ビルポインターホットラインによると、あの世間を震撼させた「エイジハゾ・アベンチュリン事件」の捜査について極めて大きな進展があり、潜伏していた容疑者がとうとう逮捕されたとのことです。
この事件は今琥珀紀最大の詐欺事件として知られており、スターピースカンパニー、博識学会の垣根を超えた複数のセクションをターゲットとして人的・物的リソース共に甚大な損害を与え、両者に天文学的な損失を与えました。
本事件の容疑者はツガンニヤ-Ⅳ出身であり、なおかつ「第二次カティカ-エヴィキン絶滅事件」の生存者であると見られていますが、星間難民渡航証は確認できませんでした。
カンパニーの発表によると、容疑者の身柄は戦略投資部が確保したとのことであり、戦略投資部責任者「ダイヤモンド」の指示の下に「スターピース憲章」に基づいて容疑者に対して適切な対応を取るとともに、より詳しい調査を行い、その犯行動機等を明らかにしていくとのことです。
「それにしても、本当に綺麗な目ね。教えて、それは夜になると光ったりするの?」
一対一の部屋、少年よりも遥かに長い人生を歩んでいるであろう妖艶な彼女は、底知れぬ笑みを浮かべて尋ねる。少年は表情一つ変えず、「そんなに面白いものだったら、とっくに売り払ってるだろうね」と軽く答えた。
「そう。本当にその瞳が失われていたら、どれだけ多くの人間が喜んだのかしら。それとも、それを知ってて言っているの?奴隷のあなたが主人に反抗するなんて、決して許されることじゃないし、起こるべきことじゃないの。でも……あなたは見事にあの男を倒してみせた。でも、その勇気に答える弁護士なんて宇宙のどこにもいないわ。次はどうするつもりなのかしら」
「そうだね……別に自分で弁護台に立ったっていいけど、それじゃ全くもって意味がない」
「目だけじゃなく、その口にも大層な自信があるのね。博識学会を騙した時も、あなたは同じように思っていたの?」
「まさか。僕は彼等のちょっとした期待に乗ってあげただけなんだ。彼等は完璧な建材を求めてたから、僕はそれを手に入れられる可能性を与えた。僕からしたら、これはちょっとした賭けに過ぎないし、君達からしたら、これはいたって平凡な取引に変わりないはずだ。だから、君達に足りなかったのは運だけだろうね。君達が幸運だったのなら、エイジハゾの砂山は君達に全てをもたらしただろう。それこそ、「
「確かに、あなたの論理にも一定の正当性があるのは認めるわ。でも重要なのはそこじゃないの。私が興味を惹かれているのは、これほど大規模な詐欺が行われたというのに、どうして誰一人として利益を手にしていないのか、ということなの。もちろん、あなたも含めてね」
「そうかい?レディ。本気でそう思ってるって言うなら、それはとんでもない思い違いだ。だって、僕はこうして君と対面するっていうこれ以上ないチャンスを手に入れてるんだから」
「ふふっ、そう。あなたはまだ賭け足りないっていうのね。分かったわ、次の大博打の話をしましょう。教えて、あなたは何をチップにするつもりなの?」
彼女が尋ねると、少年はまるでそれが当然のことであるかのように「僕の命さ」と言い切った。
「もっと簡単に言えば、君が僕のことを処刑台に送り込まないことに賭ける。いや、賭けてるって言った方が正しいかな」
「なら、その賭けに勝ったらあなたは何を手にするの?」
「そしたら、僕を君達の
「その後は?」
「金がほしい」
「そんなに簡単な話なの?」
「ああ。それだけさ。具体的には、30
「中々面白いことを言うのね。でも残念ながら、「ダイヤモンド」には誰にも会えないの。当然、彼の方から誰かに会うこともないわ。だから、私が「ダイヤモンド」に代わって決断を下しましょう」
そして、少しだけの空隙を挟んだ後に、彼女は結論付けた。
