「……ほら、ここだ」
そう言って、ギャラガーは豪勢で巨大な門を見上げる。そこにはブラザー・ハヌやハムスターボールの騎士などといったピノコニーの人気キャラクター達が彩られており、普段は幸せそうな家族連れで賑わっていることが想像に難くなかった。
「何ここ……もしかしてテーマパーク?」
「まあそんなところだ。ここは「クラークフィルムランド」。ピノコニーのファミリー層には一番人気のある映画エンタメセンターだ」
「あれ?「「時計屋」の話をする」ってウチらを連れてきたんだよね?てっきり資料室みたいなとこに連れてかれるって思ったよ」
「街の大衆が受け継いでる「文化」ってのは、確実じゃないにしろ最も信憑性の高い「注釈」みたいなもんだ。お前らから見ればここは遊び場に過ぎないかもしれないが……俺からすれば、ここはこの「ピノコニー」という星の過去を閉じ込めた監獄に思えて仕方がない。お前達も、ピノコニーが昔カンパニーの監獄として運用されていたのは聞いただろう?ここには絶えず囚人が送り込まれ、カンパニーと手を組んでいたガーデン・オブ・リコレクションのために、アスデナ星系上空の大ホールから溢れ出る憶質を日夜回収していた。……しかし、長い間ピノコニーの高濃度の憶質に晒されていた監獄には、次第に不思議な現象が起こるようになった。囚人達の夢に境界がなくなり、彼等は夢の中で現実世界と同じような生活を送るようになったんだ」
「……それが、今のピノコニーの「夢境」ということね」
「ああ。だが、あらゆる全てには大なり小なりの代償が付き物だ。それは美しい夢さえも例外じゃない。例え夢境がどれだけ美しく彩られていようと、人々の現実まで救うことは出来なかった。そして、一人の囚人による反発を機に、辺境の夢に囚われていた人々は自由を掴むために戦い始めた……それこそがハウンド家初代「ハヌヌ」。あの「ブラザー・ハヌ」の元ネタであり、夢境の街の皆の兄貴、平和の立役者にして、あらゆる弱者の永遠の味方であった男だ」
「「クロックボーイ」ってドキュメンタリーだったんだ……」
星がそう呟くと、ギャラガーは「それもあながち間違いじゃない」とその首を縦に振る。そして彼女やなのかの「マジ?」という顔を差し置いて彼は話を続けた。
「歴史を作るのは常に勝者だということを念頭に置いても、「クロックボーイ」はその内容の多くがピノコニーの歴史を背景として創作されたものだ。多少の芸術性やエンタメ性なんてものに目を瞑れば、「クロックボーイ」は遠いどこかの美しい夢の町の話じゃなく、遥か遠い過去、ピノコニーにあった実話とも言える。そう考えると……俺達がここを訪れるのも必然だろう」
そして、彼等はランド内部へ向けて出発する。辺りには誤魔化そうとしても雰囲気で分かるくらいにハウンド家が詰めていて、星が「あんまり観光ムードじゃないね?」とギャラガーに尋ねると、彼は「まあな」と彼女達に説明し始めた。
「ついさっき、このクラークフィルムランドに封鎖命令が出されたんだ。それもオーク家当主サンデー直々にな。一体何するつもりかは分からないが……どうせロクな事じゃないだろう」
「えー、今から帰っていい?」
「付いてくる方が身のためだ。……しかし、それにしても随分と大掛かりにやってるもんだな。凶悪犯を追う時だって、ここまで力を入れることはそうそうない」
「大丈夫?私通してもらえる?」
「少し厳しいな。それに、中となると人も増える。このまま外で話そう。静かな場所を探すぞ」
そう言って、ギャラガーは辺りを見回す。すると彼の目に入ったのは、広場の片隅の背の高い木。その下にはベンチが置かれていて、上手い具合にハウンド家も警備していない。「あそこにしよう」とギャラガー達は移動した。
「ここなら、彼等に話を聞かれることもなさそうね」
「ああ。それに……彼の姿も見える……「クロックボーイ」のな」
