パンクロード・ガールズ(その1)
「インシァン、プログラムって触れる?」
突然研究室に押し掛けてくるなり、銀狼はインシァンに尋ねた。彼女は一段落したデータを纏めながら「プログラム、ですか?」とその首を傾げる。
「まあ、多少は。模擬宇宙の手伝いもしていましたから」
「好都合、ねえ、インシァン。私のこと手伝ってくれない?」
「手伝う?何をですか?」
「ハッキング。それも、模擬宇宙に」
それを聞いて、インシァンは少し驚いたように目を見開く。銀狼は「お、食いついた」とニヤリと笑った。
「お言葉ですが、銀狼ちゃん。模擬宇宙は「天才クラブ」の技術の粋。普段の相手とは訳が違いますよ」
「そんなのは分かってる。でも天下の「天才クラブ」が私に向けて挑戦状を叩きつけてきた。こんなに興奮する話、他にある?」
「確かに、一理あるかもしれません。もう少し、詳しく聞かせていただいても?」
インシァンの言葉に銀狼は「やっぱり。インシァンなら分かってくれると思ってた」と少し嬉しそうに言い、空中にホログラムを投影した。
「……これ、ゲームカセットですか?」
「そう。「パンクロード精神」なんて呼ばれてる、ある伝説のハッカーが残したエーテルカセット。エーテルカセットっていうのは……ハッカーにとっての命そのものみたいなものなの。今回のターゲットは、模擬宇宙に隠されたこれを「天才クラブ」から無事に奪うこと。これ以上は向こうで話そう」
そう言って銀狼はインシァンにメモリのようなものを差し出す。インシァンはそれを受け取ると「なんですか?これ」と彼女に尋ねた。
「エーテルチップ。エーテルカセットの体験版みたいなもの。それを使えば何回かはエーテル編集の真似事みたいなのが出来るの。今から「ヘルタ」の状況を確認するから、今のうちに準備して」
そして近くの空の水槽に座り、ホログラムのキーボードを叩き始める銀狼。
「そういえば、お相手はミス・ヘルタだけですか?」
「まさか。ヘルタだけならもっとすぐに終わらせてる。ハッキングの分野じゃヘルタは私に敵わない。インシァンは知ってるでしょ?スクリューガムのこと」
「……ああ、なるほど。そういえば、風の噂で伺いました。彼が、「ヘルタ」を訪れている、と」
天才クラブ#76、スクリューガム。威厳と風格に溢れ、そして人徳と紳士的な佇まいを併せ持つ機械生命体。事実オムニック星Ⅸ「スクリュー星」の王でもある彼はかつて同じ機械生命体である天才クラブ#23、ルパートが引き起こした、全ての有機生命体の排除を目指して銀河の半分を巻き込んだ大戦「第一次皇帝戦争」、そしてその思想を引き継いだ「第二次皇帝戦争」にて失墜した機械生命体の権威と尊厳を回復させることに成功した傑物である。それと同時に彼は天才的なハッカーでもあり、ただ一人、銀狼がデータ攻防戦で敗北した相手でもある。
「つまり、その「パンクロード精神」というのを彼らから奪うことで、スクリューガムさんにもリベンジを果たしたい、そういうことですか?」
「そういうこと。そろそろ「ヘルタ」に繋がるかな……」
そう呟きながらキーボードを叩いていた銀狼。そして宇宙ステーション「ヘルタ」に銀狼がこの前の侵入の際に仕込んでいたビーコンが起動した瞬間、銀狼は「本気?」と僅かに目を見開きながら声を漏らした。
「どうしたんですか?銀狼ちゃん」
「スクリューガムの奴、模擬宇宙を閉鎖するつもりらしい」
「……なのに、ずいぶん嬉しそうですね?」
「当たり前でしょ?「天才クラブ」が自分達の研究を投げ出してまで挑戦状をぶつけてきたの。こんなの普通じゃありえない。ようやく、スクリューガムの本気が見れる」
立ち上がった銀狼はインシァンにエーテルチップを起動するように促した。彼女がその言葉に従うと、眼の前に銀狼が使っているようなホログラムのキーボードが現れる。
「言語は模擬宇宙とおんなじ。転移プログラムくらい書けるでしょ?」
「それくらいなら」
「オッケー、これがヘルタのオフィスの座標。ここから……」
「大丈夫です。模擬宇宙の入り方は覚えてますから」
「ふっ、それでこそ」
そして、二人の身体はデータのように消え、彼女達は「ゲーム」を始めた。
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