星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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全ての■■がある場所に(その3)

「……あ!また会ったね、綺麗な目のお兄さん!」

 

 声を掛けると、その子は嬉しそうに答える。「うん、また会ったね」と頷いた。

 

「……お父さんと、お母さんは見つかった?」

「うん!お姉ちゃんも一緒なんだよ。今、4人でかくれんぼしてるところだったんだ!本当に楽しかったなぁ。あ、そうだ。ここに来る途中、お父さんが「ふるふる映画」?っていうのを見せてくれたんだよ。それも、すっごく面白かった!」

「それは……もしかして「フィルム映画」のことかい?」

「そう、それそれ!そんな名前だったよ!とってもたくさんの絵を並べて、動く壁画みたいにしてるの。僕とお父さん、お母さん、お姉ちゃんを一緒に並べたら家族になるんだよ。よかったら、お兄さんもやってみてね!そんな難しい顔しないで、遊園地は楽しくないと!」

「……ああ、そうだね」

 

 そう頷くと、あの子は再び姿を消す。そして、あの子の気配を追って更に進むとその途中で、代わりにあいつがもう一度姿を現した。

 

「……何のつもりだ?」

「君に、また一段と興味が出てきてね。……ああ、認めよう。僕は、君を完全に理解してるわけじゃない」

「随分と素直になったな」

「ああ。素直さってのは僕の数少ない品性であり、僅かに残った幼心のようなものだからね。でも……そうだな、あそこの迷路が見えるかい?君があそこを出るまでに、僕は君のことを完全に理解してみせようじゃないか。分かってると思うけど……まだ、このスタジオの旅は終わらない。君の走馬灯はまだまだ続く……この道のりは、僕達に構うこと無く伸びてるんだ」

 

 あの子の気配は、いつの間にか少し遠のいていた。直感は「目の前のピンボールマシンに乗り込め」と訴えかけている。それに従って乗り込み、対岸まで道を繋いだ。

 

「わあ……ここ、すっごく高い……!砂漠で一番高い岩よりも、ずっと──」

 

 そんなあの子の声が、迷路の奥から聞こえた。足を踏み入れると、そこには文字が浮かんでいた。

 

「『ここに水はなく、岩しかない』」

「それにお花もたくさん……この紫のお花、お姉ちゃんにあげるね──」

「『石はあるが水はなく、砂利道があるだけ』」

 

 文字と声を追って進んでいっても、その先は行き止まり。「道を間違えたのか……?」と振り返ろうとしたところで、汚れた枷が目についた。再び、あいつの声がした。

 

「何か思い出したのかい?」

「君には関係ない」

「ならヒントをあげるよ。これは君に嵌められていた枷だ。あの男が、君に与えた最初の「仕事」、君が稼いだ最初の金……まさか、忘れたわけじゃないだろう?君は、僅かな痛みを堪えながら、冷たい鉄の鎖を何重にもその拳に巻き付けたんだ。それは君が初めて見つけた、たった一つの「道具(武器)」だった。そして、あの迷路の中で君は……」

「……黙れ」

「へえ……そんなにあの過去が怖いのかい?それとも、自分の命がたったの60赤銅コイン(タガンバ)であると認めたくないのかな?……いいや、違う。僕が思うに、君がそれを直視できないのは……それが、君が弱いということを証明してしまうから……」

「弱い奴が危険を冒すのか?」

「ああ、確かに、君は危険を冒すのが大好きだ。でも……君は失う勇気がない。この美しい夢でだって、君は自分を殺す勇気、彼女達に殺してもらう勇気しかなかったじゃないか。君じゃなければ、彼女達も、星穹列車も、ファミリーだってもっと上手く使うことが出来た。君がそれらに手を付ける勇気さえあれば、今こんな状況には陥ってない。違うかい?」

「確かに、君の言う小細工(イカサマ)は一番手っ取り早い手段かもしれない。でも、僕はそれが出来ないんじゃなくて……あえて、それを選ばなかったんだ。この意味が分かるか?分からないなら教えてあげるよ。……「不公平」な勝負は、面白くないからさ」

「この期に及んで「公平」……ははっ、まるで君自身は「公平」な状況にいるとでも言いたげだね。状況はどこの誰に聞いたって君の不利だと口を揃えるだろう。一体その余裕はどこから来てるんだい?それとも、彼女達がそれをくれたって言うのか?」

「ああ。その答えは、全ての答えだった。それこそ、全てを覆せるくらいのね」

「全てを覆す……へえ、面白いね。つまり君は……このテーブルの全てを消し飛ばすつもりってわけか」

「……それは、反則だろう」

 

 そう答えた時には、その姿はもうすでにどこかへ消えていた。入れ替わるように、あの子の声が聞こえた。

 

「この葉っぱを持って帰ったら……新しい花が咲くのかな──」

「『水があるなら、立ち止まって飲むだろう』」

「『岩の中で、どうして立ち止まって考えられるだろうか』」

 