「ねえギャラガー、もしそのアニメキャラが現実にもいたって言うなら、やっぱりクロックボーイは「時計屋」なの?だとすると、「時計屋」もハヌヌと一緒にカンパニーと戦ってたってこと?」
なのかが尋ねると、ギャラガーは「そういうことだ」と頷いた。
「あの時ピノコニーで巻き起こったのは、壮大な「独立戦争」だ。ハヌヌが力を借りたのは「時計屋」を始めとするナナシビトだけじゃない。仮面の愚者、虚構歴史学者、弔伶人、厄災前衛……多くの陣営の力を借りて、彼はその戦乱を平定した」
「っていうことは「時計屋」って襲名制だったり?この銀河打者は一代限りだけど」
「さあな。俺がミハイルと知り合った時は、彼は既に「時計屋」だった。おそらく、お前の言う通りに名を継いだんだと思うが」
「待って、そもそもギャラガーって何歳なの?」
「……、……13だ。数え年でな」
「いや嘘でしょ?!」
「話を戻すが、彼はここを始めとするアスデナ星系の監獄の全てを解放したが、その争いの平定まではたどり着かずに亡くなった。資源はなく、敵は多く、味方は少なく……アスデナの未来は依然として危ういままだった。そして、それをまとめ上げたのが歴史上の「時計屋」だ。彼はファミリーに協力を求め、監獄を賑やかな宴の星に変えていった。そうしてピノコニーは「ピノコニー」となり、今こうして宇宙に名を響かせる「宴の星」になったんだ」
「だから、彼は「ピノコニーの父」なのね」
「……?あれ、でもおかしくない?」
なのかは呟き、もう一度情報を整理し直す。
「「時計屋」はファミリーの裏切り者なんでしょ?でもギャラガーは彼の仲間だって言ってて、それでギャラガーがファミリーの保安官をやってるってことは……」
「……一つ訂正しておくと、俺は彼の仲間じゃなくて数多くいる「子供」の一人に過ぎない。だが、裏切り者という表現も間違っていない。何故なら……俺はミハイルを裏切ったからな」
「裏切る……ギャラガー、あんたはいったい何をしたのかしら?
「いいや、何もしていない。だが、それこそが最高の裏切りなんだ。かつては、俺もお前達のように仲間と共に力を合わせてこのピノコニーのために粉骨砕身していた。……だが、オーク家はそんな俺達をも裏切った。年を取ったミハイルには「子供」を守る力は残っておらず、子供達はファミリーを裏切って歳を重ねるか、ファミリーに尻尾を振るを選ぶしかなかったんだ。故に、誰もファミリーの中に潜む裏切り者に出くわすことはなかった。ファミリーも対外的には「時計屋」を讃えながら、その裏では彼について裏切り者だなんだと誹謗中傷を重ねていた。俺達も彼の「子供」として、本物の裏切り者を見つけ出し、真の黒幕さえ打ち倒せばこのピノコニーの「調和」は再び息を吹き返すと思っていたんだ。……その先で、どれほど惨めに負けるかも知らずにな」
「負けたってこと?」
「ああ。それも盛大に。夢の地に長い時間を掛けて染み込み続けたそれは、俺を負け犬にするには十分だった。そして俺は今罰として、仲間と過去から決別し、この保安官の仕事をこなしてるってわけだ。そしてミハイルは……誰も知らないどこかで亡くなったらしい。俺はそれを聞いて、ピノコニーがかつての宴の星には戻れないことを理解したんだ」
「……でも、そんなに単純な話でもないんでしょ?」
なんとか噛み砕いて理解した星が尋ねると、ギャラガーは静かにその首を縦に振った。
「どうやら、その「時計屋」を勝手に襲名し、密かにファミリーへの反抗を続けている奴がいるらしい。だが、どれだけ調べようと俺にはそいつの正体が全くつかめない。人間なのかどうかさえな。……それで、俺がどうしてここまでお前らに話したか、分かるか?」
「……もしかして、ホタルの死は「時計屋の遺産」に関係してるってこと?」
