星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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アンダー・ドッグ・ラン(その2)

「くっそ、あの羽頭……人に無理矢理捜査させておいてヒントの一つもなしなんて……性根が腐ってるのか?」

 

 「調和」の洗礼によって徐々に酷くなっていく頭痛に、アベンチュリンは顔をしかめながら呟いた。視界の端は朧気に歪み、視覚的にも彼の精神をすり減らしていく。それでも、アベンチュリンはその場にはいない彼を嘲笑うためか、あるいは自らを鼓舞するためか、口を開いた。

 

「でも……たかが星核ハンターなんて一つの駒に揺さぶられてる君達の姿は、僕の推測の答え合わせになった。君達は外側の虫を振り払うことに必死になって、誰一人として自らを侵す病に対処することは出来なかったんだ。ならば僕は……このピノコニーで夢を見る全ての人に、カンパニーの富の雨を降らせよう……!」

 

 そう言って、アベンチュリンは謝礼金の宝石をありったけポケットに詰め込んで、そのカバンを傍らに置いて歩いていく。そして彼は、目についた全ての人々にその宝石を配り出した。

 

「……わあ!綺麗な宝石!でも、こんなに素敵なプレゼント、どうして初対面のあたしなんかに?」

「それは……この美しい夢の中で、誰かが貧しい思いをするなんて不公平だろう?だからさ」

「あなた……とっても優しいのね!そういうことなら、受け取っておくわ。ありがとう、大切にする。もし良かったら、今度あたしの歌を聞きに来てね!」

「ああ、喜んで。ところで、ついでに知りたいことがあるんだけど、君は「死」についての噂とか聞いたことないかな?」

「「死」……とっても怖い言葉ね。この夢には、とても似つかわしくないわ」

「そうか……実は、僕はとあるタブロイド紙の記者なんだ。今はこのピノコニーの怪談について特集を組もうとしてるんだけど……こういうのは怖ければ怖いほど注目されるだろ?だから、少しでも情報がほしいんだよね」

「そうだったの。もし、本当にただの噂で良ければ、一つ聞いたことがあるわ。現実のホテルでは、最近お客さんが眠ったまま起きなくなる事があったんですって。もちろん、意識は取り戻したらしいんだけど……って、当たり前よね。ファミリーがそう保証してるんだもん」

「なるほど……実に参考になったよ、ありがとう。どうか君にシペのご加護がありますように」

 

 時に「純美」を謳う、新進気鋭の歌手に。

 

「やれやれ……全く、お前さんはイタズラ番組でも撮影しているんだろう?どうせ、向こうの建物かなんかにカメラを仕掛けて、この光景を撮影しているというわけだ。お前さん達若者は……暇さえあれば奇をてらうことばかり考えている。それで面白いものが出来るなんて誰が本気で思うのだろうか」

「さあ?少なくとも、面白いシーンならもうすぐ始まるだろうね、おじいさん。でも、その前に聞きたいことがあるんだ。この夢では、どこで「死」を見つけられるか知っているかい?」

「これはこれは!近頃の若者の流行りは「死を恐れない」、か。忠告しておくが、自分の考えが進んでいるものとは思わないほうが良い。所詮、一人が思いつくことは百人が思いつくことなのだ。「死」なんて陳腐なものであればなおさらな。Dr.エドワードのところで買ったこともあるが……あれは酷い出来だった。一点物の超高級品を名乗ってはいたが、それだけだ。無数の目玉を纏った怪物に腹を貫かれ、その後はぐるぐると回る世界の中でビルやら街やらの灯りがぼんやり見えるだけ……思わず吐くかと思ったぞ」

「……それだけかい?」

「他に何があると言うんだ?ピノコニーの映画産業は今や斜陽だ。今日の彼等にとってそれは「前衛芸術」なんだぞ?これ以上の面白い話は奴らには作れん」

「そうだね、邪魔してごめん。おじいさんも、良い一日を過ごしてくれ」

 

 時にかつては一時代を築いた、頑固者の映画監督に。

 

「おっ?まさかお前……それをくれるのか?こんなところでこれほどのお人好しに会えるとは思わなかったな……いや、俺を憐れんでるのかもしれないが……どっちにしろ、俺はスラーダさえあれば十分さ。それこそがこの夢境の真理だからな……」

