死ぬか」ってね。それで、僕が勝ったんだよ。あいつらは僕がイカサマしたって疑ってたけど……そんなことはしてないよ。ちゃんと、僕は正々堂々勝負して、正々堂々勝ったんだ」

「……そうね。あなたなら、きっと勝てる。あなたは昔から運が良いもの。良い?カカワーシャ、その幸運は、きっとフェンゴ・ビヨス(地母神)からの贈り物。紛れもないあなただけの力。でも……カティカ人と張り合って良い理由にはならないわ。彼等は血に飢えていて、残酷で、強欲なの……お父さんと、お母さんのことを忘れないで……」

「……そっか」

「これはただのネックレスだけど……あなたは、私の最後の家族なの……」

「……ごめんなさい、お姉ちゃん。僕、お姉ちゃんに喜んでほしくて……これはお母さんのたった一つの形見だから……もう、こんなことはしないよ」

「忘れないで、カカワーシャ。もちろん、そのネックレスは大切なものだし、取り返してくれたのは嬉しいわ。でも私にとっては、それよりもあなたの方がずっと、ずっと大切なの!だって、あなたは私の最愛の、たった一人の弟なんだから……あなたを責めるつもりはないけど、お母さんの言っていたことは、絶対に忘れないでね……」

「……うん」

「苦しみと貧困は、地母神が与えた試練。でも地母神は私達にチャンスも一緒に与えたの。それがあなたの幸運、あなた自身なんだよ、カカワーシャ。あなたは私の……ううん、全てのエヴィキン人にとって、一番大切な宝物なの。あなたは地母神の祝福を受けた子で、地母神の目に入った子。あなたなら、きっと一族を幸福へと導けるわ。だから、苦しみや貧困を憎まないで、ちゃんと自分のことも大切にして……分かった?」

「……」

「ちゃんと、言うことを聞いて。地母神に誓うの」

「……分かった。僕は地母神に誓って、この「財産」を守り続ける。……でもお姉ちゃん、もし本当に、3つの目を持つ地母神が僕達を見守ってくれてるなら……なんで、地母神へのお供え物を取りにカティカ人のところまで行ったお父さんは、流砂に呑み込まれたの……?最後まで祈り続けたお母さんは、どうして僕達の腕の中で冷たくなったの……?お姉ちゃん、みんな僕のことを賢い、頭が良いって言うけど、僕には分からないよ……全ての雨が、地母神の許しと恵みだって言うなら……」

 

 そして、彼は涙を精一杯に堪えながら言った。

 

「……人は、僕達は……どれだけの罪を背負って、死ぬために生まれてきたの……?」

 

◇◇◇

 

「……申し訳ありません。アイリス家の名簿には、そのような役者の情報はないようです。写真に一致する方もいないようで……」

 

 そう言って、現実のホテル・レバリーのコンシェルジュ、アレーは頭を下げる。「想定内ね」と姫子は呟いた。

 

「良かったらもう少し聞かせてほしいのだけれど、普通、人が夢境に入る時はどんな痕跡が残るものなの?」

「それは……ドリームプールの記録でしょうか?あの装置では、リアルタイムで心拍数、血中酸素濃度、発汗、体温などのバイタルサインを計測し、宿泊客のデータと照らし合わせて統計データとして収集しています。その中で異常データはファミリーによってフィルタリングされ、また不適切な行為などがあれば、直ちに対応措置が取られることになっています」

「不適切な行為……ねえ、あんたは大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。おしっことかもしてないしね」

 

 そうドヤ顔で語る星に、なのかは「それが真っ先に出てくるから怖いんだって……」と僅かに引いたような表情を見せる。そして姫子は少し考えた後、コンシェルジュに問いかけた。

 

「そう。なら、それを見せてもらうことは出来るかしら?」

「申し訳ありませんが、その情報はハウンド家が一括で管理していまして、具体的な問題が発生した場合のみ、ハウンド家から送られてきたデータをホテル側が参照できるようになるというシステムなんです」

「うーん、手がかりはなさそうだね……」

「やっぱりこの銀河打者がバットで解決してみせようか?」

「そう焦らないで、二人共。少なくとも、次どうするべきかは分かったわ。ハウンド家に話を聞くべきね。ありがとう、アレーさん。……そういえば、ロビンさんは大丈夫かしら?私達も、彼女の公演をとても楽しみにしているの」

「ええっと……「大丈夫」ですか?ロビンさんに何かあったという話は聞いていませんが……彼女なら、おそらく順調に「調和セレモニー」の準備に臨んでいると思います。きっと、素晴らしい公演になりますよ」

「ええ、きっとそうね」

 

 そう言って別れを告げると、コンシェルジュは再び業務へ戻っていく。姫子は周囲にファミリーやその関係者がいないのを確認すると、僅かにため息を吐いた。

 

「やっぱり、誰もロビンさんの件については知らないみたい。いえ、分かってはいたけれど……それに、ホタルっていう娘の謎も深まってきたわ。ホテルのシステムでも彼女の情報が見つからないなんて、本来ではあり得ないわ。だって、ピノコニーの夢境に入るには、必ずホテルのドリームプールを経由しないといけないはずでしょう?「記憶」の派閥という可能性もあるけれど……彼女は、一体どうやって誰にも気付かれること無く夢境まで辿り着いたのかしら?」

「……あ、銀狼のハッキングとか……?銀狼なら夢境ホテルにも簡単に侵入できるみたいだったし、ホタルが死んだのにも、何か関わってるみたいだったよ」

「だったらカンパニーは?ピノコニーの元の持ち主なら、何かしらの手段は持ってるんじゃない?」

「き、君達?!一体何者だ!」

 