「ああ。彼女の殺した黒い靄の先……俺達が探している答えは、そこにある。……もし、これにミハイルが関わってるっていうなら……もう一度、彼の顔を見たい気がする。俺を見下すやつはごまんといるが……俺を対等に扱ってくれる奴は、今やすっかり減ってるからな」
少し物憂げに、独り言のように言った後、ギャラガーは星達の方を向いて「これが、俺の知ってる全てだ」と伝える。それと同時に、鳴る彼のスマートフォンの着信。クラークフィルムランドのスタジオで何か合ったらしく、彼は「お前達の幸運を祈ってる」と言い残してその場を去った。彼は最後に「今蔓延ってる「密航者」と、数琥珀紀前の「開拓者」達は何が違ったんだろうな」と呟いていた。
「やれやれ……ギャラガーも色々と大変な人なんだね……」
「ええ。でも彼のお陰で「時計屋」やファミリー、そしてピノコニーについてはだいぶ話が見えてきたわ。後は……ホタルの行方だけね」
「ギャラガーの話だと……ファミリーも一括りに出来ない感じだった。この銀河打者でもそう簡単には理解できないくらいね」
「ええ。彼の話から考えるなら……本当の裏切り者はオーク家にいるはずよ。ファミリーが隠したがってる「死」についても、彼の話は私達の集めた証拠と一致するわ。おそらく、ホタルは「時計屋の遺産」を追っていたために今回の惨劇に巻き込まれてしまった……」
「ならアベンチュリンが黄泉が犯人って言ってたのはどういうこと?」
「きっと、彼は私達の目を彼女に向けたかったんだと思うわ。そのようなブラフはギャンブラーが得意とすることだもの。意味は……この先で分かるんじゃないかしら」
そして一段落した彼女達は再びヴェルトと合流しようと連絡を送る。すると、ヴェルトは丁度黄泉と共にオーク家の「朝露の館」に向かっているところだと連絡が返ってくる。そして「黄泉さんはこちらの味方だ。俺が保証しよう」という彼のメッセージに、星は「了解」と送り返した。
【おまけ】
「……あらあら、ぐっすり眠ってるのね」
真っ暗なリビングで、カフカは呟いた。そこにはクリスマスパーティーでルアン・メェイから郵送されてきたお手製のケーキなんかを食べた後、ゲーム大会に興じてそのまま寝落ちした三人が川の字になって寝息を立てている。ピノコニーから戻って以来、少しだけ夢を見られるようになったホタルも「こんな時くらいは眠りたいな」とインシァン特製の睡眠薬でぐっすり。そして背後からカフカに「あまり大きな声を出すな」と注意する刃は赤い服に白いヒゲと一般的なサンタさんのイメージに一致したコスチュームを纏って、幾つかの白い袋を担いでいた。
「そうね。起こさない内にプレゼント置いちゃいましょう、刃ちゃん」
「ああ。インシァンは……「スーパーのお菓子が沢山食べたいです」か」
「ええ。味◯糖とかブ◯ボンとか、その一番大きな100Lの袋にパンパンに詰めてあるわ。小さい頃のクリスマスはルアン・メェイと一緒にケーキを作ってたそうよ」
「ホタルは……「プレ◯ンの仮◯ライダーオ◯ズのコンプリートセットをください」……」
「それ、手に入れるのに苦労したの。もう抽選販売も終わってたから、新品探すのに結構お店回ったのよ」
「銀狼が……「マ◯パの新作が欲しい」」
「その小さめの袋よ。ついでに新しいジョイ◯ンも買っておいたわ。喜んでくれるかしら」
カフカと刃は彼女達のプレゼントをリビングのクリスマスツリーの下に置いておくと、切れていたホットカーペットの電源を入れてブランケットを掛け直す。穏やかに眠るその光景は、とても銀河を震撼させる犯罪者集団とは思えないものだった。そして、彼女達はゆっくりと、その眠りを邪魔しないようにリビングを去っていった。
「ふふっ、メリークリスマス」
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