 そして、迷路の中で、金色のお守りを見つけ、拾い上げた。再び痛みが一瞬、鋭く増す。

 

「っ……」

「実に形容し難い顔をしているね。母さんが君に残したこのお守りは純金で出来ていた。これを売れば、君と姉さんはしばらくの間は人並みの、不自由しない生活を送れたはずだろう?なのに、どうして売ろうと思わなかったんだ?今思えば、愚かな選択だったと言わざるを得ない」

「母さんは僕達に2つのアクセサリーしか遺してくれなかった。1つはネックレス、もう1つがお守り。これだけだ。3つ目なんてない」

「ああ、君はいつもそうやって振り返るけど……本当は、後悔でいっぱいなんだろ?「売れば良かった」ってね」

「今するべき話じゃない」

「しかたない、分かったよ。ところで、君はちゃんと、あの時姉さんが言った言葉は覚えているかい?「あなたは地母神の祝福を受けた子で、地母神の目に入った子。あなたなら、きっと一族を幸福へと導けるわ。だから、苦しみや貧困を憎まないで、ちゃんと自分のことも大切にして……」、君は大層なお姉ちゃんっ子だったから、絶対に忘れたりはしないだろう。それこそ、姉さんの最期と同じようにね」

「……」

「背後から聞こえる、心身を引き裂くような笑い声……血みどろの刃の香り……「振り返らないで」という姉さんの言葉……傷だらけで走り続けた雨の砂漠……その全てがどうしようもない鮮明な記憶で、君の一生の後悔だ」

「いい加減にしろ……他に話題はないのか?」

「ははっ、また話を遮られた。君は本当に分かりやすくて助かるよ。……ああ、やっと君の考えが理解できた。どうやら、君は本物の「イカレ」らしい。だって、君の主張は……「最後にはこの美しい夢を引っくり返して、最も盛大な「死」を創り出そう」……本当に、これだけなんだから。最初から最後まで、徹頭徹尾、何も変わってない。あの星核との出会いから始まり、声を失ったロビン、「虚無」の巡海レンジャー、2つの殺人、サンデーの審問、二人の協力者……その全てにおいて、君が興味を抱いていたのはたった1文字。そしてそれはようやく君の手に転がり込んできた……、……でも、それは本当は誰のための「死」なんだろうね?」

「それを知ってるのはサイコロだけだ」

「はっ、良いね。じゃあ、僕の分の観客席まで用意しておいてくれ。僕も君のお手並み拝見と行きたいところだからね。……ああ、その前に聞いておくことがあったんだ」

 

 少し溜めて、それは言った。

 

「もし、もう一度全てをやり直せるとしたら……君は、また「地母神」の祝福を受けたいと思うかい?」

「……」

 

 そして、それは消えた。あの子の声も聞こえない。恐ろしく静かだった。

 

「『脚が砂に埋まる』」

 

 そんな言葉を通り過ぎると、そこはようやく迷路の出口だった。ピンボールマシンへ繋がるレッドカーペットの上で、あの子の声がした。

 

「もう帰っちゃうの?でも……僕はまだここが良い──」

 

 再び、あの子の気配が離れる。目の前には、ピンボールマシン。躊躇いなく乗り込んだ。

 

「……あ、お兄さん!」

 

 その先には、今度は声ではない、本当のあの子がいた。

 

「なんでか分からないけど、お兄さんを見てるとすっごく不思議な感じなんだ。興味が湧いてくるっていうか、すごいムズムズするっていうか……もっと、お兄さんのことを知りたかったのかも。でも、僕達ももうお別れしないと……あ、そうだ。お兄さんはこの遊園地を楽しめた?」

「……君は、もう帰ってしまうのかい?」

「うん。暗くなってきたし、雨も降ってきそうだし。これ以上待たせたら、みんなも心配しちゃうだろうから」

「……君の家は、どこにあるんだ?」

「お兄さん、変なことを聞くんだね。家はお父さん、お母さん、お姉ちゃんがいる場所……この夢だよ」

「……」

「この遊園地……この夢は、とっても穏やかなんだ。だからきっと、みんなこの場所が大好きなんだと思う。でも……お兄さんは、あんまりこの場所が好きそうには見えないよ。どうして?」

「……彼等が、ここにいないからさ」

「じゃあ、彼等はどこにいるんだ?」

 

 その質問には、「分からない」と答えるしかなかった。しかし、それは「分かってるくせに」と笑う。

 

「君はその答えに意味がないと思ってるだけだ。認めるべきだよ、君は疲れてるんだ。……いや、僕達は疲れてしまっているんだよ。だから、ここに残ろうとしてるんだ。彼も、僕もね」

「……」

「もう分かってるだろ?僕達は君なんだ。僕が君の「未来」、彼が君の「過去」としてね」

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