「スラーダはあまり飲み過ぎない方が良い。少なくとも、健康に良いものではないからね」

「おおっと!ははっ、それもまた真理だな!だが、その前に一度、スラーダの悪魔と会ってみたい気もするな……」

「「スラーダの悪魔」?少し気になるな、聞かせてもらえるかい?」

「ああ、これは面白いぞ!スラーダの悪魔はな……首の太いタツノオトシゴだ!噂では、そいつは道端で酔い潰れている大馬鹿極まりない奴らの前に現れるのが大好きらしい!」

「……確かに、それは面白いね」

 

 時に酷く酔っ払った、新人運営に。

 

「あなた……お身体は大丈夫ですか?どうやら気分が良くないように見えます。ホテルに連絡すれば、強制的に覚醒させることも可能ですよ」

「いや、まだ大丈夫だ。やるべきことを残してるからね。心遣い、感謝するよ」

「分かりました。ファミリーとして、お客様に無理をさせるわけにはいきません。何かありましたら、私達ハウンド家の方までお声がけください」

「ああ、丁度君達に聞きたいことがあるんだ。ピノコニーで一番優秀なハウンド家でも、力を入れないといけない招待客くらいいるだろう?「星穹列車」、「カンパニー」、「仮面の愚者」や「星核ハンター」なんかは特にね」

「はは、お客様は冗談がお上手ですね。「仮面の愚者」や「星核ハンター」がこのピノコニーに侵入できるはずないでしょう」

「……ああ、そうだね。その調子で引き続きお仕事頑張って」

 

 時にハウンド家の親衛隊を指揮する、屈強な警備員に。

 

「お金を持っているほど、夢の中では大騒ぎするものだとは思っていましたが……まさか、自分から人にお金をあげるなんて。こんな人は初めて見ました。あなたも、体を覆う金箔を人に捧げ、溶鉱炉で鉛の心臓を溶かしたいんですか?」

「はは。「幸福」なんて、今の僕には手に余るものだよ。僕はそんなに献身的な人間じゃなくて、ただ、この宝石と引き換えに君の情報を買いたいだけさ。君ほどのキャリアを持つ記者なら、「死」についても知ってるんじゃないかと思ってね」

「あら、あなたも私と同じ、好奇心に飢えている方なんですね。それは、私がこの業界に入ってもっとも取り上げたかったテーマなのですが……残念ながら、局長からお蔵入りにされてしまいまして」

「おや、その局長は何と言っていたんだい?」

「そんなに食いつくような理由じゃありませんよ。ただ、オカルトチック過ぎただけです。「過ぎた推測は、メディアの価値を損なう」と。それもまた納得できる原理でしたから、私はそれを受け止めました」

「それは……中々面白い話だ。話してくれてありがとう」

 

 時にキャリアを積み上げた、小さな報道記者に。

 

「これは……僕へのプレゼント?何かの間違いじゃなくて?」

「ああ。大した金額でもない、ささやかなものだけど……受け取ってくれたら嬉しいよ」

「本当に?まさか、僕が人からプレゼントを貰えるなんて……今日は最高の日だよ、ありがとう!」

「少し落ち着いてくれ。僕は、少しだけ君に聞きたいことがあるんだ」

「……分かった。良いよ、答えられることなら」

「ありがとう。実は夢境の「死」の噂なんだけど……」

「……昔、父さんも同じ話をしてたよ」

「そんな悲しい顔をしないでくれよ。僕はそんな顔の為にプレゼントを配ってるわけじゃないんだ」

 

 時に悲観的になった、骨董品の警備員に。

 そしてほとんどの宝石を配り終えた頃には、彼の視界にはゆらぎが駐屯するようになった。頭は酷く痛み、誰も見ていなければ自らに負けて崩れ落ちそうなほど。そして、彼はポケットに残った二つの宝石を手に握ると、近くのキッチンカーの前に佇む、二人のピピシ人に目をやった。

 

「……あ、金魚ちゃん。ようやく、再会の時間みたいです」

「ふふっ、そうだね〜!君も嬉しいでしょ?孔雀ちゃん!」

 

 そこで待っていたのは、彼には酷く見覚えのある二つの人影。かくして「星核ハンター」「仮面の愚者」「カンパニー」は、再会を果たした。




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