 彼女達が作戦会議に励んでいると、その後ろで叫び声のような、一際大きな声が響く。星がバットと共に振り返ると、そこにはスターピースカンパニーの連中の姿があった。

 

「ブラボー作戦チーム準備よし!これより武力避難作戦を開始する!野郎共、やっちまえ!」

「ぶ、武力避難……?」

「リーダー、もう酔っ払ってるんですか……?」

「何言ってんだお前ら!総監にさえ見つからなきゃこっちのもんだ!報告なんて二の次なんだよ!」

「それは勘弁してくださいよ……ただでさえ僕の年末賞与はあのヤリーロで失ったってのに……これ以上は無理ですって!」

「うるさい!……えー、宿泊客の皆様、これよりスターピースカンパニーはホテル・レバリーで特別業務を行うことになりました。この行為は戦略投資部の……」

「誰の許可を得てる、って?」

 

 そう言って、ロビーに姿を現す、一人の星と同じくらいか、少し上程度の少女。彼女の登場に、連中は「げえっ?!」と大きく反応する。

 

「と、トパーズ総監?!」

「全く、仕事中に飲酒はご法度って何度言えば分かるかな?あとで会議を開くから、報告書をまとめておくように!」

「あ、トパーズ!来てたんだね!」

 

 そう言ってなのかが駆け寄ると、彼女も「うん。元気そうで何よりだね、星穹列車の皆!」と挨拶を返す。彼女こそが戦略投資部「十の石心」の内の一人、トパーズであり、星穹列車とはかつてヤリーロ-Ⅵの買収案件で関わった投資のエキスパートである。

 

「ピノコニーでの君達のことは、アベンチュリンから聞いてるよ。……あ、ちょっと待って。……うん、うん……大丈夫、彼等の言う通りにして良い。出来る限りファミリーとの衝突は避けてね。どんな行動を取るにしても、事前に私のところまで報告すること。いい?……はい、はい、うん。じゃあ頑張って」

「カンパニーも随分忙しそうだね」

「まあね。見ての通り、カンパニーはピノコニーでは歓迎されてないんだ。ファミリーの態度も、ものすごく表面的。かつてカンパニーが保有する監獄の一つに過ぎなかった星が、今はこうしてカンパニーの社員を縛り付けてるなんて皮肉なもんだよ。「招待状」の宛先、つまり、夢に入ることを認められたのはアベンチュリンだけだったから……私達はこうして現実のホテルに待機してるの」

「なるほど。だから彼にはできるだけ多くの協力者が必要だったのね。確かに、それじゃあ夢の中ではカンパニーの援助もなく孤立無援だもの」

「そういうことだと思うよ。彼の状況は、あんまり芳しくないって聞いてるから。そうそう、君達も彼のファミリーを追い込むための調査を手伝ってるんだよね?もし夢の外で出来ることがあったら、いつでも声を掛けて。カンパニーは星穹列車を重要な提携パートナーと見做してるから、助力は惜しまないよ」

「ありがと、トパーズ。実は、ちょうどハウンド家に話を聞きたくて、彼等を探しているところなんだ。何か伝手があったりしない?」

 

 星の言葉に、トパーズは「ならベストタイミングだよ」と笑って答えた。

 

「丁度、私を付け回してる人達がいるの。彼等に直接聞いてみるのがいいと思う。監視がキツくて窮屈だったんだ、君達の方に目を向けてもらえるなら越したことはない。……あ、そうだ。アベンチュリンと取引してみてどうだった?星」

「何ていうか……「ギャンブラー!」って感じ。仲良くなれそう」

「そっか、それはいいね!あの人はずっとああいうスタイルなんだ。「オール・オア・ナッシング」が彼の信条で、いっつも必要以上に親しげにしながら、取引先は危険な目にあってる……まあ、私がとやかく言うことでもないんだけど。でも、アベンチュリンは本当に運が良いんだ。手掛けた案件はほとんど失敗しないし、賭けだって負けなし。このピノコニーの案件も……彼なら、きっと成功するんじゃないかな」

「えっ、すごいね。スカウト受けとけば良かったかな……」

「スカウト待ちなの?だったら私の下とか……いや、この件は今度話そっか。とりあえず、私から言えるのは、着くテーブルを選ぶことが大事ってことかな。残念ながら、私は君が知りたそうな情報は持ってないんだ。夢の外しか、情報網がないからね。だから、詳しいことは君達やアベンチュリンに調査してもらうしかないの」

「そっか……」

 

 そして「ありがとね、トパーズ!」と彼女の下を去ろうとする星。しかし、彼女は「あ、待って!」と星のことを呼び止めた。

 

「最後に、君に聞いておきたいことがあったんだ」

「聞きたいこと?」

「うん。アベンチュリンの協力者の話なんだけど、少し気になってる名前があるの」

「どうだろ、この銀河打者といえど交友関係は自信ないけど……まあ聞くだけ聞くよ」

「うん。アベンチュリンは、ピノコニーに出発する前に、カンパニーの本社で彼女達と接触してたんだけど……実は、身分を偽装してた侵入犯だったんだ」

「……それって、ピノコニーの密航者みたいな?」

「どうだろ、少し似てるところはあるかもしれないけど。それで、もし名前に心当たりがあったら教えてほしいんだよね」

 

 そして、星が聞く準備万端と言わんばかりに「任せて」と頷くと、トパーズは口を開いた。

 

「……「ホタル」、そして「インシァン」。もし、アベンチュリンの言葉を信じるなら……彼女達は、彼のかなり重要な協力者かもしれない」




ちょっとずつ原作からズレてきたかもしれない
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