「残念ながら、あなたは間違っている。だって、あなたはもっと多くのものを与えられるんだもの。富も、地位も、権力も……カンパニーは、あなたが望む望まないに関わらず全てを与える。その代償として……残念ながら、「カカワーシャ」という名は砂に埋もれてしまうけど……それでも、「あなた」は生き延びる価値があるわ。私達のために、あなたはその幸運で富を生み続けるの」
彼女の言葉を、少年は黙って聞いている。そして不意に伸びた手が少年の顎を持ち上げ、彼の綺麗な目を、彼女の蛇のような目が覗き込んだ。
「さあ、好きな服と好きな肩書を選んで。それが、これからあなたの道標となるの。……あなたの計略がいつまでも露見しないことを祈ってるわ」
◇◇◇
命とは、長い投資のようなものだ。正しい人、正しいこと、正しい結果……多くの選択があり、その結果が自分の価値として世界に示されることになる。大なり小なり、その難易度には個人差があるが、それでも一生正しい選択だけをし続けるなんて、人には到底出来たことじゃない。それでも、運はいつだって彼の味方であり、故に、彼はまだ「負け」の味を知らない。それがもし地母神の祝福だと言うのなら、その三つの瞳の内、一つは常に彼へ向けられているのだろう。故に、彼は必ず「勝ち」を堪能することになる。
けれど、彼には想像が出来なかった。この賭けを越えた先に何があるのか。この博打に勝った次は、どれほどの大博打が彼のことを待ち受けているのか。一回、二回と成功を繰り返すごとに、彼の握るチップは増えていき、気がつけばそれは山のように積み上がっていく。だが、彼はそれをどのようにして失うのか、知らなかった。
「違う。君はその答えに目を瞑って、見ないふりをしてるだけだ。そうだろう?卑しいギャンブラー」
そんな声に意識を戻されて、アベンチュリンは目を開ける。「どういうことだ……?」と困惑の声が漏れると同時に、その影は「はっ」とそれを鼻で笑った。それは、どこからどう見ても、アベンチュリンそのものだった。
「っ……どういうことだ……?僕は夢でも見てるのか……?それとも、ここにきて完全に狂っちゃったのか……」
「分かってるだろ?その両方だよ。それにしても残念だよ、もう僕のことを忘れちゃってるなんてね。イーマニカの軍閥で電気椅子に縛り付けられてた時だってあんなに助けてあげたじゃないか」
「……もういい。僕が狂ってることは認めてもいいが、君を認めるほどガタが来てるわけでもない。さっさと退場してくれ、「調和」の新生児」
アベンチュリンの言葉に、その影、亡霊のようなそれは「そう冷たくするなよ」と鼻で笑う。
「というか「調和」?馬鹿なこと言うんじゃない。僕達はずっと一緒にいたんだ、今更そう突き放す必要なんてないんだよ。僕は君で、君よりも「自分」についてよく知ってる。その望みも、隠した感情だってね。君は今死に直面していて、それでいてまだ汚く無辜の人々を道連れにすることを企んでる……だからここにいるんだろう?それともまさか……盛大なショーなんて、本当に自分に出来ると思ってるのかい?」
「……どういう意味だ?」
「どうもこうも、そのまんまの意味さ。君は全ての人を騙せるかも知れないけど、自分自身だけは絶対に騙せない。それを、僕が証明してあげよう。君が最期の時を迎えるまで……僕は一緒に、その道を歩いてあげよう。だから……歩きながら、ゆっくり話そうじゃないか」
「……待て」
先に歩き出した影を呼び止めるアベンチュリン。「何だい?」とそれは余裕綽々で振り向いた。
「君は……一体、何者なんだ?」
「この世界の人々は、大抵一つの同じ結末に辿り着くように出来ている。僕は、その結果さ」
そしてそれは意地の悪い笑みを浮かべて、彼に言った。
「僕は、君の未来なんだよ……「カカワーシャ」」
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アベンチュリンでかわいそうはかわいいが分かった気がします