「あなたが黄泉ね。ヴェルトから話は聞いてるわ」
「はじめまして、私は姫子。星穹列車のナビゲーターよ」と自己紹介する姫子。それに続いて二人も黄泉に自己紹介する。
「ウチは三月なのか!星穹列車のナナシビトだよ!」
「改めて、私は銀河最強のバット使い、銀河打者だよ」
「あんた……そもそも初対面じゃないでしょ?」
「ああ、そうだな。彼女とは、すでに何度か会っている。しかし……本当に、あなた達に同行しても良いのか?」
「ええ、問題無いわ。ヴェルトがあんたを信頼してるっていうなら、私達もヴェルトの判断を疑う理由なんてないもの」
「黄泉さんは決してピノコニーを脅かす危険分子でなければ、星穹列車の敵でもない。恐らくだが、アベンチュリンさん達が彼女のことを一方的に犯人扱いしていたのは全く別の思惑があってのことだろう」
「なら、あいつに話を聞かないとね」
「最悪答えはこのバットが教えてくれるよ」とお気に入りのバットをブンブン振り回しながら言う星。ヴェルトも「あまり外で振り回さないほうが良い」とたしなめつつも、彼女の方針に賛成した。
「彼の行動には、常に明確な論理が存在するように思える。星が言っていた話を考えるに、彼は俺達よりもずっと深くこのピノコニーの真実に迫っている可能性はかなり高い。わざわざ黄泉さんが犯人であるというミスリードを強調したのも……俺達が手を組むように仕向けるためだったのかもしれない」
「待って、ってことは今もウチらはアイツの手のひらの上ってこと?!」
「そう判断するのはまだ早いわ、三月ちゃん。でも、彼と会うべきであるというのは間違いないわね。彼の計画の中で、私達星穹列車がどのような位置付けにあるかは重要になってくると思うのだけど」
「ああ、姫子の言う通りだな。万が一だが、彼の計画が俺達と対立するものである可能性もある。決して気を抜くべきじゃない」
「やれやれ、ベロブルグやら仙舟よりもだいぶ複雑だね。自慢じゃないけど、この銀河打者は複雑な話が苦手なの。とっととバットで解決しよう」
「あんたまたそういうことばっか言って……ま、今必要なのはそういうシンプルな考えなのかも。ピノコニーの危機には変わりないんだしさ!」
「ええ。恐らく「時計屋」に近づくには、カンパニーの情報は少なからず助けになる。たとえ目の前に多くの危険が潜んでいたとしても、その道を恐れずに進むのが「開拓」でしょう?」
「……どうやら、方針は決まったようだな」
「黄泉さんはどうする?」とヴェルトが尋ねると、彼女は「ありがたく同行させてもらう」と静かにその首を縦に振った。
「じゃあ、早速行こう!……って言っても、どこに行けばアイツに会えるのかな?」
「そう焦る必要は無いわ。もし何かを企んでる人がいるとすれば、必ずその人は私達を巻き込もうとするはずだから」
姫子がなのかにそう言った、その瞬間、まるで街中のスピーカーがジャックされたかのように、聞き覚えのある盛大な声が響いた。
「『レディース・アンド・ジェントルマン──』」
「『ピノコニーの歴史上、最も驚きに満ち、最も盛大なショーが、まもなくその幕を開ける──』」
「『スターピースカンパニーが、クラークフィルムランドの舞台で皆様に史上最大のサプライズをもたらすでしょう──どうぞ、目の前で伝説をご覧下さい!』」
その放送に「ほらね」と姫子は微笑みを崩さずに言う。
「ショーは役者だけでも、観客だけでも成立しないわ。その2つが揃って初めて、アベンチュリンさんの仕掛けが動き出すの」
「……行こう、皆。俺達の「開拓」を示す時だ」
「うん、やっとウチらの本領発揮だね!」
「星穹列車、クラークフィルムランドへしゅっぱーつ!!」
そう言って、星を先頭にしてクラークフィルムランドへ向かう星穹列車一同。その途中、黄泉が「少し良いだろうか」とヴェルトを呼び止めた。
「どうかしたのか?」
「……あなたは、なぜ私が「虚無」の道を歩む者だと、彼女達に伝えなかったんだ?」
「伝えなかったんじゃなくて、伝えられなかったんだ。君の話を包み隠さずに彼等に伝えるには、あまりにも時間が足りなかった。だが、俺は俺の個人的主観によって、君を信じたいと思っている。そして、そう思うのは俺だけでは無い。きっと、彼女達でも同じような選択をしたと、俺は信じている」
「……ありがとう。これは、私からの敬意と感謝だ。もし、この先に星穹列車に助力が必要になったのなら……私は、必ずあなた達の力になる。微力ながら、その「開拓」の手伝いをすると約束しよう」
◇◇◇
「『「主役は遅れてやってくる」なんて言うけど、それにしたって随分待ったよ、星穹列車の諸君。まさか「招かれざる客」までついてくるとはね』」
星穹列車がクラークフィルムランド中央のステージに姿を現すと、その会場のスピーカーから彼の声が響く。星穹列車の代表として、姫子が答えた。
「お望み通りに来てあげたわ、アベンチュリンさん。あなたも姿を見せるのが礼儀ってもんでしょう?」
「『ああ、全くその通りだ。でも、その前に……観客の皆に、今夜の主役を紹介しようじゃないか──』」
そして少しの間をおいて、それは高らかに告げた。
「『皆、彼女を拍手で迎えてくれ──星穹列車の「星核」ちゃんを!!』」
「わぁ……!!お母さん、私テレビに出たよ!!」
「あんた……」
「彼女の正体はこのステージや君の計画に関係があるというのか?」
「『そうさ。もしそうじゃないなら、僕がどうして君達の信頼を得ようと奮闘したり、このステージを設けて君達を招待したりする必要があると思うかい?答えは簡単さ──その「星核」ちゃんこそ、このピノコニーにおける3つの殺人全ての唯一の目撃者にして、ファミリーが謳う「夢には怪我や死は存在しない」という御高説を高らかに打ち崩す張本人だからさ!』」
「……待って、今「3」って言った?」
「『ああ。その3件目の殺人は、間もなくこのクラークフィルムランドで巻き起こる……このピノコニーで「最も盛大な死」がね。君も、君も、君も、君も……ここにいる全ては、等しく死に至る。そしてそれは──「星核」ちゃん、君のせいだ。君は、この夢における「真犯人」になってもらう』」
「どうやら、この銀河打者の力を良く分かってるみたいだね!そこだけは褒めてあげる、アベンチュリン!」
「『過小評価なんてしないさ。君は文字通りに、全てのテーブルをひっくり返すには十分すぎるほどの力があるんだから……。ああ、そうだ。具体的なやり方を教えてあげよう。僕は、これから君の体内に埋め込まれたその星核を爆発させようとしてるんだ。もしそうなれば……ボン!この美しい夢はあっという間に焼け落ちた破片に成り果てる。その欠片を拾い集めるのはカンパニーの仕事になるだろうね』」
「虚勢、だな」
「それが出来ると言うなら、いつでもそう出来ただろう」と口を開いた黄泉。アベンチュリンは「『良いね、僕相手に賭けるなんて』」と笑い混じりに答える。
「『なら、僕も賭けるよ。無論、自分の大勝利にね。史上類を見ない大爆発は、「調和」ごとファミリーまで致命的に巻き込んでしまうだろう』」
「……あなたには、出来ない」
「『やってみせるさ。これは、僕の人生における数多の賭けの一つに過ぎないんだから。……僕は、ツガンニヤの砂漠からここまでやってきた。たった60枚の銅貨で売られた僕は、焼印、枷、磔と為されるべきことは全て為され、その上で砂の中に埋められた。でも、僕はまだ死んでない。なんでか分かるかい?そう、僕は「偶然勝ってる」んじゃない「必然的に勝ち続けた」んだ。たった一度の負けもなしにね』」
「この私といい勝負だね、アベンチュリン」
「『光栄だね。それと、君達にとあることわざを紹介しておこう。「睡眠は死の予行演習である」、奇しくもそれは「時計屋」の「生命体は、何故眠るのか」という質問に通じる。だって……僕達は、まだ誰も「死」を迎える準備が出来ていないからさ』」
そして、僅かにスピーカーが減り、引き換えにほんの少しの彼の声が混ざる。
「『皆、もうゲームは始まってる。君達は断れない──』」
「『断る理由がない』」
「『そして、その余地もない──』」
その瞬間、ステージを照らしていたライトが消え、スクリーンに彼の顔が映った。星穹列車の面々は、反射的に自らの手にそれぞれの武器を構え、目の前の「敵」に備える。
「『賽は投げられた──さあ、僕達のゲームを始めよう。言っておくけど……そんな建創者のクズ石なんかじゃあ、僕は負かせない』」
「『無駄なことだ』」と画面の中のアベンチュリンがサイコロを振るうと同時に、彼等の目の前に正十二面サイコロ三つが転がされた。1つはスペード、1つはスペード、そして最後もスペード。その絵柄は、目の前にそびえる巨大なスクリーン3つにそれぞれ打ち出された。「『賭けよう。このゲーム、僕が勝つ』」とそれは宣言する。
そして、その絵柄が揃った瞬間、それは姿を現した。彼女達の知る彼であり、知らない彼。その身体に砂金石とスペードの装甲を纏い、その顔をまるまる覆う仮面。その手の上には、無数の亀裂が奔った「基石」が浮かんでいたが、彼はそれを無慈悲に握りつぶす。それとともに、その装甲の装飾に光が満ちる。
「オール・インといこう!!僕は「死」をも乗り越え、全てに勝ち、全てを手に入れる!!そして全てを──琥珀の王に!!」
そして、吹き荒れる金色。かくして、カンパニー戦略投資部「十の石心」アベンチュリン──否、「博戯の砂金石」は、己が全てを賭して彼女達と対峙した。