「……」
「……戻ったか、35番。そのお守りは気に入ったか?」
その主人は冷たく、高圧的に問いかける。檻の中に戻った彼は「お前からすれば、「商品コード」もお守りになるのか?」と微動だにせず、反抗的に答えた。
「黙れ、ツガンニヤのハイエナが。お前に発言を許可した覚えはない」
「……」
「お前がどうしてあの「大虐殺」を生き残ったのか、あの黒スーツ共は多くを語らなかった。だが安心しろ、俺はそんなものに興味はない。俺が興味を持っているのは、お前の幸運だけだ。今後、お前とお前の幸運の一切は俺の財産だと、その頭に刻んでおけ。良いな?」
「……」
「安心しろ。最初の命令は至ってシンプルだ、簡単に理解できる。俺はお前の他にも30……34人の奴隷を買った。お前には、そいつらと「ゲーム」をしてもらう。そこで2日間生き残れ。それが、お前の価値の証明だ」
「……狂ってるな。それも重度だ」
「はっ、そう気を病むな。ただの検品だ」
「お前はそれで購入費用を無駄にするかもしれないんだぞ。……怖くないのか?」
「それで怖がる程度の小銭しかないならお前を買うはずがない。良いか、金髪小僧、汎星系奴隷市場にはお前のような分を弁えないクソガキが腐る程流れてる。だが、その中でもお前の見た目は中々悪くない。だから、大勢の客がガリガリに痩せこけたお前に金を賭けてるんだ。……俺を、失望させるなよ」
「……、……いくらだ?」
「あ?なんだ?」
「僕の値段だよ。お前は一体いくら、僕に値を付けた?」
「奴隷が自分の金額を知りたがるなんてな。良いだろう、教えてやる。俺はお前を60
「……分かった。なら、僕と賭けをしよう。60の半分……30でいい。僕が生きて戻ってきたなら、30僕にくれ。この話、乗るかい?」
「何を言うかと思えば……ハッハッハ!奴隷が俺と賭けをしたい?なるほど、中々お前は骨がある!……だが、それだけだ。奴隷がどうして主人と同じテーブルに着けると思った?お前はただのチップ。他人に握られ、賭けられるだけの命だ。チップの仕事は分かっているだろう?主人の為に、より多くのチップを持ち帰ること……それが出来ないなら、お前に価値はない。二度とその面を見せるな。「オール・オア・ナッシング」……俺の顔に泥を塗るなよ、ラッキーボーイ」
そして、檻の鍵が開いた。
◇◇◇
「よお!随分久々だな!ピノコニーでの最期の休暇は楽しめてるか?……「黄泉」?」
ブラックスワンが部屋の固定電話の受話器を取ると、随分と陽気な、カウボーイのような声が響いた。(コンスタンスじゃない。彼女の仲間か、それとも誰かに繋いだのか……)と彼女が考える中、電話の向こうの彼は話を続ける。
「アンタが何者だとか、何を企んでるかなんてことは知ったことじゃねえ。ただ一つ確実なのは、オレの弾丸は間違いなくアンタを見つけ出すってことだ。せっかくのピノコニー旅行だ、夢でしか手に入んないくらいのとびっきりの棺桶を用意しておいたほうがいいぜ、ニセモノ」
(「ニセモノ」……つまり、彼女は黄泉のことを追っている誰かにこの電話を繋いだのね)
そして一拍の休憩を挟んだ後に、ブラックスワンは口を開いた。
「あなたは、誰?」
「ホーリーベイビー、おいおい、相手でも間違えたか?逆に聞くが、アンタこそどこのどいつだ?」
「私は、ガーデン・オブ・リコレクションのメモキーパーよ」
「お、そいつはスゲェな!いいじゃん、オレそういう強いタイプは嫌いじゃないぜ。あのニセモノとはどういう関係かはどうでもいいが、アンタにも一発残しといてやるから、眉間は綺麗に洗っとけよ」
「あなたが何を言いたいのか、良く分かっていないのだけれど……あなたは、あの黄泉という人間を知っているのね?なら、少しあなたに聞きたいことがあるの」
「ははっ、いいぜ。遺言状のご相談だろ?特別に承ってやる」
「それを書くにはまだ少し早いかしら。そんなものより、もっと簡単なことよ。……彼女は何故、あなたのような人間に追われると知りながら「巡海レンジャー」を名乗ることにしたのかしら?」
「……」
「彼女は「巡狩」なんて歩んでいない。その歩みはとても深い「虚無」のものよ。だから、真の「巡狩」の行人たるあなたに聞きたいの。彼女は、一体何者なの?」
ブラックスワンが問いかけると、電話越しの彼は「ハハハ!」と再び陽気な笑い声を上げた。
「オーケー、理解した。どうやらアンタは味方みたいだ。しかも、既に話が通ってる。ホーリースウィート、今のオレはマジで最高にツイてるぜ。……そうだな、オレももうすぐピノコニーに着く。メモキーパー、「アスデナのホワイトオーク」を一本ホットで押さえといてくれ。話はそいつと一緒にしようじゃねえか。……それと、あの女の過去については誰も知りやしねえよ。逆に聞くが、どこのどいつがブラックホールの中身を外から覗けるっていうんだ?」
「じゃ、アンタの面を拝むのを楽しみにしてるぜ、ベイビー」、そう言い残して、その電話はプツンと切れた。
◇◇◇
「失礼します、カフカさん」
そう言って姿を現した彼女に、カフカは「あら、久しぶりね?ルアン・メェイ」と声を掛ける。
「でも残念。インシァンは今ピノコニーでお仕事中なの。帰って来るには暫く掛かりそうかしら」
「はい、本人から聞きました。お土産に、向こうのお菓子を買ってきてくれる、と」
「今日は、普段のあの子について聞きたくて」と笑うルアン。カフカは刃が淹れてくれたお茶を一口飲むと、「構わないわ」と笑い返す。
「ふふっ、彼の天才クラブでさえ、一人娘には子煩悩になるのね」
「……はい。あの子は、あらゆる点、あらゆる面において、私に数え切れないほどのものをもたらしてくれたんです」
「そうね。私もインシァンにはよく助けられてる。銃の扱い以外、あの子はなんだって出来るもの。それにしても……ルアン・メェイ、あなたはあれほどの生命を作るのにどれだけのリソースを費やしたのかしら?」
カフカからの質問に、ルアンは少し考えた後、「分かりません」とその首を横に振った。
「二柱の神の残滓、小国を買える程度の資金、私が両親から受け取ったのと同じだけの感情、長い時間……あの時、私が費やせるリソースの殆どは、あの子の為に使いました」
「でも、後悔なんてものは一切ない。そうでしょう?」
「……はい。何より、あの子は、私のことを「母親」にしてくれましたから」
そう言って微笑んだルアンに、カフカは「なら、この場はさながら保護者面談ね」と笑い、スマホの写真フォルダを開きながら話し始めた。
「見て、ルアン・メェイ。インシァンがあなたの為の化粧品を選んでるところよ」
「ああ、この前の。実は、開けるのが怖くて、まだ使えてなくて